第3話 プリザーブドフラワー

 いつもの通学路を私服で自転車に乗っているのは何だか違和感があった。公園が見えると、太一君がベンチに座っていて私は駆け脚で近づいていった。


「ごめん、遅くなっちゃって」

「ううん、二日前に来たばっかだから」

「待ちすぎだよ」


 へへっと太一君が笑って、つられて私も笑った。プラスチック製のベンチは冷たくて、お尻の下に手を入れて座った。太一君はLINEのやりとりとか二人だけのときは、口元の緩むことをよく言う。太一君の言うことは何でもおもしろかった。


「これ、バレンタインのお返し」


 太一君は赤くラッピングされた小さな箱をくれた。


「北岸さんのスマホケース、新しくなっても花柄だったから花が好きなのかなと思って……。あ、でも中はまだ見ないで。恥ずかしいし……」

「ありがとう。嬉しい」


 私の趣味、わかってくれてたんだ。


「受験、どうだった?」


 私はゆっくり太一君の顔を見たけど、まっすぐ前を向いたままだった。


「第一志望はダメだった。第二志望の東京の大学に行くよ」


 太一君は、引っ越しの作業があるからと言って立ち上がった。ベンチが少しだけ揺れた。なにか言葉を掛けたかったけど、ただただ太一君の背中を見つめることしかできなかった。


 家に帰って箱を開けると、ピンク色をしたペゴニアのプリザーブドフラワーが一輪咲いていた。かわいくて机の一番見えるところに飾った。チョコレートを渡せただけで充分だって思っていたのに、離れ離れになる実感が湧いてきて、視界が潤んだ。

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