追憶19 HARUTO達との決戦前に(鞭使い、INA)

 重苦しい話題は、今はここまでにしよう。

 今から挑む決戦を前に、あたしの仲間達を紹介しておこうと思う。

 

 まず、自称・黄金壁おうごんへきRYOリョウから。

 全身を金色のプレートアーマーで覆った、大柄な体躯の男……と言うと別段、珍しくないように聞こえるかも知れないけれど。

 真鍮だとか、薄ら黄土色の金属光沢だとか、そんな生易しい質感では無い。

 本当に、磨き抜かれた純金の輝きだ。鏡面と言っても過言では無い。

 日常的に、この男と普通に話しているだけで、その鎧にあたしの、長い黒髪から小柄な体格まで全てがくっきり映っているのが気になって仕方がない。

 それだけなら、まだしも。

 一番悲惨なのが、兜のデザインだ。

 恐らく、史実では馬上槍試合トーナメントの装飾兜として用いられていたのであろうが、目出しのフルフェイス・ヘルムなのはまだ良いとしても、頭に大きな白鳥を模した飾りが鎮座していて、正面から向き合うとこちらを小馬鹿にしたような眼差しを向けてくるの!

 あまつさえ、この男はそれすらも純金に塗りたくってしまった。

 とにかく、まあ。

 あたしにとっては、VR人生全体を通して最も長く時間を共にした仲間だ。

 別のファンタジーゲームでも、ロボットゲームでも、彼のこの偏執的ですらある色彩感覚は嫌と言う程見せ付けられて来たが……日に日に悪化して来ている気がする。

 ともかく、タンク役を好む男だ。

 ポストアポカリプスのゲームではパワードスーツを着込み、ロボットもののゲームでもキャタピラ脚部の重装甲機体で参戦し、令和時代の日本を舞台としたクトゥルフものゲームでは「訓練を受けた警官」として自身のアバターを頑強なものにして、常にあたしを庇ってくれた。

 美的センスは終わってるけれど、あたしが最も信頼する男だ。

 一つ目の変異エーテルも、彼に託した。

 

 次に、自称・白銀壁はくぎんへきTOMOトモについて。

 金ピカで無いだけマシ……と自分の心を欺きたくなるけれど、やっぱり無理。

 甲冑のデザインが――これは彫像……と言うべきなのだろうか。着用者が、銀色をした筋骨隆々とした男に抱き付かれ、頬に口付けされそうになっているデザイン、としか形容のしようが無い。

 なまじ、人間の上半身を丸ごと模しているので、純粋な板厚も重量も相当な重装甲だろう。

 しかも、何故か頭部だけ鎖帷子のフードで覆っている上、駄目押しと言わんばかりに装着しているのが、満面の笑みを湛えた仮面だった。

 絵に描いたようなニコニコマーク ( : がより一層、見る者の神経を逆撫でる。

 いや、RYOリョウの白鳥乗せヘルムもそうなのだけど、こう言うデザインの防具に限って、強力な常駐式魔法エンチャントが施されている事が多い。

 そんな身なりの男が、両手にそれぞれ波形剣フランベルジュとトマホークを装備しているので、即刻、お巡りさんに通報したくなる衝動に駆られる。

 尤も、前のゲームで“お巡りさん”をロールプレイしていたRYOリョウが前述の有り様なので、どうしようもないけれど。

 正直、この“黄金壁”と“白銀壁”が地下大空洞の暗がりで肩を並べているだけで、下手なボスエネミーよりも恐怖を煽る。夢に出て来そう。

 ……いい加減、もう疲れたので、ビジュアルへの言及はここまでにしておくけれど。 

 とにかく、TOMOトモは、こう見えて治癒能力者ヒーラーを一手に引き受けてくれている。 

 それが目算40kgは下らないアーマーを着こなしているのだから、難攻不落の回復役として頼もしいのは確かではある。

 

 三人目は、自称・狂える焔、KENケン

 その二つ名から察せられる通り、魔術師だ。

 熱狂的なクトゥルフ神話オタクであり、前々回にプレイしたクトゥルフものゲームでは、お腹いっぱいになる程、蘊蓄うんちくを聞かされた。

 そこでクトゥグア信奉者になり切ってのけた経歴が、このゲームでの自作スキル審査で有利に働いたらしく、かなり高位の魔法を手中に収めたらしい。

 どうも、このゲームでは宗教や、それ未満であっても何らかの“信仰”があると、魔術師ビルドを目指すのに有利が取れる傾向にあるらしい。

 実は、あたしも高校が宗門校で、そこそこ勉強させられた。

 何かの足しにとその経歴を提出したら、おまけ程度の魔法は修得出来た。

 KENケンの場合、信仰対象の関係で火属性に限定されるハンデはあるけれど、うちの頭脳担当でもある彼であれば、幾らでも応用してのけるだろう。

 

 元々、長い付き合いのあった仲間は以上の三人。

 けれどこのクレプスクルム・モナルカは、五人でパーティを組まなければならない。

 それで今回、新たに数合わせ――と言うと失礼かも知れないけれど、明らかに戦い慣れしていない、あどけなさを残した容貌を見ると、それが口をついて出そうになる。

 名前はEIJIエイジと言う。

「あの霧の壁をくぐれば、いよいよINAイナ師匠せんせいの本気を見られるんですねッ!」

 ……と、こう言うキャラをしている。

 師匠、と言われても……あたしだって、キャリアの浅い若手の部類なんだけれど。

 

 若干の不安は残るものの、いよいよ宿命の対決に飛び込む時だ。

 目まぐるしい乱戦になるだろう。

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