僕らはみんな旅の途中
陋巷の一翁
僕らはみんな旅の途中
僕たちはいつも旅の途中だ。終わりを知るものはまだない。
終わりが来たとき、すべてが精算されるとき、そのときは僕なんて思考のもやなんてものはとっくに消えてなくなってしまっていると思うけれど。
そう、世界の、宇宙の本当の終わりには。
そういえば、だれかが言っていた、宇宙は大きなくしゃみのようなもので、その広がる運動の中で僕らは形を持ち命を持ちそして意思を持って生まれたんだと。
案外そうかもしれない。時間さえない無限の虚空の中に、わずかに揺らぐ何かが、星々を産み、生き物を産み、文明を生みそしてまた無限の虚空へ帰って行く。
ゆらぎ。ゆらぐ。そのなかで瞬く何かが僕らだ。そうして最後までたどりつけないのが僕らだ。
文明が滅び、命が滅び、星々が滅んで、すべての形が滅んでしまいその行き着く先まではとうてい行かれやしない。行きたいとも思わない。だから僕らは旅の途中。長い長い、だけどいつまでもは続かない旅の途中。
ふう、息をつく。心の中の誰かが言った。
「途方もないね。生きるのに精一杯なのに、君はそんなことを考えているのかい?」
そうだよ。僕はいつまでも考えている。
始めと終わりが決まらないのに、その間のことが決まるわけがないだろうって思ってる。
だからこれは僕が今しがた決めた始めと終わりの物語。
この途中の世界に捧げる、僕からの贈り物。すると僕の心の中の誰かががまた顔を出す。
「贈り物だって? 君が?」
僕が贈り物をしてはおかしいかい?
僕だって何かをしたいんだ。それは大局的には意味のないことかもしれないけれど。
そんな気分になるときだってあるんだ。
こうして一人キーを叩いているときにはね。
ここまで打って寂しさに耳を澄ます。
もう誰かの声は聞こえなかった。僕は椅子から立ち上がる。
さてコーヒーを飲もう。少し頭が火照ってる。眠る前に頭を楽にしよう。
旅の途中を続けるために、眠るために。
それじゃあお休み。また明日。
僕らはみんな旅の途中 陋巷の一翁 @remono1889
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