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 他にも宍戸篤で検索すると、いろいろな憶測などが出てきた。




「宍戸篤 一家心中」

「時系列順から、おそらく家主の宍戸研一が縊死。次に妻むつ美が背中を鋭利な刃物で数カ所刺された。次に長女千咲が喉を切ったと見られる。これらの死に関与していると思われる長男篤は心神喪失状態で発見された。検視の結果、研一、千咲は自殺、むつ美は他殺と言われている」




「死体 家族団欒だんらん?」

「宍戸篤は、父親、母親、姉の三人を食卓の椅子に座らせて、数日間生活していた痕跡があった」




「精神病 心神喪失 嘘 無実」

「宍戸篤に精神疾患はない。しかし、事件発見後の宍戸は心神喪失状態にあったという。筆者はそれは虚実であり、真実ではないと考えている。しかし、弁護側の一方的な主張が通り、宍戸は無実となった。」




「大量殺人鬼 野放し」

「福岡市a市b区c町にある、戸建て宍戸邸。そこの住人、宍戸一家が惨殺される事件があった。生き残ったのは長男の宍戸篤。犯人は別におり、今だ捕まっていない。警察は何らかの圧力によって捜査を終了し、事件は闇に葬られた。」




「宍戸篤 首吊り自殺」

「臼井家皆殺し事件のその後。八年の入院後、回復したとされて、退院。即日、臼井邸にて首吊り自殺した。遺書には、完璧な家族になる為やむを得ないとあったらしい。」




 他には、虎ロープの家に行ってみたという要旨の動画がいくつもあり、そのうちの一つ、「バリバリよかろーもんチャンネル」にアップされていた、「虎ロープの家で一人かくれんぼしたら、鹿児島本線高木さんが行方不明になった」というタイトルの動画が、異様に気味が悪かった。


 後は個人ブログの記事がずらりと表示された。


 あの空き家の押し入れに入って、怪異に見舞われる話はより興味をそそられた。


 なぜなら、自分自身も押し入れで奇妙な体験をしたし、舞美さんも押し入れでおかしくなっていた。


 宍戸篤という青年は、一家心中を境に錯乱して、精神病院に入院していた。落ち着いた頃合いで、一年後に退院したその足で臼井一家を皆殺しにした。臼井家家族の遺体と一週間以上生活したと、篤の異常性を喧伝するサイトもあった。


 いくら非情な経験をしたとは言え、篤のしたことは酸鼻を極めている。


 ふと、あの家族写真が頭を過った。


 そうか。あの写真は、宍戸家一家の家族写真なのだ。


 母親、姉、篤、父親? 父親が写真を撮ったのか? いや、そうしたらあの足の裏は誰のものなんだ?


 だいたい、あの写真を撮るには、リビングとダイニングが画角に収まらねばならない。広角レンズを使ったような映り方ではなかった。


 私はメモ帳を取ってきて、覚えている限り、リビングの間取りを書いてみた。一直線に線で結び、そのまま押し入れの辺りまで線を引いた。


 直線上に、押し入れとリビングとダイニングがあった。嫌な想像をする。撮影者は、押し入れに入って、家族全員が画角に収まるようにしたのだ。


 宍戸家の一家心中の解説の中に、父親だけリビングの照明に紐を括り、首吊りをしたとあった。その後、家族写真を撮ったのだろう。


 背筋に冷たいものが走り、鳥肌が立った。


 あの家族写真は遺体といっしょに撮ったものなのだ。どうやって撮ったかは想像するしかないが、三脚を使って撮ったのかも知れない。


 この手のインスタントカメラには、被写体にオートフォーカスするといった機能があることが分かった。しかし、二つの距離の違う被写体が画角に入ると、オートフォーカスが出来ないことがあるらしい。


 だとしたら、ぶれもせず、奥の家族にピントが合っているのは、ある意味、カメラマンの技術が高いと言える。ただ、それをタイマーにした状態で写せるのだろうか。

 これ以上はカメラの知識に乏しい私では分からなかった。


 論理的に証明できなければ、第三者がいない、誰が撮ったか分からない写真が存在することになる。


 それは、私があの家族写真を気持ち悪いと思った不自然な点の一つかも知れない。


 ただし、高校生の私に、これだけの情報が家族写真の裏にあるのだとは、想像も出来なかった。


 関わらないほうがいい。これ以上は調べないほうがいいのだ。そう言うものは確実に存在する。


 私はノートパソコンをシャットダウンして閉じた。


 母はぼんやりとテレビを見ている。時計を見ると、四時を過ぎていた。慌てて母に付き添ってトイレで用を済ませて、食事の準備に取りかかる。


 ずっと静かにスマホを見ている隼也に目をやる。何に夢中になっているのか、興味が湧いて、側に寄った。


「何、見てるんだ?」


 すると、隼也がスマホを手渡してくれた。


「いつの間にこんなアプリを入れたんだ?」


 このスマホに入れた覚えのないアプリに戸惑いながら、画面を見ると、そこに見覚えのある写真があった。


 十八年前、先輩がSNSにアップした、あの家族写真だ。慌てて、タップしてアカウントを調べたが、知らないアカウントだった。


 写真は静止画ではなく、わずかに動いている。今はアプリで写真が揺らめく加工が出来るものもある。しかし、たとえそういったアプリ加工であっても、そのヌルヌルとした動きは反対に気味の悪さを抜群に感じさせた。


 しかも、いいねやリポストが、信じられないほど付いている。投稿日時を確認すると、十八年前の投稿だった。


 削除したくても、知らないアカウントの投稿なので、ログインしたくても出来ない。私は、運営が削除してくれることを祈りながら、投稿を通報した。


 その後すぐに、隼也があの写真を見ることがないよう、スマホからアプリを削除したのだった。

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