追憶40 さる竜族と天空樹木について(密命を帯びし、MALIA)
わたしたちは今、真っ黒い岩山のような、ゴツゴツした所に座って、燃えかかったまま停まっているお花畑を見下ろしていました。
地面に伏せた姿勢の竜の背中に乗せてもらっているのです。
背中の上は、五人全員のっても広々としています。
つい昨日戦った、竜王バハムートですね。
例によって
幸い、スクリプトの調整はほとんどいらなかったらしく、すぐにこの“現在進行形の
バハムートがあっさり
まぁ、ひとつには、竜王族には「実戦で自分を打ち負かした相手に無条件の忠誠を誓う」という独特の価値観があるらしいということですね。
手加減無しで殺してしまっても取り返しのつく世界観ならではの光景ですが。
それと、もうひとつの理由は、
「……魔法障壁の準備良し。全員の搭乗を確認。出発だ。頼む、
っと、もう説明してる時間はなそうですね。
「了解。総員、離陸に備えろ」
わたしもあわててバハムートの頭にのって、角につかまります。
やった! 特等席です。
そしてついに、バハムートが起き上がると、翼を大きく羽ばたかせて飛翔をはじめました。
生身で飛行機の外側に乗っかるようなムチャですが、
色とりどりの花が咲く大地が、岩を剥き出した山々が、ぐんぐん離れていきます。
短い間でしたが、この緩やかな時の流れる場所ともお別れです。
……実のところ、すこしだけ、未練がないわけでもありません。
もしも、わたしが“現在進行形の亡び”に残りたい、といったらどうなっていたでしょう?
見たところ、おなじことを考えている人が相当数集まって、キャンプが絶えないみたいです。
フリーランスで即席パーティをお手伝いするだけでも、ここで食べていくには困らなさそうです。
わたしのためにアクカコソェルと戦ったことが無駄になってしまい、このパーティには大迷惑がかかります。
けれどたぶん、誰も反対せずに見送ってくれるのだろうと思います。
まぁ。
ちょっと思っただけで、口には出しませんけどね。
ここだけの話です。
本当にそんなことをするのは……そうですね。
“わたしたち”らしくありません。
見てください。バハムートが、あっという間に雲の上まで飛び上がってしまいましたよ。
見下ろすと、太陽の薄金色を吸った雲の海がどこまでも広がっています。
世界はやっぱり、どこもきれいです。
わたしはやっぱり、きれいな花畑だけでなくて、これからも色んな“きれい”を目に焼き付けたい。
ひとりじゃなくて、縁あって一緒になった、この方たちと。
自分が天使になっておきながら、竜にのって飛ぶ楽しさを噛み締めております。
いえ、人のお金で食べるごはんはおいしい、ではないのですが、人様の翼で大空を飛ぶのもいいものですよ。
“天空大樹”ジャルバーン。
それが、わたしたちの目指す場所。
その名のとおり、“
一本の樹木でありながら、その面積・質量はちょっとした小山に迫るとも言います。
当然、ふつうの交通手段ではたどり着けません。
やり方はそれこそ人それぞれですが、わたしたちには
その大樹が、いよいよ見えてきました。
根っこが虚空に広がっています。
空中に吸いとる養分なんてないでしょうに。
じゃあどこから、って言いますと……あれですね。
ジャルバーン全体を一株と見立てた時、あちこちに無数、巨大な土くれにも見えるなにかが食い込んでるのですが。
ええ、ミイラ化した竜の遺体ですね。
大半が、このバハムートと似た種のようです。
バハムートが改めて大きく叫ぶと、飛ぶスピードを増しました。
種族はちがえど、このへんの感性はおなじですね。
すごく、怒ってるのがわかります。
そう、
バハムートのいた場所を“現在進行形の亡び”とよばれる場所に変えてしまった元凶。
“山のような”身体を維持するために、ジャルバーンは生物の中でも最大級の、竜王族を食べつづけた。
ふるさとを襲われた竜王族は、その秘法で、その崩れゆくを食い止めていた。
その結果、時の流れが滞ったのです。
ジャルバーンからすれば、食物連鎖の摂理なのでしょう。
けれどバハムートたち竜族からすれば、仲間をたくさん殺し、負かした相手への忠誠という竜族の掟すら無視して、今も遺体を野ざらしにしている天敵。
人狼騎士の時と同じです。
ジャルバーンの変異エーテルに決めた時、
天空樹木ジャルバーンは、それ自体がわたしたちの目指すボスエネミーであり、また、その戦いのフィールドなのです。
VR人生通して、相手のおなかに飛び込まなければならない、こうした
目指すは、ジャルバーンの中枢器官“統制樹の三人”。
この“三人組”を落とせば、わたしたちの勝ちです。
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