追憶13 ぼくの人生は無限地獄(心折れた、AO)
あれからもう三回ばかり挑んだけど、死んだ。
変異エーテルの
元より五人(ボス級を含む)を相手に一人で互角に渡り合うような反射神経と身体能力の持ち主だ。
その上、打撃を“当てさえすれば”負傷が踏み倒せるので、防御をかえりみずに迫って来るわけで、ラッシュの手数がえげつない。
そう。
一見して
現実は、装甲で弾き切ろうが盾で防いでみせようが、あいつはお構いなしに治癒してしまうんだ。
例えこちらが無傷であったとしても。
……これが“略奪者”の二つ名の由来だとしたら「奪ってる」って言うには苦しい表現なのでは? とも思うけど。
まあ“生命力の数値化”なんて、VR世界であろうと不可能だ。それをやりたいなら、厳格に
結果、打撃のインパクト(エネルギー量)に応じた面積の負傷を治癒する、と言う処理に落ち着いたのかもしれない。
それと、回復とは別の「打撃力が高まる」効果については、どうも際限無く強化されるのではなく「打撃を当てるごとに蓄積されたエネルギーを、任意のタイミングで解放している」らしいことがわかった。
なお、これらのリゲイン能力、地面や障害物を殴っても効果が無いと検証済みだ。
もういい加減諦めてほしいけど、
ちなみにあれからの再戦で、彼は武器をあれこれ試行錯誤していたんだけど。
そりゃそうだ。打撃が当たりさえすれば回復して、一撃必殺パワーまでチャージしてしまうような相手に、大楯なんて最悪の装備選定だ。
重装備でブロックするより、軽装で回避に専念したほうが、まだ相手の回復量もマシなのは言うまでもない。
……なのだけど、何を思ったのか、今回は再びスクトゥムとパイクを持ってきているよ。
ぼくは、怖くてなにも意見できない。
他のみんなも、何も言わない。
「……これは言わば、奴とのダメージ競争だ。君のラッシュ力が鍵となる」
「何があっても、畳み掛けろ」
色々と振り切るように、ぼくは遮二無二、走り出した。
遥か真正面に、文字通り待ち構えるドッコロニアン。
後方で、
初戦以降、
リゲインの良い供給源だからだ。
初手はやっぱり、
扇状に影を穿つ無数のそれを、当たり前のように躱された。
同瞬、彼女自身がドッコロニアンの懐に踏み込――んだかと思うと忽然と姿を消した。
ただ大鎌の黒い軌道だけが、ドッコロニアンを縦に両断せんと弧をえがいた。それも躱されたけど。
消えていたのもつかの間、ドッコロニアンの背後に再び現れた
姿を消しつつ、すれ違いざまに逆手に持った大鎌を一閃する、確か“エクリプス・シェイド”という必殺技だ。
彼女を見失ったところへ、まともにフルスイングの大鎌が襲ってくる、文字通り「必ず殺す技」だ。ぼくが食らえばひとたまりもないだろうが、残念ながらドッコロニアンには当たらなかった。
やっぱり、近距離になると彼女の長柄武器は不利だ。今度はドッコロニアンがアクロバティックに跳躍しながら急接近、彼女の懐に鋭く踏み込む。
あわや右の
ぼくは意を決して長距離回転ドロップキック“空襲脚”を敢行、まばたきをする間もなく、あいつの胸板を捉え――あいつはあっさり
ぼくのキックは無為に空を切ったけど、この前みたいに迎撃されるよりはずっとマシだ。痛いもん。
さすがに、同じ相手に殺されまくって、ぼくらの連携も様になってきたとは思う。
思うけど、
ほら見ろ! スクトゥムに身を隠した彼は、ドッコロニアンの双錘に捕まってしまったよ。
不吉に燐光を帯びながら、ドッコロニアンは彼の大楯を乱打する。
幸か不幸か、ここまで一矢も報いれなかったので回復される傷もないんだけど。
でも、打撃力強化のエネルギーは着々とチャージされているはずだ。
何とかしないと、まずいよ……。
と、思っていたら、
弾ける光華と砂煙の中、せいぜい纏ったボロや肌の表面をオレンジ色に燻らせた程度の被害で、ドッコロニアンは
その、なけなしの熱傷すらも、変異エーテルの燐光ひとつで消えてしまった。
けれどぼくは、お坊さんの爆撃に紛れて、間合いに踏み込んでいた。
プルプル震える拳を懸命ににぎりしめて――低く屈んだ体勢から、空へ向かって跳躍アッパーカット。
“
ドッコロニアンのアゴを狙ったそれは当たり前のように躱されたけど、その一瞬の回避動作による隙で
彼の長槍も避けられたけど、
ぼくの全身に、ものすごい重みが生じた。
自由落下よりもずっと勢いよく墜ちる中、ぼくはカカトの照準を、ドッコロニアンの脳天へあわせてそれを繰り出す。
“
これすらも寸前で避けられ――けれど、右肩を砕いた手応えあり!
ドッコロニアンは、よろめく動きのまま、けれど、
彼は踏み込む勢いで大楯であいつを殴りつけたけど、もはやあいつは蚊に刺された風にも思ってないらしく。
あえなく盾に鈍器が叩き込まれて、今しがた引き裂かれた裂傷と、ぼくの砕いた肩もたちまち治ってしまったよ。
そろそろ、あいつが“貯蓄”しているパワーもやばい量になっているんじゃあ……。
やっぱり、無理なんじゃないか!?
と、思っていたら。
何を思ったか、大楯を捨ててパイクを両手構えにしたよ。
「ちょ、何を考え――!?」
「……何があっても、君が畳み掛けろ」
彼がそれを発声した瞬間には。
諸手にした槍をあっさり躱され、ドッコロニアンはついに、左手の錘に、蓄えた燐光を飽和させ。
愚直に、けれど不可視の速度で振り下ろして、
まともに受けた
「あ、あ、ぁあアぁあアぁア嗚呼嗚呼!?」
タンクがやられた!
もうダメだ!
死ぬ、殺される、ぼくじゃダメなんだ!
――何があっても、君が畳み掛けろ。
極限まで強化された一打を振り下ろし、大きく体勢の泳いだドッコロニアンの姿があった。
ぼくは。
――“
その技に逃げた。
手の届く間合いにドッコロニアンが近付いた。
ジャブ、ジャブ、アッパーカット、右回し蹴りからその右足を軸にした左回し蹴り、回転するままに裏拳、エルボー。
ぼくが文字通り無我夢中で繰り出した打撃が、ことごとくドッコロニアンに命中して、分厚い筋肉の束をきしませ、骨を砕く。
やつは、ドッコロニアンは、ぼくにボコボコにされながらも、鋭い眼差しでカウンターの機会を狙っている。
ある程度、打撃の内容は変えられるものの、設定した回数殴り終えるまで、ぼくが止まることはできないから、反撃されたらおしまいだ。
殺される殺される殺される殺される!
やめろやめろやめろ、来るなァァァ!
半ば麻痺したぼくの前頭葉が、なおも、恐怖を感じている。
宙返りしながらの蹴り上げ、返すカカト落とし、右ストレート、左ストレート――奴の胸板に食い込んだ拳から、トドメの圧力注入
ドッコロニアンは、
冗談みたいに真後ろへふっ飛んで、
仰向けに、大の字に倒れて、
痙攣しながらも、まだ起き上がろうとしてきて、
「――ッ!」
ぼくは、もはや声にもならない絶叫をあげて、
やつの顔面に名もなきパンチを叩き込んで、
今度こそ、ドッコロニアンは動かなくなった。
殺した。
ぼくが。
ぼくが、確かに殺した。
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