第4話 成人式

 大学に進学してから私を好きになってくれる人がいて、告白されたけど断ってしまった。どうしても太一君の顔がちらついてしまう。その状況で付き合っても相手に失礼だ。だからといって太一君に連絡する勇気がない。もう彼女がいて私のことなんか忘れているかもしれない。東京なんて魅力的な女性がいっぱいだろうから。


 結局、女の子の友達とばかり関わることが一年続いたころ、高校の同窓会の案内が来た。成人式のあとにホテルでするらしい。茉奈から太一君が来ることを教えられた。おせっかいは高校時代から変わらないな。行きたいけど何喋っていいかわかんない。でもこのまま太一君が脳裏にちらついていたらいつまでも前に進めない。けじめをつけるつもりで参加を決めた。


 円卓はコバルトブルーのテーブルクロスに包まれていて、ホール内に規則的に置かれていた。その円卓を囲うように茉奈や友達が昔話で盛り上がるけど、茉奈の奥に映る太一君にピントが合い、周りがぼやけてしまい話も入ってこない。紺色のスーツを着こなす太一君は背中を向けているので声をかけにくい。


「早く喋って来なよ」


 茉奈に唆されるけど、やっぱり無理。あの決意はなんだったんだ。茉奈からの催促から逃れるために「お手洗い」と言ってホールを出た。ため息が漏れる。


「北岸さん」


 懐かしい声が後ろから飛んできて、身体が少し跳ねた。


「ちょっと外で話したいんだけど大丈夫かな?」

「うん」


 コートなしだと冷たい風が体を縮こませる。でも、やっと太一君と二人きりになれた。


「卒業したあとのホワイトデーにさ、プリザーブドフラワーをプレゼントしたこと、覚えてくれてる?」

「まだ部屋に飾ってるよ」

「本当に? 嬉しいな」太一君は言った。「プリザーブドフラワーは二年くらいしか持たないからそろそろダメになると思って。だから今日はけじめのつもりで来た。あのとき勇気がなくて言えなかったんだけど、もう気づいてる?」


「えっ何が?」

「あのペゴニア、告白って意味があるんだ」


 太一君と目が合い、鼓動が激しく波打っている。寒いはずなのに、頬が熱くなり出した。


「俺、北岸さんのことがずっと好きでした。付き合ってください」

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