追憶36 事前準備と陣形の抜本的な改変が重要と判断(KANON)
飛行能力と回復魔法の阻害、ランスの二刀流。
字面だけ見れば単純明快な相手だが、奴を構成する要素の
相性が悪い。
敵を変える事が出来ない以上、私達の方を根幹から変える必要があるだろう。
一度撤退し、私は作業に取り掛かる。
まず
これ迄は
尤も、改良後の構造では
毒を食らわば皿までだ。
この際、連射性能は完全に投げ捨てて、射程距離と威力を突き詰める事にした。
後は、彼の腕次第だ。
腕力と言う意味でも、技量と言う意味でも。
完成した成果物は、最早、原型を留めぬ別物と化していた。
まあ、ボウユニットの着脱は容易なので、拡散ボウガンに戻したい時も即時対応可能ではある。
三時間程度の仮眠を取った後、謁見の間へ戻った。
設定上、ボス戦は隔絶された時空間での出来事であるから、また“悪魔形態”からやり直しだ。建物の破壊状況もリセットされている。
出来れば奴に有利極まりない屋外戦は避けたいが……建物を破壊せず・されずに仕留める方が困難だろう。
最悪の条件を前提として戦術を組むしかない。
悪魔形態に関しては、我々の中で既にパターンが確立されている。特筆すべき事は無い。
そして後方へ飛び、やはり屋外へと躍り出た。
屋外へ飛び出すのを阻止すべき、と言う案も出たが、寧ろやらせる事にした。
狙撃ボウガンを主軸とする
私にガードは付けない。突破されれば、彼と彼女と運命を共にする積もりだ。
元より、パーティが全滅すれば、私の生存など早いか遅いかの差でしか無い。
私達は、窓と奴の穿った穴のみを頼りに外の状況を見る。
初手、やはりアクカコソェルは翼から回復阻害の光弾幕を撒き散らした。
外の連中はやはり避け切れないが、心得があればジャブ程度の威力だ。各々に受け止め、堪えた。
流れ弾が謁見の間にも及ぶ。
何発か、私の傍らを通過して、背後の床を叩いた。
やはり、光学エネルギーと言うのは、ごく薄い遮蔽物や不純物程度でも容易に減衰する。屋外で迎え撃つよりは避けやすい。
とは言え重ねて言うが、厄介なのは回復阻害の付帯効果の方だ。
それに。
掠める程度に命中はしたが、代償として壁に穴が開いた。
むざむざアクカコソェルの光弾の通り道を作るような行為ではあるが、それは
槍のような質量が大気を抉る、風切り音。
これ自体は空を切ったものの、あの狭い穴から、空中で高速移動する飛翔体にニアミスしただけでも、命中精度の凄まじさが伺える。
それを当てにして武器をカスタマイズした私が言うのも何だが、実際に見るのと机上の空論では違う。
二人の狙撃と、光弾が決め手にならなくなった事実に、業を煮やしたアクカコソェルが降りて来るのは必然。
私は、人狼騎士が持つ“祖国陥落”のビジョンをフラッシュバックさせた。
ただし、前回とは逆にPTSDのレベルを引き下げてある。
人狼騎士の敏捷性が明らかに倍加し、しかし、最低限度の理性も保たれている。
祖国滅亡の、本当の元凶。その仇敵を前に憎悪を再燃させ、潜在能力が引き出されるのは自然な事だ。
アクカコソェルが長大な双槍を流麗に振り翳して急降下して来た所へ、人狼騎士が左右の
人狼騎士の後隙を補うタイミングで
アクカコソェルは憤るように、拡げた両翼で彼等を薙ぎ払った。
散った羽と火の粉の入り交じったものが、黒塗りの夜闇を舞う。
前衛三名が機能を停止した一瞬、奴は翼を拡げ、
窓が砕け散り、先程よりも苛烈な弾幕が私達を襲う。
彼と彼女が、遂に被弾。
私の腹にも一発命中。
大幅に減衰したとは言え、酷い打撃力だ。肺が圧搾され、表皮が炙られ、私は堪らず膝を付いた。
だが、息が詰まっても、顔を上げる事は出来る。
――そうだ。
――だから私は、ワズムズムドゥンの変異エーテルを望んだんだ。
――この連中と痛みだけでも分かち合いたいと言う、私情で。
随分と、遠回りをしてしまった。
埋め合わせはしなければな。
再び制空権を取るべく飛翔するアクカコソェル。
奴が最高度に達する前に、
双槍で振り払われた彼等は、各々に跳び退き、別の足場へ移った。人狼騎士の方は間合いの外に脱してしまったが、
本当に、妙な時に勇敢な動きをする男だ。
恐らく、本心からの勇気では無いであろう辺りが、また。
だが。
一瞬の隙に、
愚直に握り締めた右手は、飽和した変異エーテルの蒼光に満ちていた。
殴り付けるには手遅れの高度に思えるが。
彼は拳を天に翳し、翼無き生物とは思えぬ跳躍力でアクカコソェルに肉迫。
「
興奮の余りか、思わず技名を叫ぶと言う醜態を晒しながらも、変異エーテルの宿った一撃必殺の跳躍アッパーを――寸前で逸らされたが、奴の足を打った。
打点から蒼い光が放射し、夜空を
アクカコソェルは……左脚から脇腹にかけてが消し飛んだだけか。
未だ健在ではあるが、制動を失って空に溺れている。
しかし
私が懸念している側から、あの男は情けない絶叫を撒き散らして自由落下を始めた。
こんな時に緊張感の無い眩暈を覚え掛けるが、このまま畳み掛けるしか無い。
数発の着弾を確認。
そして。
狙撃ボウガンを構える
そうせず済む為に改良したと言うのに。人の気遣いも露知らず、武器の改良に自分の無茶を上乗せする結論に到ったらしい。
全くもって度し難いが、あの距離であの速度で不規則な軌道で墜落する的を撃つには已むを得ないも事実か。
これ迄あった僅かな手振れも消え、枯れ枝を持つ様な軽さで保持している。
彼は何の痛痒も無い様な仏頂面で、冷静に狙いを定めて。
引き金を引いた。
同瞬、薄ら漆黒の彗星がごとき飛翔体が放たれ。
アクカコソェルの頭部の真中へ見事に着弾、その頭蓋を跡形も無く粉砕した。
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