追憶37 このたび、さる女の変異エーテルがきまりました(MALIA)

 まだ蒼い変異エーテルの残滓が空を照らす下。

 AOアオさんが、どうにか尖塔っぽい屋根に着地できたようです。

 あっ! でも、滑り台みたいな感じで屋根のヘリから滑落しかけて――な、なんとか、踏みとどまれたようです。

 ひとまず、ほっとしました。

 

 黒く着色された光、というとヘンな話ですが、そうとしか形容しようのない変異エーテル溜まりが、一番高いやぐらのてっぺんにできていました。

 これ、あそこまで跳び移れない人が変異エーテルほしい場合はどうするんでしょう。

 そんなことを何となく思いながら、わたしはそれを取りにいきます。

 わたしのわがままで、パーティみんなが不利な相手に挑んで得た変異エーテル。

 謹んで、受け取らせていただきます。

 気化しつづける墨のようなそれに手をかざすと、掌から身体の中へ、それが吸われていきます。

 

【密命を帯びし魔王の変異エーテル】

 背中に翼を生やす“天使化”を可能とする変異エーテル。

 天使化は、使用者が如何なる生態であっても単独飛行を可能とし、また、その翼を触媒として、魔法回復を阻害する【アクカコソェルの光雨】を放つ事が出来る。

 

 アクカコソェルは、誰よりも“神”に忠実な天使であった。

 その為に、我が身を悪魔王と貶める事さえも厭わない程に。

 

 ――そして“涜神とくしんの都”ミルデリンは滅びた。

 このテキストにつづきがあるとすれば、そんなところなのかもしれませんね。

 アクカコソェルに“密命”を与えていたのは神さま。この上ないビッグネームです。

 となると、ミルデリン滅亡にまつわるクエストのゴールはここのようですね。

 多くは語らないまでも、人狼騎士とかの事例もふまえると想像の余地がたくさんある、考えさせられるお話でした。

 

 そろそろ現実的な、戦力面でのお話に移りましょうか。

 回復を封じる能力も、もちろん強力ではあります。

 みなさん、覚えておいでかは定かでありませんが、最初に戦ったリビングアーマーだって、ある程度傷ついたら自己再生能力で回復していました。

 割とこのゲームの中ボスクラス以上って、グズグズしているとナチュラルに元気を取り戻してしまう仕様なのです。

 その標準的な回復能力さえも封じてノーコストで、広範囲に、回避困難な亜光速で撃てる。

 これだけでも充分なアドバンテージなのですが、本命の目的は、結果的に生じた副産物、天使の翼のほうです。

 わたしたちも、アクカコソェル戦でさんざん思いしらされましたが、二足歩行の、人間的なアレが翼を得て立体的に飛び回れるって、かなりの脅威です。

 昔のテレビゲームとかで、空飛ぶ戦力を“飛行ユニット”なんてしれっと、あっさりとした呼び方をしていたと聞きますが、実際にやると、かなりえげつない能力になるはずです。

 この前HARUTOハルトさんが言ってたように、これだけで、わたしの前衛としての幅はかなり広がるでしょう。

 一方で、単純な話、空を飛ぶということは「素肌が地面や壁に接触する」必要のあるわたしの魔法とは、相性がよいといえません。

 まぁ、そのへんはメリハリというか、使い分けだとと思います。

 ちょっと恥ずかしいながらも、上の服の背中をめくりあげた上で、さっそく使ってみます。

 あとで、うまいこと背中だけ開いた(ブラもみえない、最小限の露出にとどめた)デザインの服を新調しなきゃって思います。

 ……。

 ぃ……、

 い、痛!?

 いたたたた! 痛い、痛い、痛い!

 そ、そうですよね、もとあった身体の構造を無理やりいじくって翼を生やすのですから、内側から突き破られる痛さとか、当たり前につき物ですよね。

 変異エーテルをアクティブにするたびに、この痛みですか……ちょっと、コレ選んだことを後悔しそうです。

 けれど。

 背中に生じた新しい器官は、まるで手足のように、すんなり動きます。

 パタパタ動かすと、思いのほかあっさり、揚力が生じて身体の押し上げられる感覚がしてきました。

 実際、足にかかっていた“重み”がふっと消えて、下降気流ダウンウォッシュをともないながら、身体が浮かび上がりました。

 うわー。

 わたし、ほんとに夜空を飛んでます。

 これだけで、もう楽しいです!

 鳥さんになる高揚感って、想像以上ですよ。

 さわるとふわふわな肌触りの翼。

 けれど、その翼に自分の手が触れた感触も、たしかに背中から感じられて、これまた感動です。

 この変異エーテルを選んでよかったって、改めて思いました。

 それに、突然天使に変身するってシチュエーション、やっぱりかっこいいでしょう?

 ここだけの話、それが重要になってくるんですよ。 

 

 わたしが考える、最後の最後、その“置き土産”に。

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