追憶20 世界には、ぼくが報われないよう修正力がはたらいている(心折れた略奪者、AO)
三回ばかり、返り討ちにあったろうか。
人間、チャンスさえあれば自ずと慣れるもので、最初は捉えきれなかったムカデや、トトネェロッー(以降、目標T)本体の多彩すぎる四次元物量攻撃にもついていけるようになっていた。
もう諦めたいけど、元よりぼくに拒否権はない。
自分だけ変異エーテル、もらっちゃってるし。
だからせめて、挑み続ければいつかは解放される、その希望を支えにしてがんばっていた。
けれど。
【鞭使い、
時空間の霧壁を抜け、闘技場で待ち構える目標Tと相対した瞬間、その赤フォントで書かれた不吉なメッセージが網膜に表示された。
ほぼ同瞬、五人の人が霧壁から出てきて、まだ散開していなかったぼくらを取り囲んだ。
手際がいい。武器の持ち方とか、歩き方だけでもわかる。
こんなゲームで仕掛けてくるような人種ってのも、対人ガチ勢でしかありえない。
これはまずいぞ……。
ぼくら前衛はともかく
緊張で息が浅くなるけれど、ざっと相手の構成を推測……。
さしあたり、後衛に対してヤバそうなのは、両手に革鞭と鎖鞭を持った女の子と、教科書どおりの魔術師って風貌の男の人。
ようやく目標Tに慣れてきて、ほんのわずかな光明が見えたと思った矢先に、敵対プレイヤーの侵入。
ぼくの人生、いつもこうだ。
うまく行きかけたと思ったところに、神様が無理やり帳尻合わせたかのように、なけなしの希望を念入りに潰してくる。
ぼくの前世は、よほどの大悪人だったのだろうか。
なお、目標Tの
この際、ボスエネミーをもうまく利用して、敵対パーティを消耗させるのがセオリーだけど……まあ、それはあちらも同じ条件だよね……。
「……何処から嗅ぎ付けたか」
「
鞭を持った女の子が言った。
えっ、なに? 知り合い?
ちょっと、話が見えないんだけど?
「あたしに何か、言う事は?」
「ひさしぶりに会えてうれしいような、すごく落ち着かない場所で会ってしまったな、というような、複雑な気持ちです」
暢気な言いぐさを、けれど真摯な声音で
音を突き破るソニックブームの音が怖い。ぼくは、それを見ただけで、たちまち、全身が竦み上がってしまった。
どうやら、彼女が
「この期に及んで愚弄するか」
「わたしは――」
「無駄話は
責める
そんなやり取りを、珍しく沈黙をはさまずに切り捨てたのは、
どうにも……常々感情の読み取りにくい人とは思ってたけれど、もしかして、少し機嫌が悪くなってませんか?
「……他人のボス戦に侵入して来ておいて馴れ合うような輩に用は無い」
まあ、そうだよね……。
いい加減、目標Tも痺れを切らして襲って来そうだし、話してるヒマはもう無いような……。
「ならば望み通り、殺してやる」
一方、金色のフルアーマーさんと銀色のフルアーマーさんにがっちり守られて、向こうの魔術師が詠唱をはじめた。
「……
「わかりました」
「ええっ!?」
ぼくは思わず、裏返った声をあげてしまった。
って、すでに
「疑問を挟む暇は無い。自分と
これまた珍しく矢継ぎ早に言いながら、彼はボウガンに持ち換えた。
先端の“あぶみ”のような装置を踏みつけ、矢を装填した弦を背筋の力で張って。
意外と、ボウガンって弓矢よりも手順が多くて連射が利かないんだけど。
それでも、
ついに引き金が引かれ、弦が跳ねた。矢が文字通り消し飛んだ。
そして。
鼓膜を刺す爆音、網膜に突き刺さる閃光。
敵陣の真っ只中で、茶褐色の発破と煙が派手に放射した。
金色のフルアーマーさんが、魔術師
けど。
その傍ら、
見ての通り、今
通常、消費アイテムとして投げつけて使うクズ魔石に初歩の戦術魔法を込めておき、ボルトとして撃ち出す。
ボルトは一定距離を飛ぶと三方向に空中分解する。いわゆる3wayショットだ。
発射から魔法が炸裂するまでのタイミングは射手の任意――って、秒未満で着弾する弾丸の炸裂するタイミングを人間の反射神経でコントロールしようって設計からして、おかしいんだけどね?
いや、そこは
改めて、敵側の被害を確認。
……金色フルアーマーさんの方はやっぱり無傷か。
ぼくも一瞬のことで自信がなかったんだけど、彼の周りでだけ、爆煙が割れて霧散したように見えたんだ。
ちょうど、レジストが完全に決まった時のような。
確かに、炎や電撃など、対応する“属性”に対するレジスト能力が付加された装備は珍しくない。
古今東西、RPGでは由緒ある戦術だろう。
けど、あそこまで見事に無傷というのは、まずあり得ない。
一方、フレイルを持って果敢に立ち向かってくるはずだった男の子のほうは、その若い容貌を変わり果てさせ、絶命していた。
これが、あの拡散ボウガンが直撃した、本来の威力のはずなんだ。
とにかく、
ヤバイよ、専門家が放つ戦術魔法の威力は、近代の火器に匹敵するんだ。
このままじゃ――
同瞬、
そこへ、目標Tが駆るムカデの大質量が地面を蹂躙した。
【フォーマルハウトの煌めき】
ついに
蒼い閃光と共に、体感温度が激増、肌が炙られる。
蒼い炎の大波が、ぼくらを襲う。
目標Tは、モロに巻き込まれた。願わくば、これで死んでくれないかなぁ。
肉が焼けただれるのも構わない様子で、冷然とボウガンにボルトを再装填してる。
そして、発射。
ただでさえ大柄な男が金属の塊でガチガチに固めた大質量が、また、冗談のように吹っ飛んだ。
どうも鉄壁の魔法耐性を持つらしい相手に対し、込めた魔法をあえて発動せず、ただのボウガン(というかあそこまで行くと、もはや歩兵携行仕様のバリスタ)として射抜いたのだろう。
甲冑の中の人、ほぼほぼ軽傷。衝撃でスッ転んだだけのようだ。
それを尻目に、蒼炎に巻かれたまま走る
ナイフ投げとしては威力の乗らない無回転打法ってやつだから致命傷にはならなかったけど、詠唱を途切れさせるには充分だった。
銀色のフルアーマーさんを力任せの大メイスで撥ね飛ばし、蒼く燃え盛る身体のまま、ついに
ちょっと、敵の主砲が沈黙したのはいいけど、一人で突っ走りすぎじゃないかな!? 彼の蛮行の実況ばかりで、ぼく自身が全然追いつけてないよ!
「……弱い」
いい加減鎮火したとはいえ、未だ、焼けた身体のあちこちを蒼く燻らせながら、彼は冷たく言い捨てた。
その残り火さえも振り払うように、治癒魔法で火傷も消し去ってしまった。
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