第7話 ノーマネー ノーライフ

 私の陳謝に村長さんが焦り、いやいやと慌てて手を横に振る。


「魔法使い様に謝ってもらうことなんてなにもないんじゃよ。砂漠の町人も喜んでおるしな」

「え、甚大な被害だったのに……?」


 かなえ丸によって町は砂だらけになったようだが、それを喜ばれるとはいったい。

 はてと首を傾げる私に、こどもたちが「あのねー!」と声をかけてくれた。


「フェンリル様が大サソリを退治したから、町の人は喜んだって父ちゃんが言ってた!」

「うんうん、大サソリに困ってたんだよねー」

「大サソリを穴から出したおかげで、町の人は平和に暮らせるようになったって」


 そう言いながらニコニコと笑うこどもたちを見て、ほっと息を吐く。

 どうやら、かなえ丸は迷惑をかけただけではないらしい。大サソリ? を退治したようだ。たぶん、本人(犬)は無自覚だろうけど。


「フェンリル様は祝福を授けてくださるからのぉ。じゃがそれは人間が決めることではなく、フェンリル様が自由に過ごすことで、その地が潤うからじゃ。フェンリル様が人間を気にしているわけではないから、こどもたちには逃げるように伝えてあるんじゃ」


 村長のほがらかな声に「なるほどなぁ」と私は頷いた。

 かなえ丸は なんていうか、人間のために施しを行うというものではないのだろう。とても強い存在がいて、その恩恵を人間側が感じるっていうのかな。日本の古来の神様の感覚に似ているかもしれない。


「じゃから、まさかフェンリル様に跨れる人間がいるなんて思ってもみなかった。こどもたちから魔法使い様がとても強いとは聞いたんじゃが、それだけじゃない。やはりフェンリル様の使徒ということになるのかのぉ、と」

「使徒っていうと、……私の感覚では、神様に仕えて、教えを広めていくという存在なのですが」

「そうじゃ。魔法使い様はフェンリル様の声を聞き、それを世界に伝える役目の方なのではないかと思ったんじゃが……」

「いえいえ、私はそんな崇高なものじゃないですよ。ただの飼い主です」

「「「は?」」」

「……いえ、なんでもないです」


 思わず言葉が出てしまったが、村長とこどもたちの表情を見て、即座に引っ込めた。うん。がちめの「は?」だったよね。「どういうこと?」とかそういう疑問がこもった「は?」じゃなくて、真理に背いているものに対しての「は?」だった。

 私にとってかなえ丸は大変かわいくて最高に愉快な愛犬なわけだが、ここに住む人たちにとってはフェンリル様。神様級なのだ。

 誤魔化すように微笑めば、村長さんとこどもたちも特に追求せず、微笑み返してくれた。

 そう。人間、理解が及ばないことは気にしてはいけないのだ。グレーのままでいる精神。大事。


「なにより、こどもたちをゴブリンから救ってくださり、本当にありがたいことじゃ。魔法使い様の使命や旅のことはわかりませんが、こんな村でよければゆっくりしていってくだされ」

「うん! ぼくたちが村を案内するよ!」


 村長のあたたかい言葉とこどもたちの笑顔。とても素敵だ。

 ……ので、ちょっと甘えてもいいでしょうか。申し訳ないが、行くしかない。


「あのですね、……図々しいとは思うのですが」


 本当に思うのですが。

 いかんせん、ちょっとこれがですね……割と重要な問題でして。


「ここでの暮らし方をちょこっと教えてもらいながら、……ごはんとかもらったり、ちょっと寝るところとかを……すこしの期間でいいので、お世話になっていいですか?」


 はい。私。無一文です。生活能力がゼロです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

でっかい犬と異世界さんぽ しっぽタヌキ @shippo_tanuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ