29.キスした後の朝
朝がやってきてしまった。
昨日は全然寝ることができなかった……。
こんなに朝が来るのを疎ましく思った日はなかったかも。
俺、どんな顔でひよりと顔を合せればいいんだろう。
俺、どんな顔で茜に会えばいいんだろう。
義理とはいえ兄妹でキスしてしまった。
しかもそれは、家族でじゃれ合うよなキスではなく――。
「どうしよう……」
昨日ひよりに言ったように、キスなんて大したことじゃないみたいに言うのは簡単だけど、ひよりの気持ちを考えるとそれはちょっと違うような気がする。
かと言って、しっかり悩んでいる姿を見せてしまうと、今まで慎重に積み重ねていった俺たちの関係が崩れていってしまう。
それに茜にだって――。
「そろそろ起きないと」
そろそろ準備をしないと遅刻してしまう。
とりあえず二人には普通に接することしかできないのかな……。
妹とキスしてしまった自分。
彼女がいるのに他の女とキスしてしまった自分。
……ひよりがキスしてきたことに少なからず嬉しさがあった自分。
全部が全部大っ嫌いだ。
なにが天才子役だ。
なにがクラスで一番可愛い片岡君だ。
――俺は自分のことが大っ嫌いだ。
※※※
「おはよう! お兄ちゃん!」
「おはようひより」
リビングに行くと、ひよりが既に朝食の用意をしてくれていた。
俺の姿を見つけて、ひよりの顔が赤く染まっている。
「お、お兄ちゃん、昨日は……」
「ひより……」
気まずい。ひたすら気まずい。
俺もひよりと同じように少し顔が赤く染まっていると思う。
(ふぅ……)
このままではいけないな。
ほんの少しだけ自分の中の仕事スイッチを押した。
「早く食べよう! 遅刻しちゃうよ!」
「う、うん!」
努めていつも通り振舞うことにする。
仕事をやっているときは本当の自分ではないものを演じていたから。
「お、お兄ちゃん、あのね……」
「ん?」
「私、後悔はしてないからねっ!」
「う゛っ」
ひ、ひよりからそのことを触れてくるとは……。
天才子役なんて呼ばれていたのに、今ばかりは大根役者になってしまった!
「もしかして意識してくれてるの?」
「当たり前だろ馬鹿ッ!」
「ふふふー! じゃあ作戦成功ってことで!」
「なにが作戦なんだか……」
「お兄ちゃん、妹とキスしちゃったもんね。しかもベロチュー」
「ベロチュー言うな」
ひよりが攻め攻めになってしまった!
兄としてどう受け止めていいのか分かんないよ。
「私たち兄妹でキスしたんだよ! 兄妹で!」
「どこ強調してんだよ! 背徳感やばいからやめろよ!」
「んふふ~、お兄ちゃんも背徳感を感じてくれてるんだ」
もってなんだもって!
くそぅ、ひよりが悪いところで開き直っている。
「ほら、もうすぐ
「
ひよりの動きがピタッと止まった。
「ひより、言っておくけど俺には彼女がいるんだからね」
「はいはい、昨日と同じこと言ってるよ。でもお兄ちゃんは妹とキスしたんだからね」
「妹を連呼するのやめろ!」
くぅ、どうにも分が悪い。
まさかひより相手にここまで劣勢になることがあるとは思わなかった。
ピンポーン
あっ、話していたら玄関のインターフォンが鳴ってしまった。
『茜でーす! ちょっと早めに着きすぎちゃった!』
はぁあああ……。
ある意味、今日はひよりよりも会いたくなかった人物が来てしまった。
※※※
「ごめんね、トオル君に会いたくて早めに来ちゃった」
「う、うん……」
外で待たせるわけにはいかないので、茜にはうちに入ってもらった。
さっきまでとは一転、ひよりがすごく面白くなさそうな表情でご飯を食べている。
「ちょっと常識ないんじゃない? 朝、早くにうちに来るなんて!」
「そ、それはごめんだってー! 二人に早く会いたかったの!」
「さっきはトオル君って言ってたくせに」
昨日あんなことがあったからか、より一層この空気が重く感じてしまう。
「トオル君、もう少しで夏休みだね」
「う、うん……」
「どこかにお出かけしたいねー。あっ、でもトオル君は有名人だからそんな気軽にお出かけできないか」
「そんなに気にしなくても……」
うぅ、どうしてもぎこちなくなってしまう。
今日は茜の顔を見て話ができないよ。
「ちょっと! 今村茜の検索履歴に私の名前はないのかしら!」
「そんなことないよー! ひよりちゃんも出かけるときは一緒に行こうよ! ひよりちゃんが良ければだけどね!」
「ぐぅ」
「私、ひよりちゃんともお出かけしたいところ沢山あるの!」
いたっていつも通りの茜。
今日もニコニコと明るく笑っている。
「わ、私は別にあんたと出かけたくなんか……」
「私が一緒にお出かけしたいの。ダメ?」
「ぐぐぐ……!」
茜もひよりのこと分かってきてるなぁ。
自分に遠慮しないようになっているのも、それだけなんでも言ってくれる関係になっているって。
「あんたマジでなんなの! ちょっと良い奴すぎない!」
「わっ、初めてひよりちゃんに褒められたかも」
「褒めてない! 褒めてはないけど自分がみっともなくなるじゃん!」
ひよりががたっとその場を立ち上がった。
「私、自分のことがもっと嫌いになりそうだからアンタには言っとく!」
「ひよりちゃん?」
「私、お兄ちゃんとキスしたから!」
クラス一の美少女と言われている俺(♂)がクラスで二番目の美少女と付き合ったら、何故か義妹が「NTRだ」と迫ってくるんだが 丸焦ししゃも @sisyamoA
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。クラス一の美少女と言われている俺(♂)がクラスで二番目の美少女と付き合ったら、何故か義妹が「NTRだ」と迫ってくるんだがの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます