~海異~ 第十話
急いで車に乗りこみ、最大限のスピードで走らせたあなたは、安定した車道へ出るとバックミラー越しにわが子を確認しました。まだ何ごともなく寝ています。少し心を落ち着かせ、安定したとき、ハッ・・・と、徐々に思い出していきます。
そう、去年、ここにきた時のことを・・・・・・
なぜ忘れていたのだろう。いや、この一年、どうしていたのだろう。フラッシュバックのようにどんどんと思い出していく。山沿いに、一山超えたところでまた一つ気が付く
《土砂崩れなんて・・・無かった・・・》
そこで、あなたは全てを思い出しました。
《・・・私は・・・『
《離婚して・・・なにもかも、うまくいかず・・・・・》
《私だけ・・・死にきれず・・・》
《晴斗って・・・だれ?》
あなたは後部座席に寝ているはずの『修也』を確認するために車を停めて、ゆっくりとドアを開け顔を確認しました。
《え・・・だ、誰?!・・・》
ショックで愕然としました。その顔は『修也でもなく』、一年間わが子だと”思い込まされた”『晴斗でもなかった』のです。
腰を抜かせながら、顎も震わせながら、記憶を取り戻したあなたは一年前にも同じようなことが起こったこの状況すら思い出しました。
車の後部座席から子供が起き上がり、あなたの元へゆっくりとやってくる、まだ知らない初めて見る男の子と、晴斗の顔が交互に重なって見えます。
今のあなたは絶望しかありません。全く知らない晴斗という子をこの一年間、我が子のように可愛がっていたこと。本当のわが子の修也と『心中』しにここへやってきたのに、自分だけがまだこうして生きていること。わが子への罪悪感、悔恨。自分への呵責、背徳感と不甲斐なさ・・・・・・
涙が滝のように流れ、あなたは嗚咽するほど号泣しました。恐怖で逃げることよりも、後悔と絶望が勝り近づいてくる別の子供の霊に抵抗することもできず、ただただ両手を後ろ手に、尻もち状態のままコンクリートの冷たさをも感じながら全てを受け入れます。
その見知らぬ子の足元には、戦隊ヒーローのサンダルが、片方だけ・・・・・・
あなたは無抵抗のまま、戦隊ヒーローの子に抱かれました。全身がびしょ濡れで、あなたの着ている服もどんどんと濡れていきます。その浸食と同時に、記憶もどんどん塗り替えられていきました・・・・・・
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