(14)
お姉ちゃんは助産をしたことがないお母さんに出産を手伝って貰ったせいか、あまり具合が良くない。
授乳も出来ないから、胸が張って痛いと泣いた。赤ちゃんが戻らないことを告げた日は、這うようにして部屋から出て、お母さんに掴みかかって暴れた。
「私の赤ちゃん、返せ!」
泣きながら、お母さんを殴りつけるけど、出産で体に負担がかかってるから、結局は貧血を起こしてへたり込む。下半身からの出血もあった。
食事も思うように摂れないから、頬がやつれてきた。ぼくはお姉ちゃんが好きなものを頑張って手作りして食べさせたけど、気持ち悪くなるのか、吐いてしまう。
伏せっていることが増えた。起き上がる元気もなく、ずっと泣いている。
「病院に行こう」
お姉ちゃんに促すけど、お母さんが邪魔をする。
「千咲は大丈夫。横になって、栄養のあるものを食べてたら良くなるから。お母さんは二人を産んだけど、特に病気もしなかったから。それより、全身のチャクラの働きが滞ってるから、気を当ててみるわね」
お母さんが寝ているお姉ちゃんの額や胸、おなかに手をかざす。
「徐々に温かく感じるはず」
そんなことを言うけど、お姉ちゃんは余計に辛そうな表情を浮かべた。
ぼくはどうにかしてお姉ちゃんに元気になってほしかった。ベッドに横になって思い出したように涙を流す、お姉ちゃんの痩せて細い手を握りしめる。赤ちゃんを奪われたお姉ちゃんに、ぼくは元気を出してとか、絶対に言えない。ぼくよりもお姉ちゃんのほうがずっと深く悲しんでいると思うからだ。そうすると、お母さんが憎くて堪らなくなってくる。
お姉ちゃんはしゃべる元気もない。だから、お母さんのお父さんを産めと言う言葉に反発すら出来ない。
お姉ちゃんに少しでも栄養を摂ってもらいたくて、スタミナが付くものや消化にいいものや、鉄分を多く含んでる野菜なんかを使って、美味しいものを作る。それしか出来ないから、悔しくて仕方ない。お姉ちゃんが心から望んでいることを叶えてあげたい。
あれから、二回、乳児院に行ってみたけど、門前払いされた。ぼく達の赤ちゃんがどんな親に貰われていったのかすら分からない。泣きたくなった。でも、ぼくはお姉ちゃんの為に強くならないとだめだ。今は、お母さんをお姉ちゃんに会わせないようにするのが精一杯だった。
ぼくが出掛けるときは鍵をかけるように、お姉ちゃんに頼んで、毎日買い物に行く。
リビングで、お母さんが液体になったお父さんと会話している。
「あなた、もうすぐあなたの体を作るわね。今度こそ、素敵で完璧な家族になろうね。みんな仲良くして、お互い慈しみ合うようなそんな家族。前はうまくいかなかったけど、今度こそうまくいくから」
ぼそぼそと話しかけては、クスクス笑っている。
泥のように溶けても、お父さんはぼく達家族をどん底に陥れてくる。生きてても高次元の存在になっても変わらない。
黒い怖いヤツは、今もこの家を
お姉ちゃんが心配だから、家までは早足で帰った。少しでも長くお姉ちゃんの側にいてあげたい一心で、用事をさっさと済ませて家を目指した。
ガラスの格子戸を引いて、玄関に入る。いつもならお母さんが大きな声で呪文を唱えているはずなのに、やけに静かだ。
ぼくはお姉ちゃんの部屋にまず寄った。鍵がかかってなくて、部屋にお姉ちゃんはいなかった。
「お姉ちゃん?」
トイレに立ったのかと思って洗面所に行ってみたけど、お姉ちゃんの姿はなかった。
珍しくリビングに行ったのかなと思いながら、引き戸を開く。
入ってすぐ、お母さんが床に倒れているのが目に入った。床には赤黒い液体が広がっている。嫌な予感がしてお姉ちゃんを探したら、ソファにお姉ちゃんが座っている姿が見えた。ソファからちょこんと後頭部が見えている。
「お姉ちゃん、何があったの」
ぼくは慌ててソファに回り込んだ。
お姉ちゃんの姿を見て、ぼくは叫んだ。
「お姉ちゃん!」
ソファに座ったお姉ちゃんの首から血が溢れている。さっき包丁で切ったのか、ぴゅっぴゅっと血が吹き出していた。
ぼくは慌てて両手でお姉ちゃんの首に押さえつけた。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
必死でお姉ちゃんを呼ぶけど、うつろな目に光はなかった。どんどん目の瞳孔が開いていき、血飛沫が止んだ。
だらりと投げ出された手に包丁が握られている。包丁の刃全体に血がこびりついていた。お姉ちゃんの首から、ゆっくりと外した手は血だらけだった。
首が真っ二つに裂けていた。思い切り包丁の刃を首に当てて引いたのか、気管支まで刃が到達したようで、お姉ちゃんは口から血の泡を吐いていた。
ぼくの目から涙がポロポロ流れ落ちた。
お姉ちゃんの血だらけの膝に顔を
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