第3話「詐欺」

 面接から三日後、早速通知が届いた。”合格”だ。私はその場でガッツポーズをして、直ぐにこのことを色々な人に伝えた。みんな、私がリストラになったと聞いて、心配していたようで、私がそのことを伝えると、安心して、喜んでくれた。私も、すごくうれしかった。一時的にバイト先が決まっただけで、ここまで喜んでいる私が恥ずかしい。私は、他に仕事がなく、就活をしようにも、そう早くできるものではないため、ここには毎日、出勤することにした。最初の出勤は、来週の月曜日だ。とても楽しみだ。この仕事には、何か”運命”のようなものによって引き寄せられた気がした。今日は火曜日。出勤まで、あと6日だ。



 そして、すぐに6日たった。楽しい時間がすぐに過ぎるように、楽しみにしている時間も、すぐに過ぎる。楽しい時間がすぎにすぎるのは嫌だが、この場合は、とてもうれしい。家から徒歩8分。あっという間に着いた。食堂の入り口には、”のれん”がかかっており、外からだと中の様子は見えない。私は裏口から入り、階段を上がり、事務室へと入った。


そして私は、その光景を見て、絶望した。


 面接のときのように、片付いてはいなかった。そして、何だか生臭い臭いがした。事務室に、食品が置いてある。従業員も皆、何だか暗い表情で、平均年齢は、70歳ぐらいのように見えた。


私:「おはようございます。今日からここで働かせていただく、金原真理です。」


私は、大きな声でそういった。すると、一人だけ高そうなスーツを着た30代くらいの職員が席を立ち、私にこう言った。


職員:「こんにちは。お待ちしていました。金原さん。私は、あなたの指導を任されている、笠原義男と申します。」


そして私は、ある”違和感”を感じた。職員は、私の中でその”違和感”が言語化されていない中で、こういった。


職員:「貴方、確かもう、”契約”をしましたよね。」

私:「契約?というと・・・」


そして職員は、顔に笑みを浮かべながら、隣の職員にこう言った。


職員:「契約書、持ってきてあげてください。」


隣の職員は、素早く、紙の束をもってきた。私と話していた方の職員は、それを受け取り、パラパラとめくっていた。


職員:「これですよこれ。」


その職員は、私にその紙束を渡した。”そこには、私のサインと、実印が押してあった。”だが、私は、こんな契約をしていない。契約内容を見てみると、”それ”が確証に変わった。


”これは、詐欺だったのだ。”


国の手にかかれば、私のサインと、実印を偽造することくらい、お茶の子さいさいだろう。その契約書によると、”私はこれから5年間、この職場をやめることはできない。”


 分かっていた。ずっと、分かっていたことなのだ。余りのも条件が良すぎた。私は少しニヤリとし、職員を見つめ、拍手をした。

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