第2話

まずは彼女のアカウントのIDを確認して居場所を探さなければならない。

そう考えた僕は、手を掴まれたあの時の流れ込んでくる感覚の中に彼女が持っているIDも一緒に頭の中にイメージとして入り込んできたのを思い出し、自分の身体に埋め込まれているサスティナブルデバイスのID検索機能欄から入力した。

良かった。

凍結されていても検索機能は使えるみたいだ。

すると彼女の位置が頭の中に浮かんできた。

どうやら学校からは出ていないらしい。

位置情報は2Fの図書室を指していた。なんでそんなところに…

とりあえずそこへ向かうべきだろう。僕は急いで今いる5Fの教室から図書室へと向かった。

「はぁ、はぁ」

息を切らしながら僕は図書室の扉を開いた。

図書室内には本棚が列になっており、中には沢山の本が置かれていた。

そんな本棚の間を歩き回りながら探していると見覚えのある姿を見つけた。図書室の隅にあるテーブルに彼女が座っていたのだ。

「はぁ、はぁ、いた!ねぇ、ちょっと!!」

僕が彼女に声をかけると彼女はこちらへと向き直り、何食わぬ顔をしてこう答えた。

「……何かしら?」

「ねぇ、さっき僕にしたアカウント凍結の解除方法を教えてよ。困るんだよ、このままじゃ」

僕がそう言って詰め寄ると彼女は少し怪訝そうな様子を見せた後にこう答えた。

「……それは出来ないわ。だって、さっき言った通りあなたみたいな人がこの世界で生きていけるとは思えないから」

「どうして?僕だって普通に生活していくことができるはず……」

「無理ね。この世界に生きる資格の無いあなたのアカウントを凍結した理由、それは『悪意』よ。あなたは明らかに私利私欲で人を傷つけようとした。それでアカウントを凍結したの。あれは不正な行為、決して許されてはいけないわ」

彼女は僕の目を真っ直ぐ見てそう言った。

(悪意?僕が一体何をしたって言うんだ……)

「それは誤解だ、僕は何も悪い事をしてなんかいないよ!第一、君に何の権限があってそんなことを!」

「いいえ、嘘よ。あれは悪意以外のなにものでもないわ。あの時あなたは……」

そう言って彼女は僕が過去犯したという罪について説明しだした。

ある放課後、帰宅しようと急いでいた私はある違和感を感じた。

自分のサスティナブルデバイスから自分のアカウントにログインできないのだ。

(なにこれ……まさか…?)

不思議に思いログイン画面からIDを入力しつつ自宅へと走っていると、前から三人の男達が近づいてきて私にこう言った。

「おい、お前俺たちの女になれ」

「え?どういうことでしょうか……」

突然のことに戸惑う私を他所に男の一人が続けてこう言う。

「なぁ、いいだろ?俺達さ、ちょっと頼みてぇことがあるんだよなぁ。手伝ってもらえると助かるんだけどよぉ」

「何よそれ、意味わかんない」

「まぁ、別に良いんだけどな。無理矢理やらせて貰うからよぉ」

そう言うと男たちは私に近づいてきた。私は咄嗟に逃げ出したがすぐ追いつかれ捕まってしまった。

「放して!」

そう叫ぶ私の口を塞いで男達はこう言った。

「なぁ、別に大したことじゃねぇよ。ちょっとアカウントを使わせてもらうだけだ。」

「ほら、これを見てみな」

そう言うとリーダー格の男が私に自分のサスティナブルデバイスを通して頭にイメージを送ってきた。

「!?」

(私のアカウント?なんで……)

そこには私のアカウントと思わしきプロフィールが表示されていた。

「俺達さ、欲しいものがあるんだけどそれを買うためにスコアが必要なんだわ」

「だからよぉ、お前んとこのアカウントを使ってスコアをちっとばかし分けてもらおうと思ってな」

「でもよぉ、セキュリティの問題で本人が最初に設定した6桁のパスコードを入力しないといけねぇんだわ。」

私は困惑した。

自分のアカウントが勝手に使われていることもそうだがそれよりもまず、自分以外のサスティナブルデバイスが自分のアカウントにアクセスしようとしても必ず弾かれるようになっているはずなのだ。

それなのに何故…

「何故、アカウントにアクセスできたのかって顔だな。なんでだと思う?」

そう聞くと男は不敵な笑みを浮かべ、こう続けた。

「へへっ、そりゃ簡単な話だ。お前、昨日までアカウントを凍結されてただろ?そのせいで一時的にサスティナブルデバイスとの通信と紐付けが解除されていたからなのさ。再ログインの際にはまた再設定しなおす必要があるからな。」

「あー、良かったよ。この穴のあるシステムのおかげでお前をぶん殴って身体に埋め込まれたサスティナブルデバイスを奪うなんて荒々しいことせずに済んだんだからな。」

「さっさと、パスコードを教えれば何も暴力を振るったりなんてしねぇよ。アカウントも返してやる。まぁスコアをいただいた後にだがな。」

「変な気を起こしたりするなよ。通報しようとしても、俺だけじゃなくお前が今している不正もバレて今度は凍結どころじゃなくワードアウトになるかもな。」

確かに私のアカウントは昨日まで凍結されていた。

私はスコアを上げる為に、禁止されている個人間でのスコアの売買という不正を行っていた。

それを知らない誰かに通報され、政府にバレてしまい凍結状態になったのだ。

そして今も別の罪を犯している。

それも知られているとは。

でも、この世界で上手く生きていくためにはしょうがなかった。

バレていないだけで他にもやっている人は沢山いた。

あぁ、どうしてこんなにもこの世界は生き辛いのだろう…

私はその時、初めてこの世界が窮屈に感じた。

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