第49話 ギルドからの依頼

 地下迷宮の報奨金の計算を待っているあいだ、酔っぱらいの冒険者からの嫌がらせを防いだくれたグレンに感謝しながら、エリスからの伝言通り2階の副ギルド長の部屋の扉をノックした。


「トントン!コウです!」

「遠慮はいらない、入ってくれ!」

 部屋に入ると副ギルド長のトーマスが、ソファーに座るように勧めてきた。

「ダンセット遺跡の地下探索のデーター結果を、先ほどエリスから受け取った。」

 各自持っているギルドカードに記録された討伐データーを、トーマスは真剣な表情で眺めている。

「信じられない!全員無事に帰還したのか?」

 トーマスは困惑した表情を見せている。

「はい!迷宮内での負傷は回復魔法とポーションで対処できましたので、誰一人欠けることなく戻って来れました。」

「コウ殿の職業は薬師でしたな!戦力的には厳しいはずだが、討伐データーを見る限り大した実力の持主とお見受けする。」

「そんな事はないですよ~パーティーメンバーのお陰です。」

「Eランクでこれ程の結果を出せるのは、リーダーであるコウ殿の手腕ですな!」

 トーマスの持ち上げ方に何かあるのではと、内心警戒をした。

「ダンセット遺跡で討伐したゴブリンジェネナルにジャイアントマンティスは、Dランク以上の実力が必要な魔物です。Eランクそこそこのパーティーでは、考えられない程の成果です。」

「運が良かったかもしれませんが、ポーションを大量に持っていたので助かりました。」

「それだけではこの実績は残せないが、何か特別なものをお持ちであるのでは?」

 トーマスとのやり取りに困惑したが、ここで正体がバレるわけにはいかない!

 何が何でも誤魔化し通すつもりで、腹をくくっていた。 

「ギルドは個人の詮索はしない。レベルの高い冒険者が多くいれば、難易度の高い依頼もこなして貰えるので大いに助かる。」

 俺の意思を感じ取ったのか、トーマスの口調が急に和らいだ様に変わって話しを切り出した。

「コウ殿はポーションの価値をどのように感じていますかな?」

「ポーションの価値ですか?」

「各種類のポーションは、殆どがダンジョン内で採取された物をギルドが買い取り販売している。」

「但し!高レベルの冒険者達は高性能のポーション等は売らずにストックしており、ポーションが必要な低レベルの冒険者には中々行き渡ってないのが問題になっているのが現状だ。」

「そうですね~ポーションなしの戦闘や討伐は命取りになります。ましてレベルが低い冒険者であれば尚更です。」

 回復魔法を専門とする支援職は、レベルの低いパーティーには殆ど見かけない。知っている限りではグレンと一緒にいる双子の妹のユナぐらいかな。魔法使いもチラホラいるが低レベルでは戦力にならないはずなので、直接の武器攻撃以外は魔道具に頼るしかない。

「ダンジョン産のポーション以外は無いのですか?」

「ここから一番近いグラッサの町に1店舗と、後は大都にある店舗と王宮だけしか作成できる人材がいないと聞いている。」

「冒険者の数からして、あまりにも少ないですね。」

「その通りだ!王宮は騎士団専用だし、大都からは日数が掛かり日持ちがしないし盗難等のリスクが大きい。可能性があるのがグラッサの店舗だが、この店の主人が変わっており気に入った冒険者しか商売しないときており、質の良いポーションや魔道具はめったに売りに出ない。」

「ポーションを作れるお店が少ないですね。」

「需要の割に生産が追い付かなければ、ギルドや国にもシワ寄せが来るのでは?」

「ギルドや国が把握している錬金術師が、今の時代に存在しない。」

「錬金術師がいない!それではポーションは誰が作っているのですか?」

「200年前まではこの国にも錬金術師が多くいて、各地で大量に作成されたポーション液が保管されていたんだが、各地で底をついてきている。」

「200年前のポーション液は劣化しないんですか?」

 ポーション液は日が立つに連れて効果が落ちてゆくと聞いていた。

「魔力の高い魔導士達が、劣化防止の魔法を定期的に施すことで劣化を最小限に食い止めており、今日まで使用出来ている。」

「錬金術師がいなければ、保管されているポーションもいつかは無くなるという事ですか。」

「そういう事になる。」

「なぜ錬金術師がいないのですか?」

「コウ殿も冒険者登録時に適性がある職業が表示されたはずだが、生産系の職業は魔力量が多い者しか表示されない。魔力が多ければ魔法使いや僧侶の職業も同時に表示されるのが一般的で、その中から生産系の薬師を選ぶ冒険者は殆どいない。」

 トーマスのいう事はごもっともだ。

 冒険者になりたくて来ているのに、わざわざ生産系の薬師を選択する事は無いだろう。

 俺でも薬師以外の職業が選べたら、きっと他の職業を選んだはずだ。

「ギルドにとっては希望の人物と見込んでコウ殿に頼みたいことがある。」

「ギルドが運営している隣の診療所に、今は使われていない工房がある。」

 工房があったのか!どうりで大きな建物だと思った。

「強制は出来ないが、コウ殿がポーションを作り販売をしてくれるのなら、無料で使用して構わないぞ~寝泊りも出来る部屋もあるのだが・・・どうだろうか?」

 俺にとっては好条件だが、ポーションを作れる人物がいない状況で俺が作り始めると、俺の噂が広まり目だってしまう。

 冒険者達の役には立ちたいが、俺を召喚した奴らに居所がバレると面倒な事になるのは間違いない。

「俺はポーションを作った事もなく作り方も知りません。それにレベルを上げても錬金術師になれるかもわかりませんよ。」

 (本当の職業は賢者であり錬金術師でもあるが、この事は絶対に口外出来ない。)

「錬金術師になれる条件は薬師としてのレベル上げが必要だ。今すぐに出来るとは思ってはいないが、将来薬師として生計を立てるつもりなら、是非ギルドと契約をしてもらいたい。もちろん契約をしたからといってポーション作りの強制はしないし、コウ殿の寝床として利用するだけでも一向にかまわない。」

「その条件ではこちらは助かりますが、ギルドに恩恵が無いのでは?」

 あまりにも好条件すぎて何かあるのではと疑ってしまう。

「コウ殿の評判は聞いている。薬師の職業しか選択できない冒険者は救世主かもしれないと判断し、将来への投資と考えての事だ。」

 ギルドは冒険者の事を真剣に考えているんだろう。

「わかりました。ギルドとの契約を致しましょう。」

 トーマスの熱意に押し切られた形だが、この世界でお世話になる以上は恩返しはしたいが、目立たない方法を考えなけらばならない。

「そうか契約してくれるか。」

「ただし条件を付けくわえさせて頂きます。」

「どの様な条件かな?」

「制作者の名前は出さないでギルドの販売員として働かせていただきたいのと、作業員の選定はこちらに一任させてほしいです。」

「こちらは問題はない。」

 話がまとまってからはトーマスと色んな話ができ、俺にとっては貴重な情報が入手できた。


 しばらく世間話をした後に、思い出したようにトーマスが話をしてきた。

「ところでコウ殿に護衛の依頼の話をしていた事は覚えているかな。」

「覚えていますよ。Eランク昇級への条件に引き受けましたが、地下迷宮の功績でEランクに昇級したので護衛の依頼はどうなるのかお聞きしたかったのです。」

「コウ殿のパーティーはすでにEランクなので、無理に引き受ける必要はない。出来れば他の有望なFランクのパーティーに依頼したいと考えているのだが、コウ殿はどうかな?」

「そうですね~トーマスさんにお任せいたします。」

「そうしてもらえると、ギルドとして助かる。恩に着るよコウ殿!」

 トーマスとの話し合いも終わり、部屋を後にして皆がいるテーブルに向かった。


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