追憶29 業垢(僧侶、JOU)
何度か挑戦するうち、対ワズムズドゥンにおける、各々の立ち回りは確立されてきました。
まず、何はなくともワズムズドゥン本体の魔法を完成させないこと。
どうも、自ら杖を破壊するたびにワズムズドゥンの魔力が増幅し、発せられる魔法の熱量と衝撃力が飛躍的に上がるようで。
おかしな話ですが、極力、ワズムズドゥンの持ち物である杖を守る必要もあるようです。
これがかなりシビアでして、我がパーティの戦力で言えば、前衛三人が常に完璧な連携を維持し続けてようやく均衡が保たれると言ってよいでしょう。
拙僧の役割は、彼ら彼女らが邪魔されないよう、また
……
ボス戦と並行して行う、我らの“勝負”のことです。
ワズムズドゥン打倒時点で相手より長く立っているという勝利条件でありながら、誰一人欠けてもワズムズドゥンには勝てない。
拙僧と彼女の両方が最後まで生き残る可能性も、逆に二人同時に絶命した後に戦が終わる可能性ありますが。
そうなったからと言って、引き分け、ということはあり得ません。
彼女も拙僧も、それは認められないでしょう。
その時はその時で、また
あとは。
昨日、
一応、電気巨人を召喚しても見ましたが、存外とうまくいきませんでした。
無論、
それでも、
本人は大層悔しがっておりましたが、恥じることではなく、これが普通ではあります。
何でも
それでも。
まるで、
彼女を赦さないのは、彼女自身なのです。
彼女は、それに気付く必要がある。
火影に満ちた、ほの暗い大書庫。
高所からワズムズドゥン目がけ、
逆上して杖を折ろうとしていたワズムズドゥンが一旦冷静さを取り戻し、蹴った反動で離脱しようとする彼を杖で叩き落とそうとしますが、その瞬間にボウガンを構えた
悪魔タイプのエネミー全般の特長として、その装甲性能の高さにあります。
強化ゴムのごとき柔性の筋肉と、鋼と同等のビッカース硬さを誇る外皮と、二層の防護に阻まれたボルトが砕け散ります。
しかし痛みは確かにあったのか、ワズムズドゥンは音無き怒号をあげて、全身を奮い立たせました。
ワズムズドゥンは、今度こそ杖を高らかに持ち上げ――スキップフロアから飛び降りた
空中殺法ともいうべきこの技は、その名も“ドロウ・シザジー”というそうです。
引き裂かれた悪魔の身から、我らとは生まれの違う様を現す青い血が噴き出して側にあった書架を染め上げます。
ワズムズドゥンは、皮膜の翼を全開にし、身をよじらせて振り回しました。
それは巨大な風車のように、書庫の何もかもを辺り構わず巻き込み、配下達をも引き裂いて行きます。
恥ずかしながら、この光景もリトライを繰り返すうちに見慣れたもので。
逃げ場のないように思える軌道を、
そして。
ここまで、長々と人の動向ばかりを語ってまいりましたが、拙僧も手足を止めていたわけではございません。
全身の隅々をめぐる“激痛”という脳の電気信号が膨大に拙僧に訴えかける中。
酸欠で視界に靄がかかって、少々不便ではありますが、どうにかこうにか
新たな配下を召喚する詠唱が、完成したのです。
――来たれ、
――四つ脚の狭間を生きるその身に与えられし意味は、唯一つ。
――我が
現れたのは。
全身を鉛色の甲冑で覆った、四つん這いの者。
先日、王都外郭の橋で我々が下した、人狼騎士でした。
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