追憶47 今こそ、HARUTOとMALIAを追う(鞭使い、INA)

 あたしのパーティも、変異エーテルが五つ揃った。

 つまり、黄昏の君主に挑戦する権利を得た。

 正直な所、そこに興味は無い。

 一つの世界ゲームに縛られ、まして、闘争も捨てた人生なんて。

 けれどあいつは、あいつらは、その詰まらないエンディングにこだわっている。

 狭い世界から飛び立つ事をあたしに教えたのは、あいつらだったと言うのに。

 HARUTOハルトのする事には、必ず意味がある。

 一見して詰まらない事にこそ、何か裏がある。

 それを、暴く時が来た。

 

 あたしのパーティの変異エーテルを一部紹介しよう。

 今から戦うあいつらに対してはともかく、この場で隠す理由は無い。

 まずあたしから。

【共鳴呪魂の変異エーテル】

 簡単に言うと“協力魔法”の能力だ。

 パーティ内の複数人がかりで一つの魔法を使う。

 これにより、スキルスクリプトの承認が大幅に緩和される。

 息を合わせる必要があるけれど、一人で使うよりも遥かに強力な魔法を実現出来る。

 以前、別のファンタジーゲームで――そこでも自由にスキルが自作出来たのだけれど――【ギア・ヘイスト】と言う魔法を作った事がある。

 これは発動してから、経過した時間に比例してあたしのスピードが際限無く加速する魔法だ。

 具体的には身体能力の増強では無く、あたし自身に流れる時間が速くなる。

 つまり、攻撃や知覚が速くなる一方で、被撃の威力等の悪い事柄も加速する。

 加速が極まった状態では、軽いジャブに打たれただけで、全身の骨が砕けかねない。

 それでも、極限まで加速すれば、あたし以外の時間が停止するも同然。ほぼあたしの勝ちが確定するだろう。

 尤も、この魔法は前述した別ゲームでHARUTOハルト達に露呈している。

 加速し始めた辺りで、奴等の中の誰かしらに気付かれるだろう。

 スキル自作制のゲームの良い所は、別ゲームで作ったスキルのスクリプトをそのまま流用可能な事だろう。

 このギア・ヘイストのスクリプトは、専門家に依頼して書いて貰った。そのローンがまだ残っているので、使わない手は無い。

 これ以外にも仲間との協力魔法は幾つか作ってあるが、どれが陽の目を見るか。

 

 次に、RYOリョウ

【万象の霊王の変異エーテル】

 以前、百手の騎士、トトネェロッー戦に侵入した時にお見せしたとは思う。

 一口に言えば、属性無効化能力だ。

 但し、持っているだけで自動的に無効化するのでは無く、魔法を使う感覚で能動的にバリアを展開しなければならない。

 したがって、彼が反応出来なかった攻撃は防げない。

 また、一度に無効化出来る属性は一種のみ。

 例えば、火炎放射と高圧電流を同時に撃たれた場合、どちらかはまともに受ける事となる。

 更に、武器や格闘による殴打・切断・刺突等は無効化出来ない。

 “属性”の定義は、あくまでも運営AIがジャッジする為、RYOリョウの認識とAI判定に齟齬があった場合、不発する事もある。

 例えばビーム砲のような魔法があったとして。

 RYOリョウが、熱で焼き切る原理だからと言って対熱(或いは対火)のバリアを張ったが、AIが“光属性”と判定した場合は防御が不発に終わってしまう。

 色々と制約が多い能力だが、彼自身が元々持ち合わせた堅牢さ、判断力のオマケと思えば充分な脅威になるだろう。

 

 次にKENケン

【崩落赤竜の変異エーテル】

 自爆能力。

 ……としか形容しようが無い。

 ただ、パーティの主砲である彼を犠牲にするだけの効力はある、とだけ言っておこう。


 次はTOMOトモ

【宿命乱しの変異エーテル】

 12面ダイスを振り、出た目に応じた強化、もしくはマイナス効果をTOMOトモ自身にもたらす。

 奇数面であればバフ等のプラス効果になり、偶数面では状態異常等のマイナス効果となる。

 マイナス効果の方は、最悪の場合、死に至りかねないものもある。

 RYOリョウと双璧をなすタンク役であり、パーティ唯一のヒーラー。

 そんな彼が受け持つにはリスクの高い能力だが……例によって各効果の内容はTOMOトモ自身の裁量で設定出来、リスクが高い程に有用なプラス効果の承認が通りやすくなる。

 

 EIJIエイジについては……先程言った事と矛盾するようだけれど、この場でも伏せさせて貰う。

 ただ、

EIJIエイジ、貴方にこれを任せる」

 言って、あたしが手渡したのは。

「あの、師匠せんせい、これ、は」

「どうせあたし一人では持ち切れない。巧く使いこなして見せれば、今後も任せるかも知れない」

 絶句する彼の手には、あたしが使う筈だった二振りの鞭。

 発破の魔石を連ねた爆導索と、電撃鞭だった。

「あ、ありがとうございます!」

 あれからも、彼はあたしの言い付けを守らず、独学で鞭の練習をしている事を知っている。

 一方で、あたしの言い付け通り、連接棍フレイルの鍛練も怠っていない。

 フレイルの技術を大事に出来るのであれば、或いはあたしとは全く違う鞭捌きを見せてくれるかも知れない。

 それに。

 彼は、HARUTOハルトMALIAマリアに一泡吹かせる為の隠し球でもある。

 そして、あたし自身の成長の為にも。

 百手の騎士の変異エーテル、取らなくて正解だったのかも知れない。

「若者よ、皆の未来は君の肩に懸かっている」

「え、えぇ!?」

 いや、あたしと彼って、一つしか歳が違わないんだけどね?


 約束では、女三人でのホームパーティの筈が。

 あたしは、MALIAマリアKANONカノンと三人、カラオケに興じていた。

 繰り返し言おう。カラオケである。

 一応、ダークファンタジーの世界で、である。

 エーテル溜まりの小屋に、壁に防音魔法を施した上、拡声効果を付与した魔石を、KANONカノンが器用にクラフト。

 無数の楽曲の記憶を、音声データに変換・出力出来る石盤タブレットは、その辺で買って来た。

 こう言う世界でこそ娯楽が求められるのか、探すのに苦労は無かった。

 これを思い付いたMALIAマリアMALIAマリアなら、生真面目に全てを実現させたKANONカノンKANONカノンだと思う。

如何どうしたINAイナ? 次は君の番だ」

 KANONカノンが、マイク……を模したレプリカをあたしに差し出していた。

「あ、ああ。そうだった」

 少し、物思いに耽り過ぎたか。

 なお、このマイクらしき物には何の付帯効果も無い。

 単なる雰囲気出しの小道具である。

「じゃあ……これだ」

 

【業の対荷重check】

 歌手 グレート・グレード・グレーズ

 作詞 神殺賢しんさつけん

 作曲 仏句外ぶっくおふ


「おぉ、またゴリゴリにロックなやつですなぁ」

 MALIAマリアが口をOオーの字にして感嘆した。

 あたしは、ゴブレットを満たすブラッドオレンジジュースを一口飲んでから、大きく息を吸った。

 

 ――業なら、

 ――負う程良い。

 ――徳など、

 ――積む意義無し。

 ――毒を食らわば、皿ごと。

 ――ハンパで、死ねはしない。

 ――見ろよ、アルファロメオが、

 ――モラル無き違反駐車!

 ――盗んでアクセル全開!

 ――GO & CRASH!

 ――誰か轢いちまった、オーマイガッ!

 

「いえーい!」

 歌い切ると、KANONカノンが素で感心したような面持ちで拍手し、MALIAマリアが囃し立てる。

 まあ、後者は絶対、良く分かっていないままのノリだろう。

 それが、彼女の良い所かな。

 しかし、額に汗が滲んでいる。下手な実戦よりもカロリーを消費した気がする。

 こんなに大声を振り絞ったのは、いつ振りだったろうか。

 呑気にこんな事をしているが、明日、あたし達は敵同士。

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