追憶12 逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい……。(心折れた、AO)
生活感のある広場だった。
火の消えた焚き火と、食べた後の
寝床だろうか、粗末なツリーハウスをバックに“そいつ”は静かに立っていた。
さすがに、プレイヤーを五人まとめて相手取るだけあって、ぼくらより頭抜けて大きな身体ではある。
毛髪ひとつないスキンヘッドで、顔立ちも巌のようにいかつい。
しかし、言っちゃ失礼だけど、みすぼらしい服装だ。
服って言うにはボロを補修して、誤魔化し誤魔化し纏っているような……。
“略奪者”と言うには、むしろこいつ自身が身ぐるみを剥がされたようないでたちだった。
両手には、短い棒の先に鉄球がついたような、マラカスにも大きめな鉄アレイにも見えなくもない棍棒が一本ずつ。
中国の
対話の余地もなく、あいつは、ドッコロニアンは駆け出してきた。
あぁ……イヤだなぁ、戦いたくない……。
ドッコロニアンに接敵する直前、
ドッコロニアンの背後で地面が砕けた。ほぼ同瞬に反応したドッコロニアンが転がるように回避を試みるが、散弾のように放射した小石数個が、半ば剥き出しの肌を撃ち抜いて血が弾けた。
石の散弾も、それほど効いていないのか。
くっ、ぼくがやるしかないじゃないか!
ぼくはドロップキックの要領で、錐揉みに回転しながら突撃する必殺技、“空襲脚”で、ドッコロニアンに飛び込むけれど――パイクを躱して上体をそらしたドッコロニアンが、後ろ手に倒れるような動作で、でもしっかり地面に手をついて、脚を旋回させてぼくを打ち落とした。
野太い衝撃がぼくの脇腹から炸裂して、ぼくは無様に地面へ叩きつけられてしまった。
脳震盪を起こしそうな視野の中、ドッコロニアンが両手の錘を振り上げ、ぼくにトドメを刺す気満々だった。
「やめ、やめてくれ!」
何でぼくばっかりこんな目に!?
と、
ホーミングレーザーのような光条が五つばかり、
無傷、ではないものの、ドッコロニアンは多少肌に火傷を負ったくらいだった。
大半をレジストされたらしい。
やっぱり、変異エーテル持ちだとこんなものだよ。
だって、今のレーザーにしても、目算だけどヒグマを半焼け粗挽き肉にするくらいの出力はあったはずだ。それが光速という、実質回避不可能な速度で襲いかかる。
“ゲームバランス”としては、このくらいのレジスト能力が妥当なところだろう。
とにかく、ぼくは命拾いしたけど。
追いついてきたリビングアーマーが、雄大な軌道で斧槍を振り抜いたけれど――ドッコロニアンは、斧槍の柄の部分に無謀に挑みかかったかと思うと、流れるように受け流し、前転して逃れた。スタントマンが自動車に正面からぶつかるような光景だ。
五対一、それも元ボスエネミーを含む集団に包囲されて、この立ち回りだ。
五人パーティでの攻略が基本となる死にゲーでの大ボスを務めるには、これくらい化け物でなければダメなのだろう。
理屈ではわかるけど、もう帰りたくなった。
リビングアーマーの足元に踏み込んだドッコロニアンが、いよいよ両手の錘を振りかざした。
太鼓のような絶え間ない乱打でありながら、
とはいえ、さすがの超質量を誇る装甲であるから、ちょっとやそっとじゃ――いや、待ってくれ……。
リビングアーマーを一打するごと、ドッコロニアンの身体がこれ見よがしに蒼く明滅しているんだけど……。
エーテル光を蒼く着色したような、この
もしかしなくても、何らかの変異エーテルが作用してるよねこれ!?
リビングアーマーが、足元にまとわりつくドッコロニアンを煩そうに踏み潰そうとしたけど……ドッコロニアンが水平に脛を打った一撃が、ひときわ派手に巨大装甲をひしゃげさせた。
リビングアーマーは体勢を崩して片ひざをついてしまった。
ドッコロニアンの打撃力、上がってるよね?
それと、さっき石弾で撃ち抜かれた傷と、レーザーで焼き切られたただれが、どう目を凝らしても消えている。
着衣に染み付いたあいつ自身の血液だとか、レーザーで焦げたあとはそのまま残っているから……瞬時に治癒したとしか思えない。
減衰しながらも、命中は命中。
それを足掛かりにまた、
恐ろしいことに、
人間離れした速度であいつに肉迫して、切り上げ。これも躱された。間髪いれずほぼ一回転の水平斬り。
これはドッコロニアンも避けきれず、鎌が脇腹を結構深く抉った。
更に、
けれど。
致命的な血液の散水を胸から撒き散らしながら、ドッコロニアンは生き生きと、
彼はあの鉄壁の大楯で自身を覆い、双錘を受け止めた。
ドッコロニアンの動きを見れば、最初には無かった、何らかの物理演算優遇、あるいは
けれど、
それで。
やっぱりだ。
ドッコロニアンが彼の大楯を叩く度、あの変異エーテルの燐光が明滅して……せっかく皆で負わせた傷が、ぼくの目にもはっきりと治癒した。
そして、蒼く閃いた双錘がとうとう
もはや、まともに受けられない威力にまで膨れ上がったそれが、ついに
前のめりに突っ伏した彼が、動くことは無かった。
今しがた殺した相手に微塵も興味がないようで、ドッコロニアンは膝をついたリビングアーマーをすれ違いざま、ついでのように頭を叩き潰して即死させ。
獣じみた脚力で、ぼくに迫って、有無をいわさず錘でぼくの脳天を叩き潰した。
ぼくは、死んだ。
おそらくこのあと、
ぼくが特別ネガティブな性格だからとかでなく、確信があった。
おそらく、打撃を命中させるごとに自分を回復・強化する
そして「打撃の命中」とは、何も相手にとってのノーダメージでも構わない。
つまり、リビングアーマーと
装備に対して、相性が最悪だったんだ。
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