第4話 やりたいこと
「どうしたの……っ!?」
こどもの悲鳴のほうへ向かって、慌てて声を掛けながら走る。
もし、こどもがいて、あのゴブリン(推定)に襲われていたら大変だ。
だが、すぐに駆けつけようにも、すこし距離があるように感じた。
「かなえ丸っ……」
さっき私を助けてくれたみたいに、かなえ丸がこどもを助けてくれるのではないかと期待してかなえ丸を見上げる。
が、かなえ丸はきょとんとした表情で私を見つめ返した。
「んー、だよねーっ! そうだよねえー! かなえ丸にはわかんないよねー!」
そう。かなえ丸はいつも明るくて陽気で愉快な犬だったが、人の指示を聞いて動く、よく躾けられた警察犬や盲導犬のような犬とは違う。私がいまここで「かなえ丸、きみに決めた! 体当たり!」などと言っても、「なぁに?」と目を輝かせて喜ぶだけだろう。そう。そこがかわいいんだ。
というわけで、かなえ丸に助けを求めることは即座に諦めた私はとりあえず走った。
そもそもかなえ丸に守ってもらおうというのが間違いなのである。飼い主は私だ。私がかなえ丸を守るのである。私isできる飼い主。
すると、走り出した私の横をかなえ丸がタタッと付いてくる。
もとから私の足がかなえ丸に敵うことなどないが、大きくなったかなえ丸にとって、私の全速力はただの牛歩だ。
横をついてくるかなえ丸が「え? 遅くない?」という顔をしている気がする。いや、違うから。私の足が遅いわけじゃないから。普通。普通だからね。かなえ丸は犬でしかもでかくなったんだからね。
走りながら心で言い訳をしていると、かなえ丸が声を上げた。
「アウアウ?」
「ん? なに?」
「アウ!」
かなえ丸が突然私の前で伏せる。
え? これはあれ? 「乗りなよ!」 的な?
「いいの?」
「アーウ」
かなえ丸に聞けば、「任せろ!」というように瞬く。
私は一瞬、逡巡してから「よし」と頷いた。
やろうじゃないか、国民的アニメ映画のあれ! 大きな白い犬に跨って、移動するやつ! 人類の夢と希望だよね!
なんせ今はこどもに危険が迫っているし、急がなければならない。
落ちたらどうする? とか、乗り心地は? とかも脳内に過ぎったが、今は無視。なんとかなる。なんとかなれ。
伏せてくれているかなえ丸の首筋に手をかけ、よいしょっと跨る。かなえ丸が私を手助けしてくれるように首を動かしてくれたおかげで、大きなかなえ丸の背に乗ることができた。
しっかりと私がしがみついているのを確認すると、かなえ丸が立ち上がる。
「わぁ!」
「アウ!」
立ち上がったかなえ丸の背から見る景色は視線が高い。すると、さっきまでは草に隠れて見えていなかったものを見えた。
「あ、あそこ!」
私の注目は一点。200m先ぐらいにゴブリンが見える。そして、そこにはやはりこどもがいるようで……。
「アウワウー」
かなえ丸はもごもごと話すと、ピョーンと飛んだ。
すると、私の体はふわっと浮く。でも、案外、乗り心地のいいかなえ丸の背から落ちる気配はなく、気持ちのいい風が吹いてきた。
「すごいっ!」
かなえ丸がゴブリンとこどもたちの間に着地する。
でっかいかなえ丸であれば、これぐらいの距離は一瞬だ。
こどもたちを見れば、まだケガをしている子はいない。
なんとか間に合ったみたい。間一髪!
「大丈夫っ!?」
こどもを守るように立ちふさがるかなえ丸に乗り、私は声を上げた。
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