第七節 第七話 烏
ユミはこの束の間に、繰り広げられた多くのことに混乱していた。
「……すまなかった。ガキのところへ行ってやれ」
呆然としていたユミの耳元へ大男が囁き、首を拘束していた腕を解いた。
その声でユミは我に返る。
考えるべきことはたくさんあったが、まずはこの不愉快極まりない男から逃れたい。
しかし、足がすくんで動けない。
「ほら」
男はユミの背中をぽんと押す。
「触んないで!!」
奇しくも背中を押される形になったユミは、男を振り向きもせず、未だ立ち上がれないキリの元へと駆け抜ける。
――大丈夫。まだ私の手は汚れていない。
「キリっ!」
両翼を広げ、愛する鴛へと羽ばたく。体の接触を感じるとそのままぎゅーっと抱きしめた。
キリも震える翼で鴦に応える。
「ユミ……。ごめんね、何もできなくて……」
「いいの! お願い、今はキリを感じさせて……」
――私に触れていいのはキリだけだ! あんな奴の記憶なんて消えてしまえばいい!
歩いた森の道のりは全て記憶している。忘れようとしても忘れることができない。それは嫌な記憶も一緒だった。
ヤマには物覚えの良さを散々褒められてきたが、他の人はすぐ忘れられるものなのだろうか?
キリに触れられていない場所が、未だぞわぞわした感覚に支配されている。
一方クイは、男2人に囚われたヤミを前に、その場で動けなくなっていた。
ユミに拒絶された大男が、構わずクイの元へ歩を進める。
「そうだ、お前の言う通りここはナガレだ。俺らみたいなどうしようもない連中の寄せ集めだ」
ナガレ。それは烏の烙印を受けた者が流される場所である。
鳩であれば誰でも知っていることだった。
この森に閉ざされたイイバの地を統治するため、様々な
人を傷つけた、不義密通を行ったなど、人の道理に反する行為を行った者の手の甲には、縛めに従い烏の烙印が焦がされる。お前など鳩の縁ではない、と言う証だ。
烙印を受けた者は烏と呼ばれ蔑まれるようになるが、幸いにもそれは長く続かない。
手の烙印はトミサの牢獄か、ナガレあるいはカトリの流刑地かへの片道切符となるからだ。
流刑地は烏と他者とを接触させないために生み出された場所だ。
流刑地へ送られるのは、トミサに生まれた鳩か、帰巣本能すら持たない者である。
そしてナガレは男の烏の流刑地だ。一方のカトリは女の烏が送られる地となる。
その気になれば、烏はナガレから森へと足を踏みいれることはできる。
脱走を試みた烏がトミサへの帰巣本能を有していれば、そのままトミサへ辿り着くこともできる。
しかし、トミサへの入村の際には入念な身体検分が行われる。烏の烙印など携えていようものなら即座に門前払いだ。
イイバの地の要であるトミサに、烏の侵入を許すわけにはいかないのだ。
烏はナガレをはじめ他の村への帰り道など分からない。結果、右も左も区別のない森でさまようしかなくなる。
帰巣本能すら持たない烏であれば言わずもがなだ。
烏はナガレに居続けた方がまだ賢明なのだ。
現状、クイはユミの行動により烏の烙印を受ける危惧に瀕している。
クイはウラヤの生まれであるから、ナガレに送られることはない。送られるとすればトミサの牢獄だ。
ナガレの男どもの醜態を見て、自分の送られるのがここでなくて良かった、などと検討外れの安堵感を覚えたが、それどころではない。
烙印を受けぬよう、今日までユミを追い続けてきたのだ。ヤミの体調さえ良ければ。
幸か不幸か、この日はヤミの調子が良かった。
「ヤミさんを放しなさい!」
クイは傍にやってきた男の胸倉をつかむ。
両者の間に身長差はほぼないが、体格では圧倒的にクイが劣っている。それでも体が勝手に動いていた。
「……確かに腹の子は貴重だな」
「なっ……」
胸倉をつかまれているにも関わらず、その男はクイのことを責めようともしない。不穏な言葉は発していたが。
首だけを捻り、ヤミを取り囲む2人に向かって叫ぶ。
「おいお前ら、女を放してやれ!」
「何だとケン! てめぇの言うことなんざ聞くか!」
「どんだけ溜め込んでると思ってんだ!」
ケンと呼ばれた大男はクイに向き直る。
「お前、女のガキの試験監督とか言ったか?」
「そうですが! だとしたらなんです?」
次いでヤミを顎で指す。
「あっちのでかい腹抱えている女もそうか?」
「そうですとも!」
「あれはお前の女か?」
「ああそうですよ! あなたなんなんですか!? 悪いやつかと思ったら意外と話しできるじゃないですか! 助けてくれるんですか?」
ケンはふっと息を吐く。
「別にお前のためじゃない」
「あーもう!」
クイは胸倉を掴んでいた手を離した。腹の読めない眼の前の男にやきもきする。
「ところで、なんであんな腹抱えた女に監督やらそうと思った? お前、正気か?」
「いろいろあるんですよぉ! 私だって彼女をこんなところに連れて来たくない!」
クイは自身が責められたことの理不尽さに憤慨する。
「じゃあなんであの女のガキは男連れてるんだ? 孵卵なんだろ?」
「知りたいのはこっちの方ですよ! 全く人の気も知れず呑気なものだ!」
クイは怒りの形相をユミの方に向ける。
まだ抱擁が続いているのが見えた。
「キリ、大好き」
「うん。僕も好き」
クイの苛立ちが最高潮に達した。
「こんの、
「あほうどり?」
「あの
「おし? ああ、鴛鴦か。ふ……、ハハッ!」
ケンがにかっと笑う。なんとも腹立たしい笑顔だ。どこか狂気すら感じる。
ユミを縛めている時には気づかなかったが、この男なかなか目鼻立ちが整っている。
「そうか、いっそ鴛鴦ごとかっさらってくればガキを殴らずに済んだのか……」
まるで我が子でも見るような穏やかな表情に、クイは呆気に取られてしまう。
ユミを捕えた時はどうしたものかと思ったが、ヤミを囲む男どもとはどうも様子が違うようだ。
「おい見ろよ、こいつ。結構な上玉じゃねぇか。」
「でもおれぁ、あそこのガキも味わってみてぇなぁ」
「下衆が……」
「あなたはあれの仲間なんですか?」
「なかま……、か」
確かに、十数年前のケンならあの輪の中に入っていたかもしれない。
その昔、鳩としてウラヤに立ち寄った折には嬉々としてマイハに飛び込んだものだ。また別の村に行けば、無垢な娘をたらしこんだりもした。
思えばえらく危険な橋を渡り、そして崩れ落ちた。
「俺は女に手を出したりしねぇよ」
「はぁ? さっきユミさんを手籠めにしようとしてたじゃないですか!!」
「ユミ? あぁ、ガキの女の方か。そいつは……」
違う、決して私利私欲でしようとしたことではない、と言おうとしたが言葉を紡げなかった。
同じことだった。いつか子を成せるようになった時、自分ではない誰かと番わそうと考えていたのだ。
「……で、ヤミさんを助けてくれるんですか? どうなんですか?」
「……ここで赤子を産ませ、それを差し出せと言ったらどうする?」
なんともおぞましい提案をしてくる。しかし、クイは言葉の意図を理解した。
ナガレは他の村から隔絶された流刑地だ。
30日に1度だけやってくるトミサからの使いを除き、他の村との交流が絶たれていると聞く。
見方を変えれば、使いを先導するナガレに生まれた鳩がいるということだ。
クイが知る限り、そのような鳩は一人しかいない。しかも高齢だ。
どのような経緯でナガレに生まれ、帰巣本能に目覚めるといった数奇な運命を辿るのかは不明だが、おそらくはトミサの恩情だろう。
ナガレへの使いがいなくなれば、ここでの生活が破綻することは眼に見えている。
つまり、ケンは新たにナガレの鳩を生み出すため、我が子を差し出せと言っているのだ。
「そんな要求飲めるわけがない!」
この男に期待した自分がバカだったと悔いる。
「だよな。なら力づくでもここで産ませるしかない」
「ぐっ……」
突きつけられた選択肢は2つ。
ヤミの安全を確保し、我が子を差し出すか。母子ともに差し出すか。
囚われたヤミの方を見る。もう、洟と涙で顔がぐちゃぐちゃだった。
「クイ……」
ヤミのか細い声がかろうじて聞き取れた。
ケンに対してここまで啖呵を切ってきたが、実際はかなり臆していた。ヤミを前にして虚勢を張っていたのだ。
しかしそんな虚勢など、守るものを持たない男どもの前では無力だった。
クイは舌戦なら得意なつもりだが、腕力はてんで駄目だった。
むしろ論戦の強さが恨みを買い、返り討ちにされたこともある。
「……たすけて下さい」
「ふっ、いいだろう」
ケンが表情が真剣なものに変わる。そして、今にもヤミの胸に触れようとしていた男どもににじり寄る。
「やめろ」
低い声が響く。
男の一人があからさまな動揺を見せる。
「なんだよケン! てめぇも楽しみ――」
ケンの握りこぶしが男の顎を捕え、殴られた男が崩れ落ちた。
もう一方の男も眼を見開く。
「てめぇ手ぇ出しやがったな! アサに言いつけんぞ!」
「黙れ」
「ごっ……」
今度は頭突きを食らわせ、攻撃を受けた男は言葉もなくその場に倒れこむ。
ほんの一瞬の内に、ヤミは開放された。
しかし、ヤミは眼の前で繰り広げられた暴力に怯え、動けなくなっていた。
ケンはしゃがみ込みヤミへと目の高さを合わせる。そして飛び切りの笑顔を見せた。――こうして持ち前の容姿を活かし、女たちを侍らしてきたものだった。
「うちの奴らが悪かったな」
ヤミは不覚にもその笑顔にときめき、涙も止まってしまう。
高鳴る胸を押さえつけ、首をぶるぶる振り、クイの方に目を向けた。
「――ふう」
クイは一先ず安堵する。ヤミが助かったという事実と、怒りに任せてケンを殴ろうなどとしなかった自分に対して。
歩いてヤミの方に近寄り、その場で膝を曲げ、肩を抱く。
「ヤミさん。怖い思いをさせてすみません」
「クイ……」
ヤミはゆっくりとクイに抱き着いた。
クイの体にヤミの膨らんだ腹が触れ、胸が痛む。腹の子までは守り切れなかった自分に無力感を感じていた。
ケンはその鴛鴦のやり取りを一瞥すると、近くで伸びていた2人の烏の襟をつかみ、後ろ手に引きずっていく。
「やめろ! ケン!」
混沌とした広間に怒声が響き渡った。
クイとヤミとケンが一斉に声の方向に眼を向ける。一方の
そこには1人の男と、それに手を引かれる少年が立っていた。
「何してるんだケン! また暴力か!」
「おせぇよ、アサ」
ケンは呆れたような声で応える。
「これはどういう状況なんだ!? 説明しろ!」
アサと呼ばれた男が捲し立てる。
「知らねぇよ!」
ケンは命令を放棄した。状況を完全に理解していなかったのもあるだろうが、理解したところであまりにも面倒臭い状況だった。
「いいのか? ケン、ことと次第によっちゃあ――」
「お父さん、あそこに子供がいるよ!」
アサを遮り、手を繋いでいた少年が指を差してはしゃぐ。
「見るなミズ! お前にはまだ早い!」
阿呆鴛鴦の醜態はあまり我が子に見せたいものではないのだろう。
それにしても、なぜこんなところに子供がいるのだろうかとクイは疑問に思う。
あまりにも場違いな笑顔だ。烙印も負わされていないようである。
「えー、でも多分ボクと同じぐらいの歳だよ。ボクも一緒に遊びたい!」
「……頼むから大人しくしていてくれ」
アサが額に手を当て、項垂れる。そちらの手にはやはり烙印が見受けられた。
「お初にお目にかかります。私はクイと申します」
見るに見かねたクイが口を開く。この中では最も冷静であっただろう。
「えーっとですねぇ。あそこのあほうどり……、少女の方です。今彼女の孵卵中なのですが、偶然にもこの場所に踏み入ってしまったようなのです」
「そんなわけあるか!」
「そうですよねぇ。えぇ、私も戸惑っているのですが、これがどうにも事実のようでして」
アサにはケンのような狂気は見られないが、何とも言い難い凄味があった。クイはそれに臆して言葉を濁してしまう。
「まあいい。じゃあお前が監督か?」
「はい」
「じゃあそのでかい腹抱えた女もそうか?」
「はい!」
「お前の女か」
「はいそうですよ! さっきもやりましたよこの
クイはだんだん自棄になっていた。どうせこの男も我が子を狙っているんだ、どうにでもなれと。
「落ち着け。とにかく女が無事なら良かったじゃないか」
「へ?」
ヤミを気遣う言葉に間抜けな声が出てしまう。
――いやいや、待て。ヤミさんを気遣ったのはあのケンとかいう男も同じだ。まだまだ油断できない。
「……大体状況は分かった。ケン、今回は不問にしといてやる」
「ったりめーだ」
ケンは不貞腐れたような口調である。
あのケンの暴力を前にして臆することも無いこの男、雰囲気がただ者ではない。
「あのー、あなたはここの長ですか?」
「長? そんないいもんじゃない。頭の回らない連中を力で押さえつけているだけだ」
アサはケンが引きずっている男を顎で差す。
「あーそうなんですねー。とにかく、助けていただきありがとうございました。あそこで転がっている少女を回収してすぐにこの場を立ち去りますね。では!」
クイは矢継ぎ早に捲し立てた。思考の巡りも速くなる。
このままケンとの約束など反故にしてしまおう。
さらにはユミの危機を救った。これで孵卵を打ち切りにする名目はできた。
実のところ、クイは試験を打ち切るためユミの妨害を提案したことがあった。しかし、ヤミが心から嫌そうな顔をしたため取りやめていた。
赤子はウラヤで産んでもらうのが良いだろう。そこまでヤミを歩かせるのは忍びないが、こんなところで産ませるよりはましなはずだ。
――一時はどうなることかと思ったが、これで助かった。あー、良かった良かった。
「待て」
クイがヤミの手を取り立たせようとしていると、アサがその背中に声を投げた。
クイは額がぴりつくのを感じたが、我慢して飛び切りの笑顔で振り返る。
「何でしょう。あーそうですよね。お礼をしなくちゃあいけませんよね。ちゃんとこのことはトミサに報告いたします。次の使いを寄越す際には、飛び切りの馳走用意させましょう!」
もちろんクイにそのような権限などない。そもそも烏がヤミを手籠めにしようとしたのが悪いのだ。礼をしてやる義理などない。
ただ調子の良いことを言ってこの場を切り抜けたかったのだ。
「何を勘違いしている? もう飯時だ。者どもが帰ってくる。女とガキ連れて立ち去るのは難しいだろう」
目の前のことに夢中で気づかなかったが、クイらを取り囲むようにがやがやと声が近づいてくるようだ。
「……一体、どれだけの人がいるんです?」
「話は後だ。女と一緒に俺の家に来い。ケン、ガキども拾って俺の家だ!」
「いいけどよー。オレあいつらから嫌われてんだよなー」
ケンが悲しそうな眼を向ける。クイはこの男がこんな顔も持っていたのかと意外に感じた。
ケンは渋々、といったように幼い鴛鴦に向かって歩いていく。
「ユミ、落ち着いた?」
「まだぁ……」
ユミは引くに引けなくなっていた。ここまでキリと密着を続けていたのは251日目にして初めてかもしれない。
体が火照り、快感が駆け巡る。落ち着いたかと問われたが、むしろ昂って来ている。
「おいお前ら! もういいだろ!」
昂っていた心が、しゅんと冷める。相変わらず不愉快な声だった。
「なんなの!? 邪魔しないでくれる?」
キリに抱き着いたまま声を上げる。こうしていると勇気が湧いてくるようだ。
「違う! お前ら末永くやっていきたいならこっちに来い!」
ケンはユミの右肩をぐいと掴み、キリから強引に引きはがそうとする。
後ろにのけぞる姿勢となったユミはケンと眼が合う。
背面から拘束されていた時には、よく確認できなかった眼である。赤い瞳に目尻の切れた形をしていた。
「……ソラ?」
その眼に懐かしさを覚え、ぽろっと漏らしてしまう。
ケンはそれを聞き逃さなかった。空いた方の手でユミの左肩も掴み、ぐっと顔を近づける。
「今、ソラと言ったか?」
「言ってない!」
言った、と言っているようなものである。しかし、このような男に大事な友人のことを訊かれるわけにはいかない。
「ユミに触るなああああ!」
キリのすさまじい剣幕にケンは即座に手を離す。
「すまねぇ。お前の大事な鴦だったよな」
「そうだぞ! ユミのお腹には僕の赤ちゃんだっているんだ! お前が触っていいものじゃない!」
「へ? 赤ちゃん?」
ケンは素っ頓狂な声を上げてしまい、そのまま笑いが堪えられなくなる。
「ハハハっ、ハハっ、ハハハハハっ!」
「笑うな!」
キリの一喝を聞き、ケンは口をきゅっと締める。つい先ほどとは打って変わって、真剣な眼差しを見せた。
「重ねてすまない。お前は立派な男だ。赤子の1人や2人いたって何もおかしくはない」
ケンはキリの正面に正座し、頭を下げた。
「俺のことを許してくれとは言わない。だが、お前の鴦を助けたければオレについて来てくれないか?」
キリはその殊勝な態度に絶句する。
「ほら、女の手を取ってやれ」
言われるがまま、キリはユミの手を取り立ち上がる。
「こっちだ」
キリとユミはその大きな背の後を追いかけた。
――――
「すまないな、汚いところで。あいにく出せるような茶もないんだ。適当に座ってくれ」
アサの住居に案内されたクイとヤミは、並んで板の間に座る。
汚い、というよりも部屋の中央に囲炉裏があるだけで何もない部屋だった。歩くたびに床が軋むのは気になるが。
アサと少年は囲炉裏の向こう側に座り、クイとヤミに対峙する。
「ねぇねぇ。おにいさんたちは鴛鴦なの?」
相変わらず少年は無邪気な様子だ。
疲弊していたクイは何も言えないでいたが、代わりにヤミが口を開く。
「そうよ、ボク。それでね、もうすぐ新しい子も家族になるの」
「へー!」
少年はとてとてとヤミの傍まで歩き、ぶしつけにもその腹に手を伸ばす。それを見てクイは顔をしかめた。
一方のヤミは微笑んで少年を受け入れ、その頭を撫でた。少年もヤミの腹を撫で始める。
「俺の子のミズだ。碌に礼儀も教えられてねぇガキだ」
「……なぜこんなところに子供なんているんです?」
「それは――」
「おい、連れて来てやったぞ」
ぎぎっと引き戸が開き、ケンが入ってくる。後から、手を繋いだユミとキリが続く。
「おう、久しぶりの大所帯だ。まあ仲良くやろうぜ」
アサは笑顔を見せ、ヤミの右側の空間を手で示す。
ユミとキリは履物を脱ぎ板の間へ上がると、おずおずとヤミの隣に腰かけた。
対照的にケンはアサの隣に座る。
「クイさんだったな。あんた、どこの鳩だ?」
アサが口を開き、クイに問う。
「ウラヤです」
「ウラヤだと!?」
ケンが立ち上がった。
「座れ、ケン。何か言いたいことはあるんだろうが、まずは聞け」
「……分かった」
素直に座るケン。やはり、ケンとアサの間には明確な主従関係があると伺える。
それ故に、一先ずアサの話を聞くのが賢明であると判断した。
アサはまだヤミの腹を撫でていたミズを見つめ、声を発する。
「なあクイさんよ。ものは相談なんだが、こいつを鳩にしてやっちゃくれねぇか?」
「は?」
予想外の提案に、クイは言葉の意図が汲み取れない。
「ミズ、いい加減やめろ。こっちに来い」
ミズは意外にも素直に立ち上がり、アサの隣に座る。
アサはミズの頭の上に手を置いた。
「こいつの生まれはナガレだ」
「!!」
今度は言葉の意味を理解することができた。
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