第51話 決意
朝の目覚めは、部屋に響く雑音に似た声から慌ただしく始まった。
「兄ちゃん起きたか!昨日は結構陽気だったな~羨ましいな!」
「おい、早く支度して朝食に行こうぜ。」
「兄ちゃん悪いけど俺達急ぎの依頼を受けているんで、先に行くぜ!」
朝の慌ただしさは、同室にいる男3人組の冒険者達だ。
「昨日は同室有難うございました。冒険気お付けて下さい。」
「おう!これも何かの縁だ、また何処かで会うかもな!じゃあな~」
慌ただしい余韻を残して出て行くと、1人残った部屋でゆっくりとくつろいだ。
昨日は自分でも恥ずかしくなるような言葉を言ったが、皆には伝わったようで嬉しくなっていたんだろう。
宿の食堂で皆で一緒に食べた夕食は、格別に美味しかった。
シノはレイナに腕を掴まれ放さない為一緒に食べる事になったが、問題なく食事が出来た。
シノは黒蜘蛛の神獣で、俺の魔力で活動して食事はしないと勝手に思い込んでいたが、後でシノが教えてくれた話では、魔力は生命力と魔法を使用するために必要で、食事の栄養は人の体型と美しさを維持するのに必要で、特に夜伽の後はお腹が非常に空くそうだ。
しばらくは会えないので夕食は奮発して豪勢に食べながら話が盛り上がったが、宿の個室が満室で大部屋しか空いてなかった。
男女一緒の部屋はさすがにマズいので、俺は男の相部屋に女子3人は同じ部屋で一晩過ごした。
シノは何か言いたげそうだったが、レイナとココに両腕を掴まれて身動き出来なかったみたいだ。
「さて、ろそろろ1階の食堂に行きますか!」
身支度を済ませ食堂に顔を出したが、女子3人の姿は見当たらない。
冒険者達の朝は早い。
今日の予定を入れていない俺達以外の冒険者は、朝食を済ませギルドに行ってるはずだ。
何人かは今から朝食の様だが、服装からみて冒険者ではなく商人のようだ。
空いてるテーブルの椅子に腰かけて、片付けに忙しそうなメイド服の店員に声を掛けた。
「朝食をお願いします。連れがあとから3人きますのでそちらの分もお願いします。」
朝食が来るまで他の席に座って居る商人姿の人達を観察する。
前回泊まった時には殆ど見なかった人達だ。
聞き耳を立てると話の内容が聞き取れる。
村で活動する冒険者が増えた事で、商売になると見込んでここまでやってきているんだろうな。
「また荷馬車が襲われた話は聞いたか?」
「あっ~魔物に襲われたらしいぜ!」
「俺は何回かこの村まで来た事があるが、今まで街道に魔物が出た事は無かったんだがなぁ!」
「そうなのか?俺はこの村は初めての行商だが、知り合いが魔物に襲われて命辛辛グラッサーの街まで戻ってきた話を聞いて、冒険者の護衛を雇ったぜ!」
「冒険者をやとったのか?護衛料が高いんじゃないのか?」
「襲われたら全てが無くなる事を考えれば、安いもんだ!」
「もっと安く出来る方法があるぜ!」
「ホントか!どうすればいい!」
「ニーデル村からグラッサーの街を経由して王都まで行く定期の相乗り馬車があるんだが、一緒に付いて行くと護衛料が割り勘で安く済むんだ。」
「そんなやり方があるんだ!」
「商売人なら、少しでも出費を抑えないと一人前とは言えないからな!」
隣のテーブルで行商人が朝食を食べながら話しをしているのを、なるほどと思いながらこっそり聞いていた。
「コウ様おはようございます。」
レイナが俺の姿を見つけて、笑顔で声を掛けてくる。
「おはようございます!レイナ様~昨日はぐっすり眠れましたか?」
相変わらず兜を外している素顔は、上品で綺麗な顔立ちだ。
「そういえば、ココとシノはまだ寝ているんですか?」
「2人は、従魔達がいる裏小屋に行っていますわ。」
ロキもそうだが、シノもココの従魔であるクロとシロをとても気に入っている様子だ。
「そうですか!従魔はとても賢いですから、信頼できる相手かどうか見分ける事ができるんですよ。」
「シノさんは不思議な女性ですね。」
「昨日の夜はシノが失礼な事をしたら、俺が謝ります。シノは人と関わるのが苦手で、村でも俺以外話し相手がいなかったので~」
「そうではありませんわ!確かに言葉は少なく避けているようでしたが、コウ様の話しになるととても目をキラキラさせていましたわ。」
どんな話しをしていたのかとても気になるが、上手く話しを合わせていたのだろう。
しばらくレイナと会話をしていると、ココとシノがやって来た。
「おはよう!」
「おはようございます。」
ココは朝から元気だ。シノも従魔達との触れ合いで嬉しそうな表情を見せていた。
「2人共おはよう!」
挨拶が終わると同時に、朝食が運ばれてきた。
「美味しそうな朝食だ!」
ココが早くも食べようと皆に催促する。
「そうですね~いただきましょうか!」
女性3人と同じテーブルで食べる食事は、祝福の時間だ!
以前の俺では、想像もできない絵柄だろう。
「コウ!にやけた顔をしているけど、どうしたの?」
ココの言葉にノドが詰まりそうになったが、慌てて水を飲みこむ。
「どうもしないよ~今日の朝食は美味しいなと感じていた所だ。」
「そうですわ!コウ様と食べる食事は、とても美味しいですわ~」
レイナの笑顔が、一段と眩しい。
楽しい朝食が終わる頃に、今日の行動について皆と話し合いをした。
「俺とシノは工房の下見をして明日、相乗り馬車でグラッサの街まで行くつもりです。」
レイナとココの手が止まる。
「グラッサの街に一軒だけある工房を見て来て、今後の役に立つ知識を手に入れてきます。」
「コウ様が戻って来られるまで、レベルを少しでも上げておきますわ。」
「私もクロとシロとレベルを上げておくから、早く戻って来てね!」
「2人共俺のわがままを聞いてくれてありがとう!」
レイナもココも、俺がグラッサの街に行くことを快く受け入れてくれている事に感謝する。
「ここでポーションを作る時は、皆で手伝うからね~」
「頼りにしているよ!今後の冒険に役立つ物を作る予定だから。」
「コウ様ならきっと素晴らしい物が出来ますわ!」
この楽しい食事は、しばらく出来ないと思うとこの時間を大事にしたい。
朝の楽しい会話と食事が終わると、レイナは教会へココは住んでいた村まで一度帰ってくるそうで、俺とシノは工房を見に行くことにした。
しばらく会えないが、皆することが分かっているので笑顔で別れた。
俺とシノは、宿屋の食堂からギルドの真横にある診療所に向かった。
診療所の受付嬢に声を掛けると、すぐに対応してくれた。
「コウさんですね~私は診療所の受付と管理を任されているアリスといいます。エリスから話は聞いています。」
前回会った時は慌てていてあまり話しをしなかったが、よく見るとエリスと顔立ちがよく似ているがアリスの方が落ち着いた雰囲気がある。
「私の顔に何かついていますか?」
「いえ~エリスさんと雰囲気がにているな~と思いまして。」
「私はエリスの姉です。」
「エッ!エリスさんのお姉さんですか!道理で顔立ちが似ていると思いましたよ。」
「私は既婚者で子供もいますが、エリスは独身ですので好意にしてくださいね。」
アリスの言葉にシノは微妙に反応したが、あえてスルーした。
「エリスさんには大変よくしてもらっています。ところで工房はどちらにありますか?」
「今日は工房を見ておくとの事でしたね。私が案内しますね。」
アリスは若いギルド職員と受付を変わって、工房へ案内してくれる事になった。
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異世界召喚者は、超膨大な魔力をひた隠す。 鬼瓦 @sazanka84
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