赤いサンタと青いサンタ
むらさき毒きのこ
赤いサンタと青いサンタ
いつもより仕事が早く終わったサンタクロースは、夜明けの空を見ながらウオッカを飲みました。
「サンタさん、少し休んだらどうだい。もう一杯飲みなよ、さあ、さあ」
赤い鼻のトナカイがしきりに勧めます。サンタクロースはウオッカをひと瓶飲み終えると、ソリをトナカイたちに任せ、ひと眠りする事にしました。
***
サンタクロースが乗ったソリが気温マイナス三十度の乾いた大地に着くと、馬が三頭、待っていました。
「では、頼むよ」
「おつかれさまでした。良いお年を」
「良いお年を」
トナカイたちは馬たちに別れを告げ、行ってしまいました。
***
人っ子ひとりいない
ネコは、雪娘が来ることをサンタクロースに知らせるために、あなぐらから出てきたのでした。彼は、先が黒いしっぽをピンと立てて、にゃん、と、ひと鳴きすると、走行中のソリで寝ているサンタクロースの大きなおなかの上に着地しました。
「起きなさい、ジェド・マロース。
***
どこから来たのか、ふわりと現れた、雪のように白い顔の女の子は、眠っているサンタクロースに、青いローブを着せました。その女の子は、雪娘、といいました。
「おじいさん、起きて下さい。子供たちが待っていますよ」
***
雪娘の声で、サンタクロースは、目を覚ましました。
「いかん、寝過ぎたようじゃ」
「おじいさん、杖ですよ!」
雪娘が、大きな白い杖をサンタクロースに手渡しました。すると、サンタクロースは元気になって、ぴょんと飛び起きました。
「ほいきた!」
サンタクロースは、輝く魔法の杖をひとふりしました。すると、冷たい風が吹きました。
「そらきた!」
サンタクロースがもういちど魔法の杖を振ると、雪が降り、太陽が隠されました。
あんまりにも冷たい風が吹くので、街には人っ子ひとり、いなくなりました。家々には灯がともり、家族や友達、親せきにご近所さん、そしてたまたまそこに通りがかった旅人が集います。
千個のお
***
「おじいさん、行きましょう!」
サンタクロース……いいえ、ジェド・マロース(寒さ爺さん)は雪娘と一緒に、子供たちが待つ、新年のお祝いに向かいました。
***
「ちぇっ、いいなあ。おれも新年のお祝いに、行ってみたいものだ。だけど、おれは呼ばれていないものな」
ネコは寂しそうにつぶやくと、温かいあなぐらで丸くなりました。あなぐらのネコの寝床には、ジェド・マロースからの贈り物……新年のお祝いの、招待状が入った封筒が、置かれていました。封筒には十三匹の動物の、輪が描かれていました。その輪は、初めがネズミで、ネズミはしんがりにいるネコの、しっぽをくわえているのでした。それを見たネコは、嘆きました。
「なんて嫌な絵だ。ネズミに四六時中追いまわされるのは、ごめんだよ」
その夜、ネコは新年のお祝いに行きませんでした。村の長老、ボルじいさんの家のネズミを捕まえてお腹いっぱいになり、そしてまた眠りました。
***
「おじいさん、今年もネコは、来なかったわね」
雪娘は悲しそうな顔で言いました。すると、ジェド・マロースは言いました。
「本当の願いは、本人にすらわからないものなのさ。わしがどうして、ネコの本当の願いをわかるというんだい?」
ジェド・マロースの赤い鼻を、つん、と突っついて雪娘は言いました。
「そのひとが本当に欲しいものを探してくるのが、おじいさんの仕事なのよ!」
するとジェド・マロースは「あいつは人じゃない、ネコじゃあ」と言って、杖を放り投げてしまいました。
「もう、おじいさんったら!」
雪娘は魔法の杖を拾うと、胸に抱きました。
「ふむふむ」
ジェド・マロースは、青いローブと、赤い服を脱いで、暖炉の前でパイプをくわえ、ロッキングチェアを揺らして、くつろぎ始めました。ゆれる火を見て、雪娘の空色の目が、すみれ色になり、輝く金色の髪は、くすんでしまいました。
「おじいさん、おやすみなさい。わたしも休むわね、疲れてしまったから」
「スネグーラチカや、そうしたらいいよ。おやすみ」
雪娘は魔法の杖と一緒に、行ってしまいました。
***
そして一年の大仕事を終えたジェド・マロースが衣を脱いで南の島にバカンスに行く頃、北の大地に、短い春が来るのです。
***
参考資料
・ロシアの民話「ゆきむすめ」 岸田矜子・文 スズキコージ・絵
・モンゴルの民話 松田忠徳 訳編
・暮らしの情報・雑学広場「ジェド・マロース:ロシアの青いサンタの物語と海外のサンタの手紙」よりhttps://climbingfan.work/3018.html 2020/12/24閲覧
・とあるモンゴル人のお話「モンゴルのサンタは青い服です。そしてクリスマスはモンゴルには無いです。大晦日に、サンタが来ます」より
赤いサンタと青いサンタ むらさき毒きのこ @666x666
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