第3話

そして同時に自分がしてしまった行為がどれだけ重大な事だったのかを理解した。

確かに、彼らの言う通り通報すれば私の犯している罪もバレてしまい私は間違いなくアカウントを凍結され二度とこの世界で生活できないだろう。

いや、アカウント凍結以上に重い罪として裁かれるに違いない。

永久にこの世界とは隔離されてしまうかもしれない。

その時、私はこの世界に生きる資格を失うのだ。

まだ私にはやらなければいけないことがある。

だから、ここで終わるわけにはいかない。

「わかった……教えるわ」

私は覚悟を決めてそう言った。

「おっ、意外とあっさり教えてくれるんだな」

そう言って男達は感心したような表情を浮かべた。

「もちろん、教えるわ。でもその前に……」

私は彼らに向かってこう言った。

「取引をしましょう」

そう言うと男達は怪訝そうな顔をした。

「取引だ?一体どういうことだ?」

「まず、あなた達が私を脅して手に入れようとしているアカウントは本物じゃないわ」

私の言葉を聞くと男達はハッとした様な表情をした後、私にこう尋ねた。

「おい、まさかお前……複数のアカウントを持っているのか!?」

彼らは驚きのあまり言葉を失っていた。

驚くのも無理はない。

何故なら、本来であればこの世界では産まれたときに埋め込まれるサスティナブルデバイスに一つのアカウントしか紐づけられないのはもちろんのことアカウントの作成も一人につき一つと政府により定められておりセキュリティ上複数のアカウントを所持することはできないはずなのだ。

そんなことができるのは……

「そうよ、私は複数のアカウントを所持してる。だから、そのアカウントは貴方たちにあげるわ。ただ、その代わりにお互いのそれぞれの不正の件は黙っていることと今後一切関わりを持たないこと、それでどう?悪い話ではないと思うのだけど。」

男は少し考えた後こう答えた。

「なるほど、話は分かった。だがそれは流石に無理だ。そんな話信用できねぇ。どうせハッタリだろ?第一どうやってアカウントを持っている数を誤魔化すんだ?」

「疑ってるようだけど事実よ。それについては答えることはできないわ。ただ嘘はついていないとだけ言っておくわ。信じるか信じないかは貴方達次第よ。」

そう言って私は相手の反応を待った。

暫く沈黙が続いた後、リーダー格の男がこう言った。

「分かった、その取引は受けよう。ただし、実際にそのアカウントを持っている証拠が欲しい。」

「いいわよ、取引成立ね。じゃあこれを見てもらえるかしら」

そう言って私は自分のサスティナブルデバイスから男達に、所持しているアカウントのいくつかのリストとパスコードのデータを送った。

するとそこには複数のアカウント情報とID、6桁のパスコードが書いてあった。

男はそれを見て呟いた。

「確かに複数のアカウントがあるみたいだな……だが、なんでいくつもアカウントを持っているんだ?」

「それは言えないわ。ただ、これだけは言っておいてあげる。今の私はこの世で二番目に特別な存在なのよ」

「へぇ、そりゃ凄いな……おっと、もうこんな時間か。そろそろ帰らねぇと」

時計を見ると針は午後4時を指していた。

窓の外を見ると既に日は沈みかけていた。

男は帰ろうとするが私は引き止めて言った。

「ちょっと待って、最後に質問させて。このシステムの穴に一体いつどうやって気付いたの?」

男はこう答えた。

「あるルートからの情報だ。詳しくは言えねぇがな。だが、分かったところで手出しできねぇよ。何せ俺たちに協力してくれるのはそのシステムを作った政府の人間だからな。だから俺たちは自由に好き勝手やれるってわけさ」

そう言って彼らは帰っていった。

(なるほど、この国の上層部ね……)

それから、私は暫く考えたが答えは出なかった。

(まぁいいわ、今日はもう疲れたから家に帰って寝ましょう)

こうして私は家に帰ることにした。

これが私の運命を大きく変える出来事になるなんてこのときはまだ知る由もなかった。

翌日、学校へ行くとクラスメイトの女子達が何やら騒いでいた。

私は不思議に思いながらも自分の席についた。

すると、一人の女子が私に気付き話しかけてきた。

「おはよう、美亜ちゃん」

彼女は私のクラスメイトで親友の結城綾乃だ。

「おはよう、綾乃」

「ねぇ、知ってる?昨日のニュース見た?」

そう言って綾乃は興奮した様子で話し始めた。

「ニュース?あぁ、そう言えば昨日は疲れてて帰ってすぐ寝たから見れなかったのよね……教えてくれる?」

私がそう言うと綾乃は私の話を遮ってこう答えた。

「あのね、最近話題になってる謎のアカウント不正利用事件なんだけど……」

そこまで言ったところで綾乃は急に黙り込んでしまった。

不思議に思い綾乃の顔を見ると何故か青ざめていた。

「綾乃?どうしたの?」

心配しながらそう聞いた後、今度は男子達が騒がしくなり始めた。

「おい、それってあの都市伝説のアカウント不正利用事件のことか?」

「あぁ、そうだ。確か、あるシステムの穴を突いて不正にスコアを獲得する方法があるとかないとかって話だろ?」

「確か、そのシステムの穴ってのが、政府がわざと作ったものらしくて俺たちじゃどう頑張っても絶対に見つけられないらしいぜ」

「マジかよ、それってヤバくね?」

そんな会話が聞こえてきた。

(システムの穴……それってまさか……)

昨日のことを思い出していると、綾乃が怯えた様子で私にこう言ってきた。

「美亜ちゃん……私のアカウント……ログインできなくなってる……」

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@ahiu_085p 野村アルモン @nomuraarumon

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