追憶41 下らない小手調べを拒否し、最短で心臓部を叩く(KANON)
バハムートが、一目散にジャルバーンへ突貫する。
翼から過剰な量の冷光を放出。
目を閉じていても、目蓋を突き抜けて眼球を刺す。最悪、至近距離の私達が失明したとしてもお構い無しか。
竜王と言うのは、此方に屈服しておきながらにして傍若無人なものだ。
臨界まで蓄積された光学エネルギーが、翼からジャルバーン目掛けて殺到。
当然、枝の大群をしならせて“天空樹木”が打ち落とそうとして来るが、そこへ光の
泥仕合をする気は更々無い。
「主砲【デストロイ・コルドロン】、発射!」
私が命じると、バハムートが大きく息を吸い込んで、止めた。それだけで、ジャルバーンに生えた無数の枝葉を散らすような気流が吹き荒ぶ。
殺到する枝の腕を掻い潜り、それらの放つ火炎放射を突き破り、バハムートは飛び続ける。
そして、体内で生成した蒼光が飽和し、その口腔から漏れ出して。
満を持して、吐息と共に法外な光の奔流が、ジャルバーンを真正面から抉り抜く。
ここまでしても薄皮が燃え、赤熱を残した程度だが、目眩ましには充分。
ただ
小競合いを突破する為の竜王、と言う事だ。
天空樹木を山に見立てたとするなら、八合目くらいの高度に来たか。
幾重にも枝が交差する、網状の足場がある。
此処まで突破した相手に対し、この期に及んで触腕を伸ばすような無駄はしないらしい。
多岐に伸びる枝の中でも、明らかに色素の薄い部位が散見される。
案の定、それらが独りでに伸び、絡み合い、筋肉や骨格
樹木を強引に束ねたゴーレムとも言うべきそれが、さも、動植物二大区分の垣根など眼中に無いと言った振る舞いで歩き出す。
その数、三体。
互いの距離は遠い。
これから合流する気なのか、散開して戦う気なのか。
うち一体が、文字通りの“木陰”に隠していたらしい直剣を手に取った。
全体的に銀色を基調として、柄や
残りの二体も同様の剣を取り出した。
今し方生まれたこいつらが“統制樹の三人”。
王都の悪魔どもやバハムートの後だと、貧相にも思えるが。
バハムートを旋回させ、奴らの挙動を観察したい所だが、
【上下に重なるを禁ず】
統制樹の一体が、無理矢理に作った声帯と口腔で、そう
次瞬、バハムートの背の上で凄まじい斥力が発生し、私は、他の仲間達も皆、弾き飛ばされてしまった。
忽ち虚空に投げ出され、私は落下する。
それは、
あっという間に、枝の足場が迫る。
致命的な高度と速度だ。激突すれば、私の肉体など一溜りも無い。
その瞬間に身構えたと同時、今度は横方向からの衝撃に打たれた。
いや、空中で大きく旋回した
私は、統制樹の一体が口にした先の言葉を反芻する。
上下に重なるを禁ず。
これは、奴が放った“命令”だ。
要約すると、複数人が上下に並ぶ事を禁止する、と言う事だろう。
そしてこの命令は、私達に対してのものでは無い。
“場”にルールを定義する、それが奴等の変異エーテル。
恐らく、今のルールは、私達をバハムートから引き摺り下ろす意図で発したのだと推察される。
ならば「騎乗を禁ず」とした方が早いと思われるかも知れないが、奴等の能力は飽くまでも、敵対者のみを制限するのでは無く「自分達も含めた全員」を定めたルールに縛り付けるのだ。
詰まり、そのルールとは野放図に決められるものでは無く、公正である必要がある。
今の場合、禁止事項を騎乗に限定してしまっては、統制樹どもには何のデメリットも無い。
枝の足場が立体的に交差するこの場で、上下に並べなくなったのは、奴等も同じと言う事。
先程、
それを瞬時に理解した彼女は、私に高度を合わせて、水平方向から助け上げてくれたのだ。
私を抱えたまま、
次に「密着を禁ず」とでもされると、今度こそ墜落死を免れないからだろう。
また、前衛達が散り散りになった状況下、戦場の全体図を俯瞰出来る場所に届けてくれた意図もあるのだろう。
「いってきます」
そう言うと、
【魔法を禁ず】
統制樹の一体が、そう宣告した。
その瞬間、やはり彼女は
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