ワイバーン食う

滝川 海老郎

本編(2000文字)

 Sランクパーティー「シルビア」。


「おい、ガルド、そっちいったぞ」

「まかせろ」


 俺がガルド・スタインシュット。シルビアのリーダーだった。

 敵であるワイバーンは、運がいいことに単騎だ。

 ワイバーンは亜竜であり、小型の竜種だ。

 通常は群れる性質があるため、あまり単独行動はしない。


 俺たちは、運がよかったのだ。


「サンダーボルト!!」


 雷の刃が空を駆け抜け、ワイバーンにダメージを与える。

 致命傷だったのか、空から落ちてくる。


「やったか?」


 楽観的なのは、サブリーダーのマイトンだ。


「まだよ、息がある」

「そうだな、うりょああああ」


 俺が剣を掲げて突撃していく。

 我が剣がワイバーンに深く突き刺さり、心臓を貫通した。


「やったぞ、みんな」

「た、倒したのね」

「おつかれさん」


 姫騎士のシェリーに続いて、マイトンが声を上げた。

 さてこれからが本番だと言ってもいい。

 まず、周りにさらに強い魔物がいないか索敵をする。

 特に俺のレーダーには反応しない。よかった。


 ワイバーンの皮をはぐ。

 丈夫なのだが柔らかくしなやかだ。

 様々な製品に利用されるので、高く売れる。


 そうして現れたのが肉だ。


「美味しいそうね」


 シェリーがペロっと舌を出して笑う。


「ああ、待ってろ」


 俺はまっさきに翼の根本の背中の肉を切り取っていく。


「火の準備は?」

「もうできてるわ」

「助かる、シェリー」

「私も食べたいもの」


 あらかじめ用意してあった串に肉を刺して、火の周りに並べていく。

 さて肉を焼く待っている間に解体を進めてしまう。


「美味しそう」

「もうちょっとだな」


 仕上げに肉に塩コショウを少々振りかけておく。

 赤い肉は徐々に茶色になり、焼けていく。

 少し焦げ目がついたあたりで、そろそろいいだろうか。


「「「いただきます」」」


 肉にかぶりつく。

 うまい!

 ほどよく柔らかいが食べ応えのある弾力のある肉質。

 赤身肉だが、しっかりとした旨味があり、あふれる肉汁はこれでもかと、存在を主張している。


「うまいな」

「美味しいわ」

「最高だ!」


 俺、シェリー、マイトンと三人ともが感涙の声を上げた。

 それほどまでに今まで食べてきたどの肉よりうまい。


 この日の晩は、少し離れた場所でキャンプをする。

 肉をたらふく食べたせいか、久しぶりにぐっすりと眠ることができた。


「おはよう、二人とも」

「おはようございます。ガルドさん」

「おはよう、ガルド」


 二人も朝から元気があるようだ。

 ワイバーンの肉には疲労回復効果でもあるのだろう。

 曲がりなりにもワイバーンもドラゴンだという事実だ。


「ドランゴンハンターとか憧れるよな」

「まあな、ただドラゴンとワイバーンじゃな」

「違いねえ、あはは」


 マイトンが笑った。

 いいんだ。いつかなってやるさ、ドラゴンハンターにな。


 山から一日、麓の一番近いラミール村へと到着した。


「おおおい、おかえり、シルビアさんたち」

「ただいま~」

「どうだった。ワイバーンは?」

「倒してきたぜ」

「うぉおおおお」

「おおおお」

「やったあああ」


 村人たちは大歓喜だ。

 それはそうだろう。

 村の近くにワイバーンが一匹で住み着くようになってしまい、被害は出ていないものの、いつ誰が犠牲になるか分からなかったのだ。


 村の広場に調理場が設けられた。

 そこに大鍋が並べられて、中にワイバーン肉と村で採れた新鮮な野菜を入れていく。

 調味料は塩ばかりだ。

 使う肉は柔らかい腹の部分の身だ。

 ワイバーンは牛よりも大きく、肉もたくさん取れた。

 マジックバッグに収納してあるので、王都に持ち込んでも腐ることもない。

 残りの肉は王宮主催のパーティーなどで振る舞われるだろう。


 すでに村人は広場で酒盛りを始めていた。


「ワイン出そう、ワイン」

「だー酒、酒」

「飲むべぇ」


 酒盛りをしている間、鍋はぐつぐつと半日ほど煮込まれた。


「シチューが出来たよ、みんな」

「「「おおおおお」」」


 ここから第二開戦が開始された。

 ワイバーンシチューはそれはもう野菜と肉の旨味だっぷりで、なかなか美味しいい。


「うまいっ」

「おいしいっ」

「こんなの、初めて食べたよぉ」



「「「かいぱい!」」」


 俺たちも笑顔でそれに混ざっていた。

 姫のシェリー、それから従者であるマイトンと共に、酒を飲み、シチューを食べる。


「これで、お父様に結婚の申し込みを……」

「そうだな、シェリー」


 姫と父親。すなわち国王様だ。

 第三姫とはいえ、直系の権力はそれなりだ。


「結婚してくれ、シェリー。一生大切にする」

「はい、もちろんです。共にしましょう。ガルド」


「ひゅーひゅー」

「よっ、お熱い」


 俺たちの誓いの言葉、プロポーズを受けて、村人たちがどんちゃん騒ぎをする。

 ただの男爵家の次男から冒険者をはじめて、S級まで上り詰めてきた。

 俺はただただ、強くなりたいと幼い日の弱い自分と戦ってきたのだ。


「シェリー……」

「ガルド……」


 そんな折、姫を冒険に連れていってほしいと国王に懇願された。

 邪魔だと最初は思ったさ。

 しかし、いまではいないと困るパートナーになっていたのだ。

 これからは二人仲良く生活していきたい。


 王都に行ったら、国王に討伐の件と結婚の件、報告しなければならないな。

 俺たちの冒険は続く。


(終)

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