第2話 不思議な仔猫

 「どれくらいの高さなんだろう…」


 

 六日後。滞在する町を歩いていると、遠くに高くそびえ立つ建物が見える。



 「どんな建物なんだろう…。行ってみよう」



 僕は建物に向かって道を進む。



 しばらくし、建物の前に到着。僕は建物を目の前にして立ち尽くす。



 凄い…!



 鉄骨造りの白いタワー。天にも届きそうな高さまで聳え立つ建物を目の前に、僕は思わず立ち尽くす。



 -大観タワー-



 建物の入口に掛けられた看板にこう記されていた。


 看板の下に手動ドアがある。このドアが大観タワー内への入口。



 「中はどうなってるのかな…」



 僕がドアの前に立ち、ドアノブを掴もうとしたその時、背後から鈴の音が聞こえた。



 振り向くと、一匹の仔猫が小さな小物入れを咥え、こちらを見つめていた。



 猫?



 首輪が付いている。飼い猫だろうか。


 僕は仔猫へ歩み寄る。


 仔猫は警戒する様子もなく、僕を見つめる。


 僕が仔猫の前にしゃがみ込むと、小さな入れ物に1枚の紙が入っていることに気付く。僕はその紙に手を伸ばす。


 仔猫は威嚇などをすることなく、僕を見つめる。



 小さく折りたたまれた紙を開くと、きれいな文字が僕の目に映る。



 僕宛の手紙だった。



 差出人は…。



 手紙に記された差出人の名前を目にした瞬間、僕は無意識に顔を赤らめる。



 

 あの女性ひとからの手紙だった。




 -新庄さん。旅は順調ですか?新庄さんが次の地へ向かわれてから、なんだか心にぽっかりと穴が空いたような日々を送っています。今回、このお手紙を送らせていただいたのは、ある一匹の仔猫がきっかけなんです。実は、新庄さんが次の地へ向かわれた翌日、お店に一匹の仔猫が小さな入れ物を咥えて現れたんです。その小物入れには「郵便屋さん」と。不思議なこともあるんですね!私は仔猫にお手紙を預けました。もし、お手紙が届きましたら、お返事を頂けると嬉しいです。あの約束、忘れないでくださいね?旅のご無事を祈ってます。それでは。吉田碧-




 手紙を読み終え、仔猫を見る。視線の先には僕を見つめる仔猫と「郵便屋さん」と記された小物入れに入ったペンと白い紙。



 あれ、ペンと紙なんてあったかな…。


 ふと、不思議に思った僕だったが、気付くとペンと紙を手に取っていた。


 僕はバッグからボードを取り出し、書き始める。


 しかし、文章がなかなか思いつかない。



 10分ほど頭をひねり、1文字目を書いた。



 それからおよそ20分後。



 「なんとか書けた…!」



 僕は手紙を小さく折りたたみ、ペンとともに仔猫が咥えるの小物入れへ。


 入れ終えると同時に、仔猫は歩き出した。



 「よろしくね…!」



 仔猫に手紙を託し、後姿を見つめる。



 僕はこの日、大観タワー内へ入らなかった。



 

 それから3日後の朝。


 宿を出た僕はカメラを持ちながら景色を写真に収める。



 良い景色だな…!



 シャッターボタンを押す僕。



 そして、カメラを顔から離した瞬間、聞き覚えのある鈴の音が。



 背後から聞こえる鈴の音に振り向くと、3日前に現れた仔猫の姿が。


 仔猫は小物入れを咥え、僕に白い紙を渡すように歩み寄る。僕は仔猫にお礼を伝え、小物入れに入った白い紙を受け取る。


 小さく折りたたまれた白い紙。全く同じ折り方。



 自然と僕の鼓動が高鳴る。



 白い紙を開くと、あの時と同じ筆跡が僕の目に映る。


 時折頷きながら手紙を読み進め、自然と表情が緩む。



 碧さん、元気そうで安心した…!まだ旅は続きますけど、いつかあなたの元に…。それまで待ってて下さいね…!



 手紙を読み終えた僕。


 すると同時に、仔猫は小物入れを咥え、ペンと紙を渡す。


 受け取った僕はボードを使い、碧へ返事を書き始める。


 仔猫は小物入れを置き、僕が返事を書く様子をじっと見つめていた。




 「できた…!」



 僕の一声と同時に仔猫が小物入れを咥える。


 僕は小物入れへ手紙とペンを預ける。


 

 「よろしくね…!」



 仔猫は僕の言葉に応えるようにこちらを見つめる。


 そして、歩き出した。



 僕は仔猫に思いを託すように歩く後姿を見つめる。




 

 それから4日後。



 僕が宿の部屋でカメラの手入れをしていると、一匹の仔猫の鳴き声が聞こえる。


 窓の外からだ。


 僕は窓を開ける。



 すると、視線の先には小物入れを咥えた仔猫の姿。


 今回は別の仔猫だった。



 仔猫は小物入れを咥え、白い紙を渡すように歩み寄る。


 僕はお礼を伝え、白い紙を受け取る。



 碧からの手紙。


 僕は夢中になって読み進める。


 

 その途中から僕の表情は赤みを帯び、自然と鼓動が高鳴る。


 

 手紙を読み終えた僕は仔猫からペンと紙を受け取り、返事を書き始める。


 だが、この日はなかなか文章が思いつかなかった。


 1回目の時以上に。



 30分以上経っただろうか。


 書き終えた僕は仔猫が咥えた小物入れへ手紙とペンを預ける。



 「よろしくね…!」



 仔猫は頷くように僕を見た。


 そして、歩き出す。




 仔猫の後姿を見つめながら碧からの手紙を再び手に取る。そして、仔猫の姿が見えなくなったと同時に開く。



 僕の鼓動は更に高鳴る。




 その日の晩。僕の夢の中にある人物が現れた。


 見覚えのあるお店の外観と女性の姿。


 女性は長椅子に腰掛け、折りたたまれた紙を開く。


 微笑みながら時折頷き、手紙を読む女性。



 しばらくし、女性は空を眺め、こう呟く。



 「待ってますから…!」



 



 

 

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