アシダカ軍曹の受難

アヌビス兄さん

アシダカ軍曹はこっそり駆逐する

「大佐、敵地に到着した」


“10年以上引きこもっているニートの部屋だ。敵の数は先に駐屯している小隊に確認してくれ、大家は来年この部屋の住人を追い出すつもりでいる。君に与えられた期間は1年だ。やれるか? 軍曹”


「1年? 半年の間違いだろう大佐、今より任務を開始する」


“頼んだぞ軍曹、我等、神虫の名に誓い、全ての害虫に撃滅を”


「コピー」


 クソ人間のみんな、これはほぼ全てがノンフィクションの物語。私達の知らぬ間に滅ぶべき人間の為に日夜戦っている歴史に残らない戦士達の戦いの記録である。

 その前に人間と人間を恐怖させるインベーダーについて語ろうと思う。

 

 世界が創造される初めに、色々素敵な物があった。素敵な物は神と共にあった。素敵な者は神であった。即ち素敵な神は素敵な物を作る事にした。


 空、素敵! 

 海、素敵! 

 森、素敵! 


 そして素敵な物の究極の造形として神は人を作った。人は美しかった。人は絵を描き、歌を歌い、愛を語り、素敵だった。


 だが、人は知恵をつけ、エロ同人誌を作った、卑猥なダジャレを言うようになった。浮気するようになった。


 邪悪になった。



 神は嘆いた。素敵だった人間が邪悪になった。その為に神は人間を抑止する為により邪悪な者を作った。


 それを●●●●という。人間は生理的にこの文字を読めなくなった。それらはGとか、台所の悪魔とか、奴とか、優勝じゃない方のアレとか言われるようになった。 


 古い古文書にはゴキ●リとか●キブリとか記載があり、人間には読めず、予想もできない恐ろしいスペルとなった。

 その●●●●に怯える人間達、恐怖し失神する者、廃人となる者。 

 素敵な神はこれ以上素敵であって欲しい人間が苦しむ姿を見たくなかった。●●●●をこの世界から消そう、そう思ったが神は●●●●は人間の試練であると思うようになった。


 その為、慈悲深い神は人間に救済を与える事にした。

 救済の化身。そこで神は一つ思いとどまった。●●●●を速やかに抹殺する美しき神造兵器を見て、このままでいいのだろうか? 


 ●●●●と人間、そこまでの差があるのだろうかと? 神造兵器は決して人間を襲わない安心無垢の存在として、しかし人間には●●●●と同じく嫌悪するように感じるインプットを行い。


 神は試した。人間達は神造兵器を人間達が受け入れてくれるのか? 



 結果に神は落胆した。

 人間とは失敗作だったのだ。神造兵器を●●●●と同じく非難し弾圧した。されど、神造兵器は人間にお礼を期待するわけでもなく、報酬目当てでもなく、今日も●●●●を撃滅する。


 これは神話の時代に生まれた神造兵器が現代においてアシダカ軍曹と呼ばれるようになった頃のお話である。


愚かな人間達よ刮目せよ。


 これは愛される事を求めたわけでもない、存在価値や理由すらもいらぬ、突き放す人間に寄り添った戦士の物語を語ろうと思う。


「現場に到着した。そして既にもう二体の●●●●を殲滅、想像以上に酷い事になっている」


 彼女は今回の主役、アシダカ軍曹。長い脚、背中のウェポンボックスには髑髏のマーク。灰色の長い髪に灰色の瞳、黄金比率の肉体はまさに神造兵器に相応しい。

 グレーのベレー帽をかぶり直し、周囲の索敵を開始する。もし、神が彼女を見た人間が彼女を嫌悪するインプットを行っていなければ、世界中にいるアシダカ軍曹は虫かごにとらえられ、毎日のようにその美しい姿を視姦された事だろう。

 

「敵か? 撃滅する」

「ま、ま、まってくださいよー姉御ぉ! 僕らっすよ。ハエトリグモ小隊っす」


 アシダカ軍曹は先遣部隊と合流したらしい。軍曹とは違い小型の人間であればきっと美少女、美少年達。両手に持つダガーで小型の●●●●を殲滅し、無限に近い速度で増殖する●●●●の増加を食い止めてきた。しかし、小隊の力だけでは及ばず軍曹がこの死地に派遣されたのだ。


「状況を簡潔に説明しろ。それと二等兵、私は軍曹だ。現場とプライベートは区別しろ」

「はぁい、ごめんなさいっす」

「だが、よく生きていた。誇りに思う」

「姉御ぉ!」


 そう、このようにアシダカ軍曹はドブ臭い人間と違って心まで綺麗なのである。ハエトリグモ二等兵も喜びを隠せず飛び跳ねる。ハエトリグモ二等兵が語る状況を聞いてアシダカ軍曹の顔が曇った。


「姉御、報告するっす、部屋内に要塞は二つブラウンフェザー●●●●の者です。ソルジャー級10、ファイター級35、そして僕らがメインで屠っているベビー級120、こいつらはよりやっかいなのがシュヴァルツ●●●●。ベビー級80、ファイター級20、ソルジャー級6、そして……モンスター級1っす」

「モンスター級だと! 正気か?」


 頭の悪い諸君らクソ人間に説明しよう。モンスター級とは要するに君達人間が喜んで食すお寿司くらいの大きさという事だ。


 その意味は人間であれば恐らく遭遇即ち約束された死が待っていると言っても過言ではない。


 

「ここまで、ここまでよくも酷い有様にしてくれたものだ」

「そうっすよ姉御、人間ってなんなんですかね?」

「人間じゃない、本部だ。もっと早く私が来ればこんな事にはならなかった。背中の八式殲滅兵器を解放する。巻き込まれるなよ?」

「久しぶりに姉御の本気が見られるんっすね! こいつは熱くなってきたっす!」

「貴様らはブラウンフェザーのベビーとファイターの撃滅、シュヴァルツのベビーの殲滅、そして連中の基地制圧。私はその他に連中を屠る。いいな?」

「コピー!」


 アシダカ軍曹は背中の禁忌の兵器を解放する。八本に別れたそれぞれ●●●●を殲滅する為だけに研ぎ澄まされた決戦兵装。時折優しい笑顔を見せるアシダカ軍曹が鬼になる。この姿に敬意を評して、皆はこういうのだ。


 アシダカグモ殺戮の天使と、1万年と2千年前からアシダカ軍曹は人間達の味方だった。だが、人間などという愚かな存在と出会わなければ殺戮の天使になどならずに済んだだろう。だが、我らがアシダカ軍曹はそんな事は微塵も思った事もない。


「敵索敵範囲にヒット。撃滅を開始する」


 ●●●●は恐ろしい機動力を誇る。時速300kmを越えるスーパーカー並みなのだ。それに対して、


「遅い、地獄で神虫に懺悔せよ!」


 アシダカ軍曹は時速3000km戦闘機並みの速度を誇る。自分達が殺された頃すら気が付かない●●●●は首を落とされたのに動き回り、そしてやがて死に至る。

 何故ここまで人間に無償の愛を与えるのか?

 アシダカ軍曹は人間を、愛しているのだ。


ヒトを知ったその日から私の地獄にカサカサ音は絶えない」


 物悲しくそう呟くアシダカ軍曹、それはさしずめ叶わぬ恋をする乙女のように、振り向いてもらえずとも、野蛮な姫として君主の為に刃を振るうように、戦って、戦って、戦い抜いた。


 毎晩生き残ったハエトリグモ小隊と野営を囲み、未来を語り、愛を歌う。されど、ソルジャー級やシュヴァルツのファイター級の前にはハエトリグモ小隊の隠密武器ではかなうはずがなく、一つ激戦の夜を越える毎に減っていく仲間達。


「姉御の決戦兵装、随分短くなったっすね?」

「お前たちも随分数を減らした」

「僕ら、負けるんすかね?」

「……負けさせないさ。私が全ての連中を殲滅する。ここに奴らが生きて良い場所はない」


 されど、嫌悪しているハズの人間は●●●●達に支援物資を送るように食べかす、飲み貸すを散らかしていく。恐るべき事が起きた。シュヴァルツ●●●●側で二体目のモンスター級が産まれたのである。ブラウンフェザーサイドのベビーやファイターすらも食い散らかし、戦局は最悪の一言に尽きる。

 それを知った残り少ないハエトリグモ小隊はアシダカ軍曹に提案した。


「姉御、アップデート脱皮してください」

「バカを言うな。この状態でアップデート脱皮など自殺をするようなものだぞ。連中がその隙に」

「姉御、僕らが命をかけて姉御のアップデート脱皮を守るっすから」

「だからバカを言うなと、それじゃあお前達が……」

「バカを言うなは姉御だ! 現状分かれよバカ! もうそれしかないんすよ!」


 残り少ないハエトリグモ小隊、中には戦闘なんてできるハズのない負傷兵も紛れている。


「アップデートしてください軍曹」

「軍曹、俺も連れていってください……やつらを月までふっとばしてやりましょうよ」

「ぐんそう……●●●●、倒して」


 軍曹、軍曹、軍曹と、アシダカ軍曹の目から光るものが流れる。それは大事な部下、仲間達との別れの覚悟。


「分かった。アップデート脱皮を開始する。そして必ず、ここにいる連中を手土産に近い内にお前達に会いに行く」


 アシダカ軍曹はアップデート脱皮する事で兵器を再生、さらに巨大化する事ができる。全ては人間の為に、しかしアップデートはしばらく動けなくなる諸刃の刃。こんな危機的状況で行う手段ではない。それでもアシダカ軍曹は目を開ける。アップデートが終わったのだ。

 そこにはハエトリグモ小隊の顔なじみの顔。


「姉御、おそかったっすね」

「あぁ、無事だったか、良かった……!」


 そこにはたった一人、小さい身体でアシダカ軍曹を守ったハエトリグモ小隊の顔なじみ。既に四肢はもげ、アシダカ軍曹が目覚めるまで無理やり魂をその身体に縛り付けていたように、ゆっくりと、アシダカ軍曹の手の中で天に召された。


 そんな失意のアシダカ軍曹に牙をむこうとする●●●●、そんな軍曹の感傷に汚い脚で踏み込んできたそれらに軍曹は、


「貴様ら、覚悟はできているんだろうな? 今の私はインドネシアの悪霊リオックをも凌駕する!」


 それは歴史的な戦場となる。一夜にして、ブラウンフェザー、シュヴァルツの二個師団が壊滅したのである。この部屋の住人にも、この部屋の大家にも感謝されるわけじゃない。なのに、アシダカ軍曹は血塗られたままの状態でタバコを取り出すと朝日を向いて火をつけた。そして通信、


「大佐終わった。ハエトリグモ小隊全滅、だがこの勝利は奴らの活躍だ。この戦場の●●●●は根絶やしにした」


“よくやった軍曹、だが戦士に休息の日々はない。次なる戦場が君をまっている”


「コピー」


 嗚呼、それが自分の存在意義だと、部屋から出たアシダカ軍曹は再び大佐に通信を入れた。アシダカ軍曹は目の前の者と見つめあいながら、こう一言言葉を述べて通信を切った。


「どうやら次の戦場には私はいけないらしい。猫に遭遇した」


 人間達よ。

 彼女は同じ道を選んだ

 それだけだったはずなのに

 それはまるでおとぎ話だ。


 終わりを迎えた証すらない。

 それでも彼女は嘆かない。

 心の汚い人間達よ。彼女は願っている。もし、●●●●や自分に遭遇したくなければ掃除をしてくれと、

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アシダカ軍曹の受難 アヌビス兄さん @sesyato

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