第三節 第十六話 入門

要約動画(https://youtube.com/shorts/pDaKQAkqdw8)

――――



「ねえ、クイまだー?」

「こらユミ、クイさんでしょ?」

 相変わらずのユミをハコはたしなめる。とは言え、その声には張りが無い。相当疲れているようだ。

「ええ、もう少しですから頑張ってください」

 クイは荷車を引きながら答える。しかし実際のところ、彼にはウラヤから相当離れた場所まで来たとした分かっていない。

「ユミ、このまま半刻も歩けば着くはず」

 荷車の横側に手を添え、前へと軽く押しながら答えるのはヤミだ。自身の言葉に確信を持っているようだ。

 孵卵の合格者を家族とともにトミサへと案内する。それも鳩の業務の1つだ。

 

 ウラヤからトミサまで、慣れた鳩であれば一日で森を通り抜けることも可能なようだ。

 しかし、この度の移住は体の弱いユミの母親を伴っている。

 クイの引く荷車には水と食料の他、2人用の天幕が2組載せられていた。

 昨日の朝からウラヤを発ち、日が傾く前には森の中で寝床を確保した。そしてまた、今日の夜明け頃からゆっくりと歩き続けていた。

 

 一昨日、ソラの手を引きウラヤまで帰り着いたユミはカサとナミから深く感謝された。本来ならばまだ正式な鳩でもないユミが森に入ることは許されていないのだが、その臨機応変な対応は賞賛に値するものであった。それ故、森に立ち入った件は不問となり、こうして母とともにトミサへと導かれている。

 問題はソラだ。偶然にも、いや必然的にラシノへ辿り着いてしまったことは黙っていた。

 しかし、ソラが森に足を踏み入れたことまではヤマに伝えない訳にはいかなかった。

 ソラは叱られる覚悟をしたが、ヤマは一瞬顔を曇らせた後、ただ彼女を抱き締めるだけだった。

 昨年のユミの孵卵出発の前、ソラも一緒に鳩にならないかと誘うとヤマは怖い顔をしてそれを引き留めていた。

 今ならその理由に見当がついてしまう。間違いなくヤマは何かを知っているのだろう。しかし、師弟以上の関係である彼女らの抱擁を前にして、ユミは口を開くことが出来なかった。

 

 ヤミの言う通り、半刻ほど歩いたところで森の終わりが見えてきた。刻限にして夕暮れ頃だろうか。腹も減ってきている。

 ユミの知っている村は3つある。出身地であるウラヤ、キリと出会ったラシノ、そして烏の巣窟であるナガレだ。いずれも木々の並びが切れた先に大きな広間があり、そこにいくつかの家が立ち並んでいるという造りだ。

 しかし、このトミサと言う場所はどうも違うらしい。

 まず目に入るのは巨大な門。木の板で出来た扉とそれを覆う瓦屋根で構成されている。

 そして門の両脇から塀が遥か遠くまで伸びている。積まれた石垣の上に漆喰の塗られた白い壁がそびえ立っているというのが塀の姿だ。塀の外側には深い堀も掘られており、侵入者の立ち入りを許さない。

 恐らくは塀の向こう側にトミサの家々が広がっているのだろうが、視界は阻まれそれらを視認することが出来ない。

 

「すごい……」

 ユミから自然と声が漏れた。

 クイは歩を止め、引いていた荷車の持ち手をその場に下す。

「ええ、私も初めて見た時は驚きました。トミサ全域はこの塀によって囲われています。そして、外界と中とを結ぶ門は4つ。しかし、鳩でない者がこの門をくぐる機会はほとんどありません。あちらに小屋がございますでしょう」

 そういうとクイは門の傍らに会った瓦屋根を指差す。

「物の輸送のため、他の村から鳩でない者が労力として借り出されることがありますが、門をくぐることはありません。その者達は、あの小屋で仮眠を取ったりしますね。こうして門をくぐれるのは特別な機会と言えます。今がその機会の1つなのです。お母様、ようこそトミサへ」

 クイはハコに向かって飛びっきりの笑顔を見せる。

「クイさん、ありがとうございます。ユミがすっかりお世話になってしまったのに、私の面倒まで……」

 ハコはかすかに疲れた表情を見せたが、心からの感謝の辞を述べる。

「ハコさん。ユミは立派に孵卵を合格しました。ユミの決して挫けない心と臨機応変な対応力、それらのたまものです。ハコさんがユミをここまで育て上げた成果と言って良いと思います」

 ヤミの言葉に間違いはないのだが、ユミの能力、と言うよりも性格を彼女は良いように捉え過ぎている。それによって自らが大変な思いをしたと言うのに。クイ自身も己の腹黒さにも関わらず、この純真さにずっと支えられてきたのだと心の中で感謝した。

 

「ヤミさん、ありがとうございます。それとハリのことは……」

 ハコはナガレで生まれたハリの事情について全て知っているわけではない。しかし、ユミが孵卵でクイとヤミに迷惑をかけたであろうことは容易に想像がついていた。それ故、ヤマとソラの元にハリが預けられてから、せめて自分にもできることをとハリのおしめを変えるなど面倒を見ていた。

「ハコさん、私近いうちにウラヤへ駐在することになったんです。これまでハリのことをありがとうございました!」

「それは良かったです! やはり我が子と一緒に過ごしたいものですものね」

 ハコがちらりとユミを見る。眼が合ったユミは少し気恥ずかしそうに微笑んだ。

「良かったね! ヤミさん!」

 ユミはクイよりもヤミの方によく懐いているようだ。それも仕方のないことではあるが。

 純朴そうに笑うユミの頭をヤミは優しく撫でる。

 

「あれじゃあ、クイ…………さんは?」

「私は当分トミサを拠点とします。まあ、仕事で何度もウラヤとを行き来するんですが」

「ふーん」

 あまり興味の無さそうなユミの反応ではあるが、余計な詮索をされずに済んだとクイは安堵する。

 普通の鳩とは違うユミについて、なるべく傍で監視したいというのがトミサに残る動機だ。

 もちろんクイも、ヤミとハリの傍には居たいのだが、ユミが何かやらかした時に及ぶ一家への被害を最小限に留めたい。

 

「じゃあ私の場合も、また門をくぐる機会はあるんだね」

「ええ、ユミさんの場合は何度も。それが鳩の務めですから」

「鳩じゃない人が門をくぐるのって、他にはどんな時?」

 今度は興味深そうな声を発するユミに、クイは気分を良くする。

 孵卵の監督業務を受けたように、元来彼は人を導くことが好きな性分なのだ。

「まずは移住ですね。今日、ハコさんをご案内したことも移住の1つです。また、異なる村同士の者が鴛鴦おしの契りを結んだ時、一方が他方の村へ移り住むことも『移住』と呼んでいます」

 それを聞いたユミはぱぁっと顔を輝かせる。

「村が違っても鴛鴦の契りを結べるの?」

「ええ、鴛鴦文おしふみというものがありまして……、これについては少し長くなりますので、また入門してからお勉強してください」

 クイは自制の意味も込めて口を噤む。教えを乞うものがいると彼は止まらなくなってしまうことがあるのだ。

「鴛鴦の契りってウラヤとラシノとでも?」

 しかし、ユミの質問は続く。クイはユミの言わんとすることを察した。キリとまた一緒になれるのかという可能性を問うているのだろう。

「ええ、ユミ。できるよ」

 答えるのに躊躇っていたクイをよそに、代わりにヤミが口を開く。

 ――まあ、嘘は言っていないか……。

「良かった!」

 嬉しさを抑えきれなかったのか、ユミはヤミに抱き付いた。


「そしてもう一件、あの門をくぐる機会と言うのが……」

 クイが切り出すと同時に目の前にあった門がバンと開かれた。

 ユミはヤミの体からひょっこり首を出し、音のした方をじっと見つめる。

 手を縄で縛られた男が2人、それを取り囲む4つの人影が出てくるのが分かった。

 そして怒声が聞こえる。

「おい、しっかり歩け」

「へいへい」

 縛られた男たちは気の無い返事をする。しっかり眼を凝らしてみると、その手の甲には黒い影のようなものが刻まれていた。

「烏の烙印……」

 ユミが初めてそれを見たのは、ナガレでケンに拘束された時だ。たとえ不快な相手であってもその火傷の跡は痛々しく、気の毒だという感情が芽生えたものだった。


 ユミらはしばらく、男たちが連行される様子を呆然と眺めていた。何となくその様子が不気味に感じ、ヤミの腰に回していた腕に力がこもる。

 やがてその一行が森に差し掛かろうとした時、集団の中で最も年老いた男が前に出る。

 その老爺ろうやが森に吸い込まれていくと、残りの者達もその後に続く。

 

「……お見苦しい物をお見せしました」

 形容し難い緊張が続いた後、沈黙を裂くようにクイが口を開いた。

「クイさん、あれって……」

 ヤミに押し付けていた体を離し、ユミが囁く。

「ええ、ユミさんなら分かるのでしょうね、手の甲に焦がされた烏を。トミサで重罪を侵した者が門をくぐることになります。鳩でなくても関係ありません。あれは……」

「ナガレ送り……」

 その声を発したのはハコだった。

「……お母さん?」

 クイに初生雛愛者しょせいびなあいしゃ疑惑が出た時、ハコはナガレ送りにしてやると言った。ナガレ、そして烏の概念を認識しているのはユミだけでは無いようだ。

「いえ、なんでもないわ」

 ハコはナガレなど知らないかのように取り繕うが、その表情はどこか悲しげに見えた。


「真っ先に森へ入っていったお爺さん。いずれはミズがあの役目になるの?」

「ええ、そうではあるんですが……、彼女にはまだその適性が無いのですよ」

 ユミの孵卵でナガレに立ち入ってしまった際、本来ならミズにナガレへの帰巣本能を目覚めさせるはずだった。本来というのもおかしな話だが。

 しかしそうはならず、事情を知らないアサはミズをトミサへ預けてしまった。

 クイも既にトミサでミズには何度か会っていたのだが、ことの重大さが分かっていないのかあっけらかんとした印象を受けた。いずれ改めて孵卵を受けさせなければなるまい。


「ああそうだ、もう1つ門をくぐる機会があるんでした」

 クイは思い出して補足する。

「ナガレ送りにされる罪は主に2つあります。まず不義密通を行うこと」

「不義密通……」

 またしてもハコが口を開く。

「ええ、少し難しい言葉ですがこれも鴛鴦文おしふみと関連することですね。それともう1つの罪は、人に重篤な危害を加えることです。」

 ユミは件の不快な男を思い出す。キリの父親はケンに酷い目にあわされたと聞いた。父親は生きているとのことだが、ケンがナガレにいるのはこのためなのかもしれない。一体どんな鬼畜の所業を働いたのだろうとユミは吐き気を催す。

「先ほどトミサで重罪を侵した者がナガレ送りにされるとは言いました。しかし鳩の場合、よその村で不埒を働くことがあります。現地の住民に殴る、蹴るの暴行を加えたり、あるいは誘拐してみたり」

 あなたのことですよ、とユミを睨む。ユミは全く動じていない様子だが。

「罪を犯した鳩には相応の罰として烏の烙印が与えられる訳ですが、被害者はそれではすみません。怪我、あるいは心の治療のため、トミサの医術院に運ばれることがあります。鳩のしでかした恥に対するせめてもの償いということです」

 恐らくはまれな例なのだろうが、医術院へ運ばれるためにトミサの門をくぐると言うことだ。

 

「さて、ここまで説明しました通り、一度この門をくぐると滅多なことで外には出られなくなります。お母様、よろしいですね?」

「ええ、ユミが私のために頑張ってくれたんだもの。ここで暮らす覚悟はできています」

 このイイバの地で暮らす者達、基本的に生まれた村から出ることはほとんどない。それはウラヤであってもトミサであっても同じことだ。どこか1つの村に留まることが宿命と言える。一概に言えた話ではないが、イイバの要であるトミサで暮らせるのはとても幸運なことのはずだ。


「それからユミさん。くれぐれも厄介ごとを起こさないように。ウラヤに送還されるだけならまだしも、事と次第によってはお母様もカトリに送られる判断がなされるかもしれません」

「……うん」

 ユミも身勝手な行動の多いことは多少自覚があるのかもしれない。クイとしては気が気でない。頼むから余計なことをしないでくれと言うのが切実な思いだ。

「それから、あなたはウラヤの鳩です。ウラヤへの帰巣本能を持っていると言うことを念頭に置いて行動してください」

 クイは念を押す。ユミ自身にまだ自覚は無いようであるが、彼女の能力は異常だ。鳩の仲間と過ごすうちにそのことも気づいてしまうだろう。

 一方でユミの能力の性質上、現時点でトミサからはウラヤにしか行けないはずだ。そういう点では他の鳩と変わらない。

「うん!」

 今度の返事は元気そうだ。そのままハコの手を取る。これが私のお母さん、私はウラヤで生まれたんだとでも言いたいのだろう。

 クイはユミに散々振り回されてきたが、この関係がみだりに壊されないようにと切に願う。このように他者を思う気持ち持てるようになったことは、彼にとっての大きな進歩と言える。やはり子を持つことは大きな出来事なのだ。

「それでは行きましょうか」

 クイはその場に置かれてあった荷車の持ち手を掴み、門に向かって歩んでいく。

 ヤミは母娘おやこに微笑み、こくんと頷くとクイに続いた。ユミとハコとは手を繋ぎ、少し緊張した面持ちで二人の後を追う。

 

 クイは門の前まで近づくと、その場に立っていた2人の門番に声をかける。

「お勤めご苦労様でございます。ウラヤの鳩、クイです。先日孵卵に合格したユミさんとそのお母様のハコさんをご案内したく、検分お願いいたします」

 門番の一人は男性、もう一方は女性だ。2人とも手には身の丈ほどの棒を持ち、その下端を地につけている。恐らくは護身用の棒なのだろう。

「おお、クイさん。ご苦労だった。そしてこのが……」

 男の門番がユミの顔を見る。

「え、私のこと知ってるの?」

 ユミは不思議そうな様子で見返す。

「ええ、あなたはちょっとした有名人よ。なんせ孵卵に280日もかかったんだから」

 女の方が口を開いた。

「あー……」

 それもそうかとユミは思う。他の受験者がどうだったか知る由もないが、目安である10日を凌駕する期間、よその村の少年と仲良く過ごしていた者などまずいないだろう。

「じゃあ、ユミちゃん。ちょっとだけ体見させてね。後でお母様の方も」

「うんいいよ。……ってうひゃあ!」

 女に体を触られ、ユミはくすぐったそうに体をよじる。

 

 ユミの様子を見ていたクイはヤミに足を踏まれる。おしとしては、まだ若い女がなまめかしい声を出すさまに眼を向けて欲しくないのだろう。

 しかし、クイの懸念はそこではない。ユミの体よりも頭の中を見られるのが怖い。平然な顔をしながら、裏ではとんでもないことを考えているのだとユミには痛感させられてきた。それがばれたらたちまちトミサから追い出されてしまうかもしれない。

 

 程なくしてユミとハコの検分は終了した。2人とも純粋にトミサに来たかっただけ、と言うのが伝わったようだ。

「ユミちゃんはお母様のために頑張ったのよね? お母様、これからこのトミサでごゆるりと過ごして頂ければと思います」

「ありがとうございます。……私にもここできる仕事は何かあるのかしら?」

 気遣いを見せる門番に、あくまでも働く遺志のあることを伝える。

「ええ、ユミちゃんの収入だけでも十分暮らせると思うのですが、それも退屈でしょう。体に負担のかからない仕事もありますよ。また明日にでもご案内いたしましょう」

「何から何まで……、本当にありがとうございます」

 ハコはさも恐縮そうに礼を述べ、深々と頭を下げた。


 いよいよトミサへと足を踏み入れる段になり、その門が開かれるとユミは再び驚くことになった。

「うわー……」

 門番の2人も満足そうだ。恐らく、トミサの姿を初めて目にする者の反応を幾度も見てきたのだろう。

 ユミの眼前から真っ直ぐ伸びる太い道、その両脇に立ち並ぶ瓦屋根の数々。これがトミサの全貌と言うわけではないのだろうが、外界とを繋ぐ門の近くということもあり、各種店屋も充実しているようだ。通りを歩く人々に向かって、店へと誘う威勢の良い声が飛び交っている。

「それでは良き日々を」

 門番は微笑みながらそう告げると、ゆっくりと門を閉じた。

 

「さて、お腹も空いたことでしょう。歓迎もかねて今日はご馳走しましょう。ユミさん、何か食べたい物はありますか?」

「兎!」

 即答するユミを見てクイはほくそ笑む。また教え甲斐がありそうだと思ったからだ。

「兎もいいですが、ここではまた違う肉も食べられます。盛大に行きましょうか!」

「やった!」

 はしゃぐユミを見て、ハコとヤミは顔を見合わせた。

「いつかハリもこんな風に笑える日が来ると良いのですが……」

「ええ、きっと来ますよ。ヤミさん」

 ハコは柔らかく微笑む。


 ――――

 

「ぐるしーよー。おかーさん……」

 ユミは新しく用意された新居の畳の上で寝転がっていた。ここは食事を終えてから案内された場所であり、当分の間ユミとハコとが間借りすることになった長屋の一室だ。

「ユミ。食べ過ぎ」

 傍で正座をしていたハコは呆れた声を出す。

「だってぇ……、おいしいんだもん……」

 兎肉の香草焼きに始まり、鹿挽肉の蒸し焼き、熊肉の揚げ物など。

 ユミがおいしい、おいしいと言う度にクイは注文を重ねた。そして料理が運ばれる度、彼は蘊蓄うんちくを垂れる。ユミはうんうんと頷くのだが、言葉は耳を素通りしていた。

 それでも、クイに太っ腹なところがあるとユミに思わせることが出来てはいたので、彼の行動も決して無駄ではなかったのだろう。

 

「ソラにも食べさせてあげたいな……」

「そうね。またウラヤに帰るときのお土産にでもすれば?」

「お母さん……」

 一昨日、森からウラヤに帰還した際、ソラはハコのことをお母さんと呼んでいた。ハコもそれに応えるように頭を撫でた。

 しかし、一度はソラが逃げ出してしまったという事実は消えない。実際のお互いの認識がどれくらいのものか、ユミには分からない。そしてソラの本当の母親にも見当がついてしまった。

「ねえ、ソラって……」

「ええ、ソラは私の大事な娘よ」

 まるで自分に言い聞かせるような口ぶりだ。ユミも今のところはそれを信じようと思う。


 そしてユミには、もう1つ気になることがあった。

「ねえ、お母さんはナガレを知ってるの?」

「……ええ、知っているわ。ウラヤにいる人なら知っている人は多いんじゃないかしら」

「そうなの?」

 ユミは不思議そうな顔をする。孵卵から家に帰った後、ハコは色々なことを教えてくれた。それでも、一度だけ口にしたナガレについては多くは語らなかった。

「そうね。ちょっと話しにくいことだから、ユミが大人になったらまた教えてあげる」

「……うん。分かった」

 ユミにはまだまだ学ぶべきことたくさんあるのだと、心に留めることにした。


「ユミのお腹が落ち着いたら、お風呂にしようね」

「うん!」

 長屋の一階には、浴場が備え付けられている。

 このような些細なことであっても、新たな生活を楽しもうとユミは思うのだった。

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