追憶25 こうなったの、恐らくわたしのせいです(MALIA)

 さて、“勝負”とはいっても、具体的にどうしたものか。

 大変申し訳ないのですが……ちょっと、明確なビジョンが固まる前に提案してしまいました。

 普通に戦ってでさえ死ぬ思いをするボス戦で、ふたりの勝負も並行してやるなんて、わたしも軽率なことを言いましたが。

「……自分に考えが有る」

 おぉ、さすがHARUTOハルトさん!

 正直、少し、かなり、相当アテにしてましたよ。

「……実の所、自分はある身体強化バフ魔法を常用して居る」

 あぁ、だろうなーとは思ってましたよ。

 あからさまに、平時と非常時のフィジカルがちがいすぎますもん。

 そのための、聖騎士キャラでもあるのでしょうしね。

「……名称は【リミッター解除04】と言う。末尾の数字は型番だ。気にしなくて良い」

 うん。彼らしい命名です。

「……普段、脳によってセーブされて居る身体能力を100パーセント解放する、良くあるものだ」

 そんな北斗神拳の使い手を量産するような魔法、よくあられても困りますが。

「そのような術をお持ちでしたら、次回の戦より、是非ともこの拙僧にも施して頂きたく存じますが」

「……被術者への負荷が強過ぎる。この魔法が掛かった状態で無理に動けば、最悪の場合、死に至る」

 という宣告にたいして、JOUジョウさんは大いにうなずきまして。

「ええ、承知の上です」

「……、……戦術的に有益と判断した場合、前向きに検討しよう。

 兎も角、自分はこの問題を【持続治癒02】と言う魔法でカバーして居る。

 所謂いわゆる、時間経過によって徐々に治癒する自動回復リジェネレーションの魔法である。

 これによって、リミッター解除による自傷ダメージを相殺して居る仕組みだ」

 ……力業、ですね。

「それと、私達の勝負と、何の関係が」

 うつむいたKANONカノンさんが、長い黒髪に表情を隠していいました。

「……本題に入る。

 今回のターゲット、ワズムズドゥンとの戦闘時、君達二人にこの【リミッター解除04】を掛ける。

 但し、リジェネレーション魔法の【持続治癒02】は掛けない。

 と言うより、持続治癒の方は、対象者に手を触れないと発動が出来ない上、効果時間も20秒であるから、自分以外の人間に掛け直すのが困難だ。

 故に本来、このリミッター解除を他人に施術するのは現実的では無い」

「成る程、我慢比べと言う事か」

「……そんな生易しいレベルのダメージでは無い。

 持続治癒無しにリミッター解除をした上、変異エーテル持ちのボスに挑めば、高い確率で自滅は免れない。

 ……、リミッター解除の副作用にせよ、ワズムズドゥンの攻撃にせよ、先に死んだ方の負けだ。

 我々がこの勝負に勝っても、無効とする。

 これならば、本懐であるワズムズドゥン戦にそう支障はきたすまい。元より短期決戦を要求される相手であるから、二人が強化されるのは理に適っても居る」

 ふむ。

 例えばワズムズドゥンをやっつけるまでに三回挑んだとして、通算二回生き残ったほうの勝ちにすることもできたはずです。

 結果的にワズムズドゥンをやっつけた、その一回で勝負に勝てば、そこまでに何度負けても関係ない。

 このあたりに、なにか考えがありそうですね。

 そして。

「……何より、当該変異エーテルの性能を思えば、それを担う資格がどちらにあるのか、“予行演習”として最適な趣旨でもあろう」

 なるほど。

 この上なく完璧な案だと思います。

 更にその先に、わたしの想像がおよばない意図があるのも明らかですし。

 彼のことです。

 きっと、目先の仲裁だけではなくて、その先のベストを狙う青写真があるはずです。

 勝負そのものについて、わたしなりに考えてみました。

 体力的にはJOUジョウさんが有利でしょう。

 一方、身体を動かす頻度・激しさ=致命的な自傷ダメージを受けるリスクもまた、JOUジョウさんが圧倒的に多い。

 とはいえ、非戦闘員であるKANONカノンさんも、まったく接敵しないわけではありません。

 そもそもKANONカノンさんが敵の有効射程内に捕捉されること自体、わたしたちのパーティでは避けるべき事態でもあり――、――あっ。

 ……いえ、ちょっとHARUTOハルトさんの意図をひとつ、読めたようなそうでもないような気がしたもので。

 確証がもてないうちは、言及は避けさせていただきますが。

 とにかく、有利不利の公正さはちゃんとしていると思います。

 あえてゲームじみた言いかたをすれば、耐久力が高いかわりにダメージの頻度が多いJOUジョウさんと、滅多にダメージを受けないかわりに、一度の被害が致命傷になりかねないKANONカノンさんと。

 双方の適性を拾った上で、本来のワズムズドゥン戦そのものにも支障を出さない。

「よろしい。そのプランでやってみましょう」

 当人たちも、異論をはさむ余地はなかったようです。

 

 ……。

 おおむね、カバーできている、ですか。

 いえ、HARUTOハルトさん自身の話なのですが。

 本来、脳がセーブしている身体能力を全開にする力業。

 筋肉が断裂して骨が割れかねないような負荷を、都度、回復魔法で無理やりカバーする。

 痛みに、変わりはないでしょう。

 そして、そんな彼の無理が“予行演習”になるような変異エーテルを自分から望んでいるKANONカノンさんも。

 

 この世界ゲームクレプスクルム・モナルカが、きっと、わたしにとって最後のVRMMO生活になると思います。


 これは、前回のロボットゲームを終えて、この世界ゲームに来る前に、HARUTOハルトさんとKANONカノンさんには打ち明けてあります。 

 もしかしなくても、あのふたりに無理をさせているのは、わたしのせいでしょう。

 一方で、本当はINAイナさんにもきちんと話すべきなのでしょうけど……彼女とは、あと一度の真剣勝負が控えていますから。

 わたしは、

 VR人生の最後になるであろうこの時に、

 いい仲間を持ちました。

 だからこそ、

 このパーティのみんなが笑って、この世界ゲームのエンディングを迎えられるには、どうすれば。

 考えなければ、いけません。

 わたしが、誰よりも。

 

 むずかしいですね。

 みんなが優しい。

 けれど、そのことが、お互いを苦しめてしまう。

 どれだけ生きれば、答えが出るのでしょう。

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