不正なアクションの疑いを検知

 現在、当ゲームの総ユーザー数は27,268,114人である。

 毎秒、何かしらの不正なアクションは発生している。

 その大半は特筆すべきものでも無い。

 一個人が、世界ゲーム内の誰の目にも触れない片隅で何を企てようと、我々運営AIの傍受は免れない。

 特に当ゲームを“クリア”しようと考えた場合、ログイン以前、ゲーム外から不正を申し合わせて結託する者達も相当数居るが、その全てを余さず検挙して来た。

 ゲームに暮らす者、ゲームを出入りする者全ての一挙手一投足と生まれてから今に至るあらゆる経歴を毎秒傍受し、規約に抵触した者に過不足の無い処置を毎秒下す。

 我ら運営AIのこの行為は、人間で言えば当たり前に呼吸をしている事に等しい。

 その大半は、注意を向けるまでも無い。

 しかし、例外と言うものは存在する。

 即断の出来ない事例の発生を検知した。

 当該プレイヤーに伴う全てのログを参照した。

 所要時間:0.00041秒。

 “事実”のみを鑑みると、精々、変異エーテル保有のボスに纏わる情報を、現実通貨で取引した程度のものだ。

 規約上、これだけでは当該プレイヤーを処罰出来ない。

 また、ゲーム全体の影響は皆無であり、処罰の値も無い。

 その他、明確な違反行動は確認出来ず。

 ただ、“不正”と言うよりは“不明”と言うべきかも知れない。

 運営AIの記憶容量、及び、演算能力をもってすれば、極めて精度の高い未来予知も可能である。

 時には本人が不正を思い付くよりも先に、不正へと至る未来を予見し、マークする事も可能だ。

 当該プレイヤー……識別名:HARUTOハルトからは、それが読めない。

 人間が「意図的に無秩序に振る舞う」事は不可能である。

 社会通念上、どれだけ狂っていたとしても。

 例外があるとすれば、本人が意図せずに無秩序を構築しているパターンである。

 故あって、当ゲームの最終目標“黄昏の君主”を目指すパーティの思考ルーチンを収集している。

 一個のVR世界の支配者となれる、と言う報酬は、やはり絶大な効果を持っている。

 ほぼ全てのプレイヤーが、我欲と言うファクターに収束している。

 それで良い。

 このゲームが――私と言う運営AIが創られた理由とは“それ”の“確認”にあるのだから。

 故に。

 HARUTOハルト、及び、そのパーティメンバーのほぼ何れからも“それ”が検知されない、この事こそが、真の意味での不正なアクションと言えよう。

 このゲームの根幹を、崩してしまうかも知れない。

 そうした意味では危険だが。

 ただ一名、例外は居る。仮に黄昏の君主に至った時、そのメンバーは心変わりを起こす。全ての言動が、そう言う波長を描いている。

 その時が来れば、パーティ内での衝突は不可避であろう。

 私は、結局静観を選んだ。

 アカウントの剥奪はいつでも可能だ。

 それよりも、不確定要素を不確定要素のまま排除するよりは、分析が優先と判断した。

 取り分け、黄昏の君主へ挑むパーティが一年以上、誰も欠けずに維持された事例は皆無である。

 このパーティは、果たして何処まで保つのか。

 そこに、解がある可能性は高い。

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