第6話 わかっているのに……進む

「ただいま。飯は?」

「もうすぐ、出来ます」

「明日から二泊三日で旅行に行くから」

「誰とですか?」

「勇二だよ。ゴルフがしたいって言ってね。ゴルフ旅行だよ!ってか、お前も友達とでも遊べよ。毎日、染みったれた顔見せられたら迷惑なんだよ」

「修作さんは、私が嫌いですか?」


今まで、夫に私を好きか嫌いかなんて聞いた事がない。

確かめなくても、愛されていると思っていたから確かめる事はしてこなかった。

夫は、めんどくさそうな顔を向ける。


「10代でもあるまいし。好きとか嫌いとかどうでもよくないか?俺は、お前といるのが楽だよ。結婚なんて、そんなもんだろ?特に、俺達は子供もいないんだし……」


どうでもいい。

楽……。

私は、夫にとってそんな人間なのか……。


「俺は、離婚する気はないから。いちいち手続きも面倒だからよ。それに、離婚されたらお前が困るだろ?だから、このまま生活を続けよう」

「私がもし浮気をしたら?」

「はぁーー。養わされてる分際でよく言うな!まあ、するならすればいいさ。どうせ、一人で性欲を発散する場所がないってだけだろ?今さら、俺もお前を抱けないしさ。ちょうどいいんじゃないか……」

「そうですか……」


もしも「それは嫌だ」とか「許せない」と言ってくれたら……。

私の中にある良心がやめさせただろう。


次の日、夫は大きな荷物を抱えて出て行った。


出る瞬間に玄関から私に向かって「陰気臭い顔するのやめろよ。いつもいつも、飯が不味く感じるよ。旅行から帰ってきたら、ましな顔しとけ」

と吐き捨てるように言っていた。


夫の私への愛はもうないのがよくわかった。

服を着替えて家を出る。


夫と居続ける理由は、両親の為……。

夫も同じだ。

私達は、お互いに愛などない。


五駅先の駅に着き、改札を抜けると目深に帽子を被った人が腕を掴む。


「奥さん……変装しなくていいの?」

「バレても構わないわ」

「そっか……。じゃあ、俺も帽子いらないか」


彼は、帽子を取って鞄にしまう。

ここから先は、進むべきじゃない事はわかってる。

行けば最後。

引き返す事は、出来ない。

彼が指を優しく絡ませてくる。

その指を握りしめる。

身体中が熱を帯始めているのを感じる。


どんどん、どんどん、進んでいく。

立ち並ぶのは、全部ホテル。

ごくりと唾を飲み込む。


私は、今日夫を裏切る。

わかっていながら、進むのだ。

彼が私の手をさらに強く握りしめる。

華奢なのにゴツゴツしている男性の手。

夫とは違う手。


「ここでいいかな?」

「はい」


彼が選んだ場所は、お城みたいな見た目をしていた。

ドキドキ胸が鳴る。


さよなら……修作さん。

あなたも私も好きに生きましょう。

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【カクヨムコン応募中】届けてくれたのは恋でした♡ー彼と私の不純な関係ー 三愛紫月 @shizuki-r

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