第6話 説明プリーズ
「本当に助かりました。こどもたちを助けていただいて、なんとお礼をしていいか」
「いえいえ、通りかかっただけなので、気にせず」
「しかし、まさか、あなたのような方がゴブリンと戦えるなんて、驚きじゃ」
「あ、はは、あはは、私も驚きです」
ね。本当に驚きだよね。まさか、自分が魔法を使える日が来るなんて。『ファイヤー』と言えば火柱が立つ。そんな自分に気づく日が来るなんて。
自分でも知らなかった自分に今日会えた。おめでとう新しい私。なにそれ。
助けたこどもに連れられて、やってきた村。大きな集会場のようなところで、私は村長に深々とお辞儀をされていた。
「ありがとー!」
「すごく強かったー!」
「魔法ってかっこいい!」
遠い目をして微笑む私に、さきほど助けたこどもたちからの声援が飛ぶ。
草原でかなえ丸を見たときは悲鳴だったが、私が火柱を上げることについては、非常に喜んでくれているのだ。わからんね、こどものテンションって。
私の魔法(?)でゴブリンを追い払ったあと、かなえ丸から逃げていたこどもたちはぴたりと足を止めた。
そして、私を見上げると、ぱぁぁと全員顔を輝かせたのだ。
火柱を上げた意味が私にはわからなかったが、こどもたちは瞬時に察知したらしい。そして、「魔法使いだ! 魔法使いだ!」と大喜びで私を村まで案内してくれた。
現在の私はこどもたちの説明によって、「ゴブリンを追い払った魔法使い」ということで、歓待されているというわけだ。
「この草原には昔からゴブリンはいたのじゃが、最近、妙に殺気立っていて困っておってのぉ。本来は警戒心が強い魔物で、あちらから人間を襲ってくることなど、ほとんどなかった。こちらの姿を見れば逃げるのが常だったんじゃが……」
「そうだったんですね」
村長の言葉にふむふむと頷く。
どうやら、向こうから襲ってくるタイプではなく、基本は人間と行動範囲が被っても、あちらが逃げていくタイプだったようだ。
わかる。だいたいの野生動物ってそうだよね。わざわざ人間を襲いたいわけではなく、偶然会ってしまって、あっちも驚いて襲ってくる的な。
「ところで聞きたいことが一つあってのぉ……。魔法使い様はフェンリル様の使徒なのじゃろうか?」
村長の言葉に、私を歓迎してくれた村人とこどもたちがごくりと唾を呑んだのがわかった。
どうやら『フェンリル様の使徒』というのが特別な響きらしい。が。
「……緊張感あるところすみません。あの、ちょっとどの単語もいまいちピンとこないです」
全然まったく。「あなたってもしかして噂のあれなの? みたいな、まさか違うよなぁ? 違うって言ってよね。でももしそうならちゃんと教えといて……?」みたいな空気感があるが、『魔法使い様』、『フェンリル様』、『使徒』とどの言葉もそれなんて? っていう言葉ばかりだ。唯一、話の流れ的に『魔法使い様』が私を指していることはわかる。
ので、とりあえず、説明ください。
私のまるでなにも理解していませんという表情を見て、村長と村人が顔を見合わせる。そして、どうやら私がなにも理解してなさそうだぞ、ということを察したらしく、おずおずと話が始まった。
その話をふんふんと聞いていく。
オケ。だいたいわかってきた。
「えっと、それで、つまり、かなえ丸は『フェンリル』という種族? なんですか」
「ええ、そうじゃ、光り輝く毛皮、強靭な体躯。わしらの国で崇拝されている『フェンリル様』に間違いない」
「フェンリル様は神様の遣いなんだよねー!」
「フェンリル様は神様より遣わされてこの地に入られた。そして、この国を自由に動きながら、各地に祝福を授けて下さる」
村長とこどもの言葉にほほぅと頷く。
どうやら、かなえ丸はこの国の守り神的な存在らしい。
おうちでゆったり寝て、さつまいもスティックが大好きだったかなえ丸を国の守り神と言われると、ちょっとイメージと違う。が、たしかにあの巨体であの強さであれば、守り神と言われると納得できる。
しかし、疑問が一つ。
「あの、もしかなえ丸が『フェンリル様』だとして、どうしてこどもたちやみなさんはそれを怖がるのでしょうか」
ねぇ。かなえ丸のことをめちゃくちゃ怖がってたもんね。
守り神なら、もっとこう崇拝みたいになってもよさそうだが。村人やこどもたちから『フェンリル様』が尊いものであるのは伝わるが、会えてうれしい! みたいな感情は見えなかったんだよなぁ。
「ええっ!? フェンリル様だよ! 怖いよ!」
「フェンリル様を見たら、逃げなさいってママに言われてるの!」
「フェンリル様は危ないんだよねー」
私の疑問にまず答えたのはこどもたち。
かなえ丸を見てのあの反応は、ちゃんと保護者からの教育が行き届いている証のようだ。
「このようなことを使徒様に申し上げていいかわからぬが、フェンリル様はこれまでも各地で爪痕を残しておるんじゃ。……最近、届いた話では、砂漠の大サソリが穴に逃げ込むのを見て、その巣穴を掘り返した、と。それだけならいいんじゃが、近くに町があり、その町は掘り返された砂の直撃を受けて、復旧までに相当な月日がかかるのではないか、と言われておってのぉ」
その話を聞き、私はザッと90度に腰を曲げた。
さきほどの村長のお辞儀より、もっともっと深い。
「すみません、すみません。かなえ丸が本当に申し訳ないです」
大好きだったんです。穴掘りが。
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