第5話 私もつっよ

 気分はまさにヒーロー。颯爽と犬(でかい)に跨り登場した私かっこいい。

 ゴブリンはさっき投げ飛ばされたのが効いているのだろう。現れたかなえ丸に怯え、二、三歩よろけてうしろに下がった。よし、これなら大丈夫そうだ。

 確信した私は、こどもたちの表情を確認した。きっとみんな、きらきらした目でかなえ丸と私を見上げていることだろう。

 もし、ゴブリンがこのまま逃げずに、襲ってきたとして、こどもたちは大き目な声援をくれるはず。「がんばれー」、「いけー」、「やれー」。OK、聞こえる。脳内に。が。


「わぁあ……!」

「ひっ、ふぇ、フェンリル様だぁっ」

「ごめんなさぁい、食べないでぇ……っ」


 聞こえてきたのは悲鳴でした。

 ……うん、これはあれだね。恐怖の対象。現れし新たな刺客。むしろゴブリンよりかなえ丸に怯えているね。

 いや、たしかにわかりはする。シベリアンハスキーは顔が怖いときもあるもんね。それがでっかくなった今、こどもたちの反応は正常と言えるかもしれない。しれない。しれないんだけども!


「ちょっと、待ってっ!」


 せっかくかなえ丸の体で守っていたこどもたちが、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。で、もちろん、かなえ丸から逃げるということは、ゴブリンたちに近づくということでもあって……。


「ダメッ! そっちはダメだよ!」


 かなえ丸の背から精いっぱい叫ぶ。

 しかし、こどもたちは恐怖から私の声は聞こえていないようで、止まらずにそのまま走っていってしまった。

 かなえ丸に怯えていたゴブリンたちもそれに気づき、「お?」という顔になる。まずいっ!


「どうしよう、かなえ丸!?」

「アウ?」

「あー、そうだねーかわいいねー!」


 かなえ丸に助けを求めてみたが、もちろん、きょとんとしている。そう。これがかわいい。

 あー! でも、どうしよう、こどもたちを助けるには!?

 一番、混乱していると思われるこどもが、今まさにゴブリンの目の前に飛び出して行った。

 どうしよう!? どうする!?


「ああ! こんなときに魔法とか使えたら……っ」


 いいのにねぇ! なんかこんなよくわからない場所でゴブリンなんかに出会うなら! でっかいかなえ丸に出会うなら!


「こうさ! ファイヤーみたいな!」


 ボウッ。


「ギィッ!」

「ギギッ」

「ギィィイイッ!」


 ゴブリンの悲鳴。さっきかなえ丸に咥えて投げられたときにもこんなに切羽詰まってはなかった。でも、今、すっごい悲鳴って感じ。

 「ヤダ、ナニコレ、コワイ」、「ナンテヒドイ!」、「ダメダ、スグニニゲル!」みたいな。

 理由はわかる。だって今、突然、火柱上がったもんね。ゴブリンとこどもとの間にちょっと事故ったキャンプファイヤーできた。こどもはもはや悲鳴も上げれず、その場で座り込んでしまってるもんね。あれは腰が抜けたってやつ。


「「「ギィギィギィ!!」」」


 ゴブリンたちが私を指差す。そして、その場にズササッと這いつくばった。うん、これは土下座。


「あ、いや、待って、さっきのファイヤーって言ったのはさ……」


 ボウッ。


「「「ギィィィッ!」」」


 はい。二度目の火柱。火薬量多めの爆発演出。

 その途端、土下座していたゴブリンたちが今度こそ本当に走って逃げていく。全速力。一度もこちらを振り返らない。


「……うん。これ、私か」


 私が『ファイヤー』って言ったからか。

 全然知らなかったけど、どうやら私、魔法使えたみたい。感じる才能。みなぎる才能。


「わたし、つっよ」


 つっよ。

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