追憶33 さる選択についてのお話(MALIA)

 せっかくですので、AOアオさんといっしょに書庫で宝さがしをすることにしました。

 普段、他人とあまり遭遇しない、人口密度の低い世界ゲームなのもあり、わいわい、がやがや、たくさんの人がいる場所でのショッピング? はやっぱりいいものですね。

 いえ、リスポーンするので、お金のやり取りとかはないのですが。

 すでに結構、名作が発掘できました。

 わたしは主に小説とか料理本、雑学のネタになる本をさがしてます。

 これ全部、AIが秒で書いたんですよね。

 この書庫にある目算何千冊もの本だけでなく、地球と等倍サイズの世界に落ちたり収まってたりする、あらゆる本が、すべて。

 改めて、現代テクノロジーのすごさを実感します。

 これから先、技術ってどこまで進化するんでしょうね。

 それを言い出すと、キリがないですけどね。

 …………、ちなみにAOアオさんは詩集がお好きだそうです。

 さて。

 HARUTOハルトさんは内心急いでらっしゃるのでしょうけど、そんな時こそ立ち止まって考えることも大切です。

 ほんとは、わたしが言えた立場ではないのですが。

 わたしはわたしで、何かできないか、色々考えてはいます。

 それと、KANONカノンさんが、ご自分の受け持つ変異エーテルをどうするか、保留したいとのことで。

 そうなると、必然的に次はわたしの番になるわけでして。

 どのみち、わたしにも考える時間は多少必要でした。

 

 うん。

 やっぱり、急いで王都をでなくてよかったです。

 わたしがほしいものは、すぐ近くにありました。

「せっかくですから、謁見の間にもいってみましょう」

 言ってから、観光気分なのかと誤解されたか心配しましたが、

「……“密命を帯びし魔王、アクカコソェル”か」

 さすがHARUTOハルトさん。ちゃんとわかってくれました。

 ええ。

 王さまの場所に居座ってるってことは、この王都を奪った悪魔軍の親分ですね。

 そして、この二つ名からして、さらに上位のボスからの命令ってことなのでしょう。

 戦えば真相がわかるかもしれません。

 VRMMOのストーリーだとか設定だとか、割りとみなさん無関心な人が多いのですが、わたしは結構、そういうのも気になるタイプです。

 ……おっと、すこし本音がもれましたが、あくまでも変異エーテルが第一ですよ? ほんとですよ。信じてください。

「……確かに、君の“前衛”としての戦闘スタイルとは親和性の高い能力だが」

「ええ、わかってます。“魔法”のほうとは相性がよくないかもしれませんが、そこは使い分けです」

「……戦術の幅が広がる、とも言えるか」

「そうそう。それに、絵的にもかっこいいじゃないですか――あっ」

 彼の、変化にとぼしい眼差しが、どことなーく、ジロリとなったような。

 でもまじめな話、人生、そういうのも大事だと思いますよ?

 効率能率実利、そんなのばっかりでなくて。

「私に反対する理由は無い」

 KANONカノンさんが助け船をだしてくれました。

 おぉ、我が家の武器屋さま女神さまさまです。

「彼女の事だから、より大きな考えがあっての事だろう。

 問題を先送りした私が言えた立場では無いが」

「……良いだろう。後の二人に異論が無ければ」

 反対は……ゼロでした。

 

 書庫から出て、夕陽に照らされた正殿のほうを見上げます。

 雲は濃淡さまざまな紫色に染まっています。

 そろそろ、夜が近いでしょうか。

 ことMMOでの、“エンジョイ”の押しつけは、本来よろしくないのですが……何ごともバランスです。

 特に、今の彼と彼女には、それを思い出してほしい。

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