追憶18 例え死んでもHARUTO達に勝つ決意(鞭使い、INA)

 大陸北東部の某所にある、某古代遺跡を抜けて。

 あたしは、地下大空洞と名付けられた大規模ダンジョンを進んでいた。

 そろそろ、変異エーテル持ちボスの生息地に着く。

 あたしの名はINAイナと言う。鞭使いだ。

 このクレプスクルム・モナルカのみならず、ポストアポカリプス世界でもクトゥルフもののタイトルでも、巨大ロボットのゲームでさえも、一貫して“鞭”のみを武器として戦い抜いて来た自負がある。

 HARUTOハルトとは、もう5タイトルもの付き合いになるだろうか。

 断じて仲間では無い。

 VRの世界に住み始めて今まで、あたしの行動原理はあの男を打ち負かす事にある。

 同時に、MALIAマリアとはプライベートで親交があった。

 戦った記憶も多ければ、共有した思い出も多い。

 この矛盾は、VRMMOならではの関係性と言えるだろう。

 戦績は0勝4敗。

 未だ大きく差を付けられているとは言い難いが、予断を許さなくなって来た。

 

 一応、あたしはこのパーティのリーダーでもある。

 元々、あたしにとっての知己らしい知己は三人だけだった。

 最近、ようやく五人揃い、一つ目の変異エーテルも入手した。

 次は、あたしの変異エーテルを獲りに行く。

 もう一度言うようだけど、あたしの得物は“鞭”だ。

 鞭にも色々ある。

 革鞭。より正確には革紐を鉄線で束ねた“クヌート”と言う。鎧のような装甲には無力であり、牽制と用だが、あたしの腕で相手の素肌にクリーンヒットさせれば、三発以内に成人男性が死ぬ。

 打撃用の鎖鞭。どのゲームに於いてもあたしの主武装だ。

 蛇腹剣。生物の肉をズタズタに引き裂く事で瞬間的に失血死を狙う。

 九尾の猫鞭。バラ鞭とも言われる、柄から無数の短い鞭が伸びた物。通常、拷問対象を殺してしまわないよう衝撃を分散させる為の形状なのだけれど、あたしはそれらの先端にナイフの刃やおもりを付けて殺傷力を与えた。つまり、あたしにとって数少ない、至近戦インファイト手段。

 電撃鞭。対アーマーを想定したエンチャント品。

 爆導索。対多数用の、発破魔法を内蔵した魔石を連ねた物。

 ゲームに参戦してから一ヶ月足らずで、手持ちの鞭がこれだけ膨れ上がってしまっている。

 全てをいつでも自由に出し入れ出来る能力が欲しい。

 百手の騎士、トトネェロッー……の変異エーテルは、まさにお誂え向きだろう。

 今もまた、何組かの他パーティが視界の端をよぎった。

 度々、雑魚エネミー相手に共闘してもいた。

 同じ変異エーテルを狙っている者は多数居る事だろう。

 だが、基本的にこのゲームで、獲物を巡って他人と競合する事は無い。

 ボス戦はパーティ毎に別時空での戦いとして処理され、次の別個体とすげ替わる再配置リスポーン処理が行われる迄は、何人でもその変異エーテルを入手可能である。

 けれど。

 あたしは認めない。

 自分と“あいつ”が、同じ変異エーテルを得る事を。

 だから“侵入”してやるつもりだ。

 HARUTOハルトの、対トトネェロッー戦の“時空”に、敵対プレイヤーとして。

 死にゲーでは、古くからある対戦要素でもある。

 あたしが敗けたなら、トトネェロッーの変異エーテルは潔く諦めよう。

 けれど、あいつの事だ。

 仮にあたしに敗けたとしても、意に介さずトトネェロッーの変異エーテルを獲りに行くだろう。

 それでも良い。

 これは、あたしの自己満足。

 仲間を巻き込んだ、傍迷惑な。

 けれど、あたしの人生そのものとも言える「あの男を跪かせる事」よりも、

 今は強く思う。

 

 MALIAマリア

 貴女はあたしに、何を隠している?

 

 あたし達は……友達……では無かったのか?

 それを話す、価値も無いと言うつもりか?

 

 飽くまでもとぼけ続けるのなら、身体に訊いてやる。

 覚悟しろ、MALIAマリア

 

 目的が、変質しつつあるのを、理屈の上で感じる。

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