第6話 【切り抜き】女の子をプロデュースすることになったしおりん【生配信065】
「…………そんなわけで、私の正体に気づいてしまった女の子を、彼女の理想の清楚系美少女に生まれ変わらせることになったんだ~」
契約成立から数日後の生配信にて。
俺(しおりん)は、瑛梨香に正体を看破されたことや、その日のデートの顛末をリスナーに紹介していた。
もちろん許可は取ってある。その上、個人特定に繋がる部分やデリケートな部分はうまくはぐらかしておいた。こういうところでネットリテラシーを発揮するのは本当に大事。
「私のプロデュースに間違いはないのよ。崇め奉れ非リアども」
『地雷系女子でも清楚な女の子をコーディネートできるとは……』
『デート代です ¥2500』
『出てきた店員たちが全員ハイレベルな件』
『そもそもプロデューサーからしてネット流行語大賞大本命のSSRだし』
『非リアって煽る割にはデート相手同性なんだよなあ』
『しおりんは顔は良くても性格でNG食らっちゃうから……』
『そうして百合へと誘われる』
『ここに教会を建てよう。神父は俺な』
『結婚式代です ¥1000』
『ご祝儀です ¥3000』
『末永くお幸せに ¥3000』
「スパチャ投げなくていいから! 結婚とか考えてないから!!」
『それはすなわち俺たちが彼氏ということでは………?』
『それだけは絶対に嫌』
『〇される未来が見える』
『包丁で刺される未来が見える』
『ねえ、私としか会っちゃダメって言ったよね??って睨んできそう』
「おいお前ら私のこと馬鹿にしてるよね?」
『ソンナコトアリマセン』
『アナタハカワイイデス』
『別に気にしないで、クレイジーサイコピンクさん』
『貴女は素敵な女の子ですよ、腹までまっくろくろすけさん』
「もう!! バレバレだっつーの!!」
『叩けば鳴るおもちゃで草』
『おかあさん! このおもちゃたのしい!!』
『シャベッタァァァァァァァ!!!!』
『超! エキサイティン!!』
『チャージイン!!!!』
『ネットで人気のおもちゃ大集合やんけ』
「……あのさ、急にネタが古くなったんだけど」
『この人10年前のインターネット黎明期にいてもおかしくないんだよなあ』
『新時代と旧世代の融合』
『このノリに例の女の子は着いてこれるのか』
『そもそもしおギャの時点で素質はある』
『しおギャの女の子=5割メンヘラ4割オタク1割やべーやつ』
『しおりん的には話しやすいとかあるの?』
「そうだね~。最初はだいぶ派手派手な女の子だと思ってたけど、仲良くなってみたらそこそこ常識人だったよ」
『なん……だと……』
『純粋無垢しおギャ女子とか実在したのか』
「でも、とてつもなくアホの子でさ。
イメチェンした翌日の朝、どんな風に教室入ってきたと思う?」
『清楚系になってるんだよな』
『聞いた限りだとかなり大きな変化だもんなあ』
『ありがちなのは敬語になってるとか』
『一人称が変わってるとか』
『スカート長くなってたとか?』
「残念!正答者なし~。
彼女はこう言いました―――」
「『ごきげんよう、皆様。わたくし、本当の自分になることにしましたの。
改めてよろしくお願いいたしますわ!』」
「―――突然お嬢様にジョブチェンジした元ギャルに教室はしばらく凍り付き、その日一日お嬢様言葉で振る舞う彼女は奇異の目で見られましたとさ。
翌日には元に戻ったからいいけど、せっかくのビジュアルが台無しだよ……」
『草』
『おもしれー女』
『類は友を呼ぶ』
『どこが常識人なんだよ』
『一瞬純粋無垢だと思った俺らの期待を返せ』
『さすが人類史上唯一特定を成し遂げた最強のしおギャ』
『というかお嬢様に憧れているだけのただの一般人』
『しおギャを一般人扱いすんな』
『それだと一気に50万人以上が一般人から外れる計算になるんだが……』
『アホはアホに共鳴する典型例』
『是非このチャンネルに登場してほしい』
「うん。私もそう考えててさ。
もしみんなが良かったら少しずつチャンネルのお手伝いをしてもらおうと思うんだけど、どう?」
『賛成!』
『異議なし』
『楽しみ』
『ただでさえ面白い女に、もう一人面白い女が加わるのか』
『とんでもないことになりそう』
『蒙〇タンメンと辛〇ーメンを同時に食ってる感覚』
『どっちも激辛で草』
『ゲテモノ二人が甘いわけねーだろ』
『その子は顔出しするの?』
「プライベートのこともあるし、顔出しは考えてない!
基本は画面外からの企画サポートで、動画に登場するとしても、サングラスとかモザイクとかすることになるよ」
『地雷メンヘラ激病みピンクとサングラス清楚(笑)のインパクト強くて草』
『顔見たかった~』
『しおりん的にはその子の顔どう思ってるの?』
「…………めちゃくちゃ顔いい。私より美人かもしれない。
腹立つから今すぐ爆ぜてほしい。もしくは私が直々にシバく」
『い つ も の』
『名人芸』
『伝統芸能』
『待ってました』
『ああ~! 顔曇ってんねえ!!』
『せっかく整えた眉毛が怒りに満ち溢れていますねぇ』
『ナチュラルに舌打ちすな』
『性格悪いの隠せてませんよ』
『インターネットエンジェル(笑)』
『むしろ堕天使では?』
『これ、自分より人気出てほしくないから顔出せないんだろうな』
『独占欲強すぎて草』
『リスナーに独占欲出すアイドル初めて見た』
『この人50万人の彼氏いるってマ?』
『嫉妬の規模が桁違いで草』
『同い年の女子が平均1人以上に独占欲発生してる計算になって草』
『平均値こわれる』
『え~!しおりんより美人な女の子見たかったなあ』
「おい、今私よりアイツの方が見たかったってコメントした奴出てこい。私の手で葬ってやる」
『私だ』
『いいや、俺です』
『金出すから俺ってことにして ¥500』
『ナチュラルに犯行予告で草』
『しおりん容疑者、供述をどうぞ』
「私が世界で一番かわいいんだよ!!」
―――そうやって、今日もまた一度きりの夜が更けていく。
この怒涛の一週間。
インターネットエンジェルの承認欲求モンスターは、自身の身バレと引き換えに、一人の協力者を手に入れた。
それは、アホではあるけど、ひたむきでまっすぐなファンの女の子。
彼は、彼女をプロデュースしていく。
彼女は、彼をサポートしていく。
それが、さらなる伝説と青春を巻き起こすことは、この時点では誰も知らない。
でも、ファンも彼も彼女も、心のどこかでは感じていた。
『この二人なら、さらなる高みへ行ける』と。
隣の席の美少女は、メンヘラ病みかわ配信者な俺のファンで、ついでにベタ惚れのようです。 棗ナツ(なつめなつ) @natsume-natsu
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