すこしふしぎな夢の話

藤井杠

すこしふしぎな夢の話

前後はよく覚えていない。

気がつくと、薄暗い通路に立っていた。

周りはよく見えないけれど、怖くはなかった。


ふと、横を見ると 大好きな志村けんさんが居た。

志村さんはいつぞやに見た番組ロケのような格好で、

コントのための役やキャラクターの格好じゃなくて、

素の志村さん、って感じだった。


「あっ、志村さん!」

年齢一桁の幼い頃からDVDや録画したスペシャル番組で

全員集合、ドリフ、バカ殿様、だいじょうぶだぁ、志村軒などを何度も何度も観てきた。志村さんの出てくるコントが大好きで、何か見たくなったら志村さんのDVDを入れるし、ピアノを習い始めてからは「いい湯だな」の曲やドリフのテーマを弾いたりした。

人生で一度は会いたいと思っていた人だった。まさか夢で会えるなんて。

何を話そうか、そう思ったのだけれど


ごめんなあ

そんな顔で志村さんは何も言わずに背を向けた。

「待ってください」

そう言って志村さんの背中を追いかけようとした。

するとどこから現れたのか、沢山の大小犬種もさまざまなワンちゃんが自分の足元に現れてじゃれついてきた。

ふわふわでモコモコで、犬好きな私は彼らを引き剥がすことはできず、つい足を止めた。

「行かないで、行かないで」

そうワンちゃん達は言うように私の前に現れ、足止めをする。

とっさに志村さんの方を見ると、志村さんは通路の曲がり角を進んで、ゆっくり階段を降りていった。

追いかけたい。そう思ったのだけれど、足元のワンちゃん達は志村さんが進んで行った階段から登ってくるようで、どんどんその数を増やしていた。

「行かないで、行かないで」 そう言いながら。


志村さんの姿は見えなくなった。

そこで、目が覚めた。


朝日が部屋全体を照らしている。寝室横から朝のニュースが聞こえてきた。

布団から出て、テレビ画面を見た。

2020年3月30日のことだった。

不思議と、驚かなかった。




どうしてこの夢を見たのかは分からない。

偶然かもしれないし、でももしかしたら志村さんが何か伝えにきてくれたのかもしれない。

会えてよかった。ずっとそう思っている。

あの夢を思い出すたびにふしぎとあたたかい気持ちになる。


小さい頃からテレビの向こう側の人で、テレビでしか見たことがなくて。

いつか会えたらいいな、なんて漠然と思っていた。


大好きな志村さん。

それは今も昔も変わらないし、今でも志村さんは画面に写って私を、皆を笑わせてくれる。

今もこうして笑える。あの夢に意味があろうが無かろうがきっと、それだけでいいのだと思う。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

すこしふしぎな夢の話 藤井杠 @KouFujii

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説