第50話 ポーションの価値

 トーマスとの会談が終わり、1階への階段を降りるとエリスから声が掛かった。

「話はまとまったかしら?」

 会談内容を知ってるようだ。

「概ね合意しましたよ。」

「それは良かったです。コウさんには凄く期待しているんですよ。」

 エリスの笑顔に騙されていたが、冒険者登録時から目を付けられていたという事か。

 ポーションの流通はギルドも力を入れて対応している表れでもあるし、俺が行う事で助かる命があるのなら協力は惜しまないが面倒事は極力避けたい。

「コウさん達の報奨金が出ているのでお渡ししますね。」

「地下迷宮探索費に白金貨3枚と、ゴブリン討伐証明部位の数が30個で60金貨になるわ。」

「こんなに頂けるんですか!」

 白金貨は初めて見る金貨だ。

 1白金貨は100金貨であるから、合計で360金貨だ。

「地下迷宮内の魔物には報奨金が無いので、魔物の死体は武器や道具の材料に使ってね。もちろんギルドでも買い取らせて頂きます。迷宮では宝箱の中身は全て冒険者の物ですよ。階層が深くなればなるほど凄いお宝が見つかると聞いていますよ。」

「それと~これはコウさんとの契約書類です。」

 エリスから書類と1枚のカードを渡された。

「工房区への入出カードを渡しますね。工房区内の設備や各部屋は自由に使用して構いませんよ。」

 入出カード!研究所などでよく見る登録者以外は入れない部屋だという事みたいだな。

「入出カードを使って一度登録した人は、その後はギルドカードでいつでも入れるようになるわ。」

「便利なカードですね。でもポーションが作れるかどうかはまだわかりませんよ!それにトーマスさんと約束した通り俺の名前は出さないで下さいよ。」

「承知していますよ!コウさんなら出来ると信じています。」

 思いっきりの笑顔で言われると、つい頑張ろうと思う男の悲しい性が出てしまう。

「善処します。」

 今言えるのはこれだけだ。


 皆が待っているテーブルに向かうと、グレンを交えての話しが盛り上がっていた。

「お帰りコウ!お話は済んだ。」

 ココは話し内容が面白かったのか、笑いながら声を掛けてきた。

「一応済んだよ。面白い話をしていたようだが?」

「はいコウ様、グレンさん達の討伐の様子を伺っていましたわ!」

 いつもは兜を外さないレイナが、兜を外して笑っている。

 そういえば、パーティーを組んでからは何回か兜を外していたな。

「そんなに面白い話をした訳ではないんだが~それよりコウ殿を待っていたんだ。」

「俺に用事があるんですか?」

「コウ殿が受けるはずだった護衛の依頼を、【銀狼の牙】が受ける事になった。」

「護衛の依頼を~凄いですよ!もしかして依頼達成が出来ればEランクに昇級出来る約束を貰いましたか?」

「いや確約の約束はしていないが、ギルドからの指名があったので受ける事にした。それに昇級条件にもある護衛の依頼をこなせればEランクに近づくと考えている。」

「流石ですね。指名が来るという事は評価されていると思いますよ。」

「これもコウ殿の指導のお陰だ~感謝する。」

「俺は大した事はしていませんよ。グレンさん達の実力が評価されたんですよ。」

「そう言ってもらえると頑張った甲斐がある。」

 グレンは少し照れているようで、笑顔を見せてくれた。

「出発は2日後だ。一旦孤児院に戻って準備をするつもりだ。」

 グレンは皆に挨拶をすると、急ぎ足で帰っていった。


 グレンが居なくなった場所に座り、今回の報奨金をテーブルに並べると皆から声にならないような表情が見られた。

「白金貨?初めて見るよ!」

 ココは驚いていたが、レイナやテレサは知っている様子だ。

「こんなに貰っていいんですか?」

「当然の報酬だと思いますわ。」

 報奨金の分け方と、トーマスから頼まれた提案話を引き受けた事を皆に話した。

「コウなら出来るよ!」

「コウさんなら適任だと思いますが、大変そうですね。」

「コウ様なら大丈夫ですが、報奨金の分配に納得いきませんわ。」

 レイナが、報酬金の分配が納得いかないみたいだ。

「レイナ様、先程も説明したではありませんか。」

 レイナ・テレサ・ココの3人に1白金貨づつ渡し、残りの60金貨をシノと俺が受け取りしばらく冒険者活動より工房の準備をすることを伝え、皆は別のパーティー等で冒険者活動を勧めた話をしたのだが。

「報奨金はリーダーであるコウ殿が一番多く貰わなければおかしいです。」

「そうですよ!私達は貰いすぎです。」

「皆の言い分はわかるが、俺のわがままでしばらくパーティー活動が出来なくなるし、グラッサの街にある工房を見に行きたいので、しばらくはパーティーを離れるつもりだ。その間の保証金として受け取って貰いたいのと、武具の購入をしてもらいたい。」

「コウはまた戻ってきて、ギルドの工房でポーションを作りながら一緒に冒険もするんだよね!」

「ココの言う通りだ。このパーティーを解散するつもりはないし、単独でも構わないし他のパーティーと一緒でもいいのでレベルを上げててほしい。」

「なぜレベル上げが必要なのですか?

 テレサからの疑問に今考えている事を皆に話した。

「冒険者ならポーションの価値は分ると思うが、如何せん需要より供給が追い付いていないし、品質の良いポーションや上級ポーションが一部の冒険者だけしか与えられないのは不公平だと思っている。」

 皆は静まり俺の話しに耳を傾けてくれる。

「薬師の職業を選択する冒険者が殆どいないのに、偶然とはいえ俺は薬師しか選択出来なかったのは偶然ではないはずだ!その意味を考えると、俺はみんなの為にポーションや魔道具を作りたい。」

「ポーションだけでなく、魔道具も作成するのですか?」

 特にレイナが驚いていた。

「魔道具があれば色んな場所で役に立つはずです。」

「薬師の職業では魔道具は作れないのでは?」

 テレサも疑問に感じているようだ。

「テレサさんの言う通りです。魔道具を作れるようになるには薬師の上級職に当たる錬金術師にならないといけません。」

「この国の錬金術師は200年前に最後に1人が亡くなってからは、誰も現れていないと教会の人達から聞いています。」

 レイナがお世話になっている教会は隣町にあると聞いているが、そこでの知りえた情報だろう。

「高価なポーションは過去に作られたポーション液で、残りが少なくなっているのではと噂されています。」

「ギルドで販売している不味いポーションは?」

 ココが苦い表情でテレサに訊ねる。

「ギルドにある初級用ポーションの殆どが迷宮産で、冒険者から買い取って販売しています。中には中級用や特殊な効能があるポーションもありますが、迷宮産のポーションは迷宮から外に出ると劣化が始まり段々不味くなり効能も落ちてくるそうです。」

「それでもポーションの価値は高いです。薬草をすり潰した傷薬より何倍の効果と速効性がありますので、冒険者には必需品です。」

 薬についてはテレサは詳しい。

 たぶん、妹の病気の事で色々調べたのだろう。

「コウは美味しいポーションや便利な魔道具を作るのを目指すの?」

 ココが少し寂しそうな表情で問う。

「皆と安全に冒険をしていく為の手数を増やして置きたいのと、薬師では足手まといになるので上を目指したいと思っている。」

「この先も一緒にパーティーを組んでくれるの!」

 ココの言葉にゆっくりと頷いた。

「上を目指すにはレベル上げが必要だし、効果の高いポーションや魔道具を作る材料は地下迷宮の深層でしか採取出来ない。そこに到達するまでの実力が必要なので、皆でパーティーレベルを上げて手伝ってもらいたい。」

「コウ様の役に立つためでしたら、私も上を目指してレベルを上げますわ!」

「ココも、クロとシロと一緒に今よりも強くなるよ。」

「私はこの村からは離れられませんが、コウさんのお手伝いはさせて下さい。」

 皆の言葉が心に染みる。

 これからやることが多くなるが、目指す方向性が見えて来たようだ。

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