第3話

駅からの道を2人で歩いている。駅の明るさとはうって変わってここは街灯のみの暗く、透き通った空気だ。その透明さが僕の心を掻き乱していく。

後ろから警察は追ってきているのだろうか。彼にやったことは現実なのだろうか。彼は生きているのだろうか。

そんなことを考えるたびに胃がちぎれそうになる。誰かに話してみたい、と思いつつ、もどかしいままだ。


現実なのか夢かさえわからない罪。それによる心の重さ。未来の僕はどう感じるか、馬鹿馬鹿しい。

「あっ、芭空から連絡きたよ。会えるの楽しみだって。」愛亜が言った。

そうか、久しぶりに3人で会うんだ、懐かしさが溢れる。


彼女に会う前は、別に何をやっててもどうでもいいと思えたが今は違う。あの時の僕はこんなところに来てなにがしたかったんだっけ。そうだ、警察に追われてこの街を混乱させるとか考えていたっけ。

今はもう疲れた。落ち着いて考えたい。何が何だかわからない。昔の懐かしさと、この焦燥が混ざって真っ黒になってる。


「あと何分くらい?」気まぐれに聞く。長い方がいいな。彼と会う前に整理したい。

「あと5分くらい?もうすぐだよ。」

…どうしよう。


大通りに出た。車のヘッドライトが眩しい。結構歩いたからかあの駅とは違った静けさがある。

「あ、そーだ。なんかスーパーで今夜の買っていこうよ。」

彼女が言った。目の前にはスーパーが見える。


こんな深夜に営業しているのも珍しい。そう思って入ってみると思ったより人がいた。子連れの親もいる。子供がアイスを親にせびっている。昔僕も同じようなことをしたっけ。思い出せない。きっとそんなこともあったなと思う。


気づけば彼女を見失っていた。外見の割にかなり広いところなので、探すのは大変そうだ。入口で待つとしよう。そう思って外に出た。


外は寒かった。深夜に半袖はやっぱりきつい。そう思ってるといきなり声をかけられた。さっきの警察だった。

「大丈夫ですか?」

落ち着いた声の割に威圧感が感じられる。

はいと答える。

「今何をしていますか?」

買い物をしているわけでもないから変にみられたのだろう。

「連れが買い物してて、待ってます。」

「そうですか、もう一度お名前を伺っても?」

彼の目が鋭く感じられた。ああ。なんだろう。とても疲れていたんだ。

「鈴木太郎で、、」

「あ、いたー。探したよー。」

愛亜の声がした。

「どうしたのー那威、警察?」

車のライトで後ろから照らされた彼の顔は表情こそわからなかったが目は鋭く光っていた。


途端僕は逃げ出していた。逃げ切れるとか思ったわけじゃない。本当に。けど、そうせずにはいられなかった。一度落ち着いて考えたかった。愛亜の前から消えたかった。

少し走って公園に出た。公園の木の後ろで息を潜める。


愛亜と芭空とかくれんぼした公園に似ている。本当に彼女たちとは仲がよかったんだ。ずっと。仲良くいれたはずなんだ。


中学、高校の時の僕は今思えば黒歴史だ。奇をてらって、人と関わらないことを望んだ。他人なんてどうでもよかった。全ての自分にまとわりついてくるものを鬱陶しいと思った。だから友達も幼馴染の彼女らしかいなかった。


あれは高校の卒業式の一ヶ月前、幼馴染だった僕らはそれぞれ違う大学に行くことが決まっていた。僕は急に別れを意識して焦っていた。一日一日を大切にしたいと思った。だけど僕は努めて冷静にいて、その思いを全力で消し去ろうとした。


それで、ああ、思い出せない。

周りが気持ち悪いと思って否定した。

何かが崩れた。

そのあと僕は1人になった。人ともっといたいと思ったんだ。だから、水泳を続けずスキーを選んだ。

それなのに、全て忘れていた。


今すぐにでも、やり直したい。あの頃を忙しい日々で忘れていた。


サイレンの音が聞こえる。

もう灯っている光の少ない夜の街で、赤い光が揺れる。

周りがぼやけていく。


ああ、周りから白い光が差している。

パトカーの光だろう。

サイレンがさらに強く聞こえる。


ここは明るい。

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イルミネーション 保志零二 @hosi_1001

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