第5話 花の意味
お父さんの腕を掴んで顔を見上げると、もう目が潤んでいる。それを見た私も鼻の奥がツンとする。扉が開くと拍手が一気に響いてきた。お母さんもベールを降ろしたときに涙が頬を伝った。赤いカーペットの上を歩いていく。高校、大学時代の友人が手を振ってくれているのがベール越しに見える。茉奈が目をハンカチで押さえている。お父さんもお母さんも茉奈もまだ早いよ。
お父さんの腕から離れ、彼に導かれる。胸元のペゴニアが目に入ると瞼の裏に大切なシーンの記憶が舞い戻った。チョコレートを渡したとき。プリザーブドフラワーを渡して立ち去った太一君。同窓会を二人で抜け出して告白された夜。
ホテルの最上階でディナーしたとき、太一君は新しいプリザーブドフラワーをプレゼントしてくれた。ガラスの中に咲く三本のバラは赤く輝いていた。
「涼音」
プリザーブドフラワーから視線を上げると、太一君の手の中にはきらきらしい指輪が光を反射させていた。
「僕と結婚してください」
私、泣きすぎて「うん」が言えなくて、何度も頷くしかできなかったんだよね。
「花はどんな意味があるの?」
「それは家で調べてみて」
相変わらず恥ずかしがり屋なんだから。三本の赤いバラ。ちゃんと調べたよ。三本のバラは『愛しています』。プリザーブドフラワーは寿命が長いから『永遠に』の意味が加わるんだよね。だから『永遠に愛します』ってことかな。意味が分かったとき、また家で泣いちゃったよ。太一君、ありがとう。
プリザーブドフラワー 佐々井 サイジ @sasaisaiji
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