28.ひよりの寝取り返し?
ぬるりと生暖かいものが、俺の口内に侵入してくる。
ひよりの舌が、ちゅるっと俺の舌先をつついた。
「ばっ……!」
急いでひよりのことを突き放した!
「きゃ!」
「ご、ごめん……」
つい力が入ってしまった。
な、なっ……!?
なにか言わないといけないのに、考えがまとまらない。
なにか言わないといけないのに、なにも言葉が出てこない!
「……どうだった? 妹とのキスは?」
「い、いきなりなんで!?」
「私だってやるときはやるもん」
ひよりが熱に浮かされたような目をしながら、キスをした感触を確かめるように自分の唇を指で触っている。
その仕草がとても色っぽく見えてしまう。
「なにか変えたいなら自分が変わらなきゃダメなんだなって」
「だ、だからと言って……」
「言っておくけど私は初めてだからね」
「え?」
「私は初めてだから」
ひよりが顔を真っ赤にして、俺から視線をそらした。パジャマが少しはだけていて、白い胸元が見えてしまった。
「あ、あれ……?」
ひよりが自分の顔を両手で隠した。
「わ、私、お兄ちゃんとキスしちゃった!」
「じ、自分からしておいて照れるなよ!」
「か、感想は! 感想を聞かせて!」
「感想!?」
まさかキスに感想を求められるとは思わなかったよ……そんなこと言われてもめちゃくちゃ困る……。
「わ、私は気持ち良かったよ」
「いや、自分から言うんだ」
「お兄ちゃんは?」
「……」
ひよりが指のすき間から、なにかを期待して俺のことを見つめている。
どうしよう……。ここの返答ってすごく大切な気がする。
「ひより、俺、彼女いるから」
なんとか、声を振り絞ってそう答えた。
「ふふふ」
「えっ? そこ笑うとこ!?」
「ううん、少なくてもお兄ちゃんにとっては妹とのキスは彼女と同列に扱ってくれるキスだったんだなと思って」
「……」
ぐっ……! 失敗した気がする。
今日のひよりはいつもより強い……! 本当にどんどん変わっていってしまう。
「じゃ、じゃあ私は自分の部屋に戻るから……」
「うん……」
そう言って、ひよりが俺のベッドから出た。
「お兄ちゃん」
「今度はなに?」
「兄妹でキスしちゃったね」
「なっ!?」
「じゃあまた明日ー!」
バタンとひよりが勢いよく俺の部屋から出て行った。
「はぁ……」
全身から力が抜けていく。
だから今日は父さんにいてほしかったんだよ……。
「やっちまった……」
誰もいなくなったベッドで、俺は一人うなだれてしまった。
ひよりめ……いきなり舌入れてきやがって……。
自分の心臓がドクンドクンと高鳴っているのが分かってしまった。
※※※
◆ 片岡ひより ◆
やってしまった。
胸がドキドキしてどうにかなりそう。
頭がぐつぐつしてどうにかなりそう。
顔は信じられないくらい熱くなっているし、今までにないくらい体は火照っている。
お兄ちゃんへの気持ちとか、お仕事の話とか、今村茜への対抗心とか、そんな気持ちが全部ごちゃごちゃになってやってしまった!
「ふぇええ……」
足に力が入らない。
私は腰が抜けたように、廊下にへたり込んでしまっていた。
(私、変わるから! だから今は“何故か”妹にそんなこと言われてるってることにしておいて!)
自分で文化祭の時にそんなこと言ったくせにぃいいい!
速攻で我慢できなくなってるじゃん!
アホ、アホ、アホ! 私のアホ!
変わりたいと思っていた気持ちが、こんな形で暴走してしまった。
お兄ちゃん、とてもびっくりしてたなぁ……。
お兄ちゃんは私とキスしてどう思ったんだろう。
答えが聞きたかったけど、あのままお兄ちゃんの部屋にいたら、多分私のほうが我慢できなくなっていたと思う。
「……でも、これくらいしないと変わらないのかな」
やってしまったことに対して、肯定の気持ちを持つことは良くないことかもだけど、そんな風にも思ってしまっている自分がいる。
信じられないくらいの充実感がある一方で、明日が怖い……。
明日から私たちはどうなっちゃうんだろう。
「うっ……ぐすっ……」
勝手に涙が出てきてしまった。
怖い。変わるのってとても怖い。
お兄ちゃんに嫌われたらどうしよう……。
「うっうっ……あいつが私からお兄ちゃんのことを取るから悪いんだ……ただ私が寝取り返しただけだもん……」
弱い私の、醜い心をつい吐露してしまった。
(友達になろうよ)
(私、ずっとひよりさんは憧れだった。けど今日からは友達。遠慮はなしだからね)
文化祭のときに言われた言葉が脳裏に浮かぶ。
私、お兄ちゃんのことを寝取ったあいつのことが嫌いかもだけど……。
「あいつ、普通に良いやつなんだよね……」
またチクリと別の痛みが、私の胸を襲ってきた。
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