女神の加護「ミニシアター」~お嬢様を守ったら王子の婚約者になりました
@mia
第1話
我が国では生まれた子ども全てに女神の加護が与えられると言われている。
その中でも数少ない特別な『名前のついている加護』が与えられた一人が私だった。ただそれが誰にも理解できない加護だった。
女神の加護『ミニシアター』と言われても、何のことだか分からない。でも過去に何度もそういう訳の分からない加護を与えられた子どもが何人もいたので、私の時も役に立たない加護だと怒るのではなく、「あ、またですか」というおおらかな気持ちの方が大きかったらしい。
その加護のおかげかどうかは分からないが、私は子爵の娘としては恵まれて同じ年の公爵令嬢の話し相手に選ばれた。
このお嬢様は同じ年とは思えないほど賢く優しく可愛らしい素敵な人だった。お嬢様の側にいても恥ずかしくないように、私は必死に勉強した。お嬢様がいずれ王太子となる第一王子の婚約者となると私がお相手をする時間が目に見えて減ってしまう。そのことが悔しくて悲しくてたまらなかった。
本来ならいいご縁を喜ばなければいけないのに、私の日記には王子への恨み辛みが書かれている。
婚約した頃は問題がなかったに学院に入学すると王子は男爵令嬢と仲良くなってお嬢様を蔑ろにするようになった。
お嬢様がそれとなく注意しても全然態度を改めない。
私は口には出さないがこんな王子にはお嬢様はもったいないと思っている。そう思うのは私だけではない。
だいたい一番目に生まれただけでお嬢様の婚約者になったくせに、その弟の三つ子の王子たちの方が優秀だともっぱらの噂なのに。三つ子王子も他国へ留学などせず学院に入ってくれればよかったのに。
留学先の方が高度な学問を修めなければならないから第一王子では留学できない、なんて私は思っていませんよ。
国内の貴族と友好な関係を築くために学院に入ったのが建前なんて思っていませんよ。
婚約者のいる男性とベタベタする常識のない令嬢がお似合いだとも思っていませんよ。
もっとお嬢様にふさわしい男性がいるはずだとはおもっていますけどね。
旦那様や奥様にお嬢様の様子を聞かれる時は、遠回しに遠回しにそういうことを伝えている。伝えてはいるが私にも分かっている。王族との婚約をそう簡単に解消することはできないと。
私をはじめ学院の多くが心の中で愛想を尽かしていたのに、それに気づかない王子は卒業パーティーでやらかした。
お嬢様に婚約破棄を言い渡したのだ。しかもお嬢様が男爵令嬢をいじめてると冤罪付きで
宰相の息子や騎士団の団長の息子、公爵家の息子が側近としてついていて何をやらせてるんだと誰もが思っている。
「私はそのようなことをしておりません」
「嘘をつくな。こちらには証人がいる。彼女の教科書を破いたり、小突いたり、挙句の果ては階段から突き落とそうとした。そのような女を妃とすることはできない」
「あの、よろしいでしょうか」
私は発言を求めて声をかける。出過ぎたまねだと言われるかもしれないが、はっきりさせないといけない。
王子が偉そうに「発言を許す」とか言っている。
「私はいつもお嬢様と一緒にいましたが、今おっしゃたことをしたことはございません」
「ふん、取り巻きの言うことなんか信用できるか」
その後私たちは城へ呼ばれ話を聞かれることになった。
お嬢様について城に上がったこともあるが、その時に見たことのある顔ばかりではなかった。
一人だけ見たことのない人がいた。同じ年ぐらいの男の人だ。外国へ留学していた 三つ子王子の一人、第四王子だった。
「君の加護は『ミニシアター』なんだってね。いじめがあったという〇月〇日の〇時頃の公爵令嬢を見せてくれないか。この場にいる人数なら大丈夫だから」
何が大丈夫か分からないが、彼がそう言うと空中にその映像が映し出される。
「え、何だあれは!」
みんな驚いているが一番驚いているのは私だ。私が見たままが映っている。
そこには王子の言ったいじめなどはなかった。
王子が言っていた日にち全てを見ていたが、男爵令嬢がいるところはなかった。
「おかしいですね。一回もいじめをしている姿がないなんて」
「それは何かの間違いだ。その女のはかりごとだ」
「兄上は彼女の女神の加護『ミニシアター』をはかりごととおっしゃるのですか。兄上の用意した証人をちゃんと調べた方がよろしいのではないですか」
証人全てを調べると王子やその側近に証言を強要されたと証言した。お嬢様の無実が証明された。
その結果、第一王子は自分の罪の重さで病んでしまい離宮で療養することになった。男爵令嬢や側近たちもその世話で離宮住まいになると報告を受けた。
私はあれで病むような人が婚約者でもない女性と人前でイチャイチャするか疑問に思ったが、報告は公文書なので余計なことは口にしない。心の中で思うだけだ。
そんなことより問題はお嬢様の履歴に傷がついたことだが、三つ子王子の一人と婚約したことで何とかなりそうだ。彼が王太子になりお嬢様は王太子妃になる。外国で勉強していたので人となりは分からないが、変な人だったら旦那様が反対しているだろうからそれほど変な人ではないのだろう。
留学していた学校は我が国以上の学校なので、第一王子妃になるよりは苦労しなさそうでよかった。お嬢様が毎日楽しそうなので安心した。私もお嬢様付きの侍女の一人になれる日が楽しみだ。
そんな私に婚約の話が来た。相手はあの第四王子だった。
お嬢様の侍女になれなくなるのは嫌だという本音は隠す。断れないとは分かっているが、言うだけ言ってみる。
「私は子爵家の娘です。王子妃になるには身分が足りません」
「身分はどうにでもなるよ。公爵令嬢も義姉妹になれると楽しみにしているよ」
私は断る理由がなくなった。
二人で王宮でお茶するだけでも緊張して何も喋れなかったが、気さくに話しかけてくれた。私が答えやすいように話を振ってくれて、緊張の中でも優しくていい人なんだなという思いが強く残った。
ある日どうして婚約者に私を選んだのか聞いてみた。この婚約が第四王子が言い出したと耳にしたからだ。
「あの時、公爵令嬢のために王子に物申したという君の強さに惹かれたんだ。いくら主のためとはいえ子爵令嬢の身分ではなかなか言えないよ。周りの評判もいいし。それにね、君の加護が『ミニシアター』だったからさ。僕の加護は『支配人』 なんだ」
女神の加護「ミニシアター」~お嬢様を守ったら王子の婚約者になりました @mia
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます