追憶11 本当は行きたくない(心折れた、AO)

 もうすぐ、“欲無き略奪者、ドッコロニアン”のに着くらしい。

 地球と等倍のこの世界、ボスエネミーというのも星の数ほど種類が誕生スポーンして、それ以降、一個の生物として生活を送っているんだ。

 寿命、ってわけでもないけど、一定期間そこで生きたあとに、彼らは人知れずゲームから消え去るらしい。そして、その枠にまた、全く違うボスエネミーが運営AIにデザインされて入れ替わる。

 これまで言及してこなかったけど、ちょくちょく他のパーティともすれ違っている。

 とはいえ、変異エーテル持ちのボスについては早い者勝ちではない。

 俗に“ボス部屋”と呼ばれるエリアは、並行世界への入り口と言う世界観設定に基づいた魔法障壁によって切り離されていて、パーティごとに別次元で同じドッコロニアンと戦うことになる。

 イメージとしては“ボス戦”という個室が無数にあって、パーティ単位で別個に案内されるような感じだ。

 だから、他人がドッコロニアンを仕留めて変異エーテルを得たとしても、それでぼくらの挑戦権と変異エーテルが無くなるわけではない。

 お陰で、ボスを取り合って他人と争う必要がないので、ぼくとしては気楽……、…………いや、もしも早い者勝ちであってくれたなら、ぼくはドッコロニアンに挑まずに済んだんだと思うと、やっぱり胃がキリキリ萎縮するのを感じたよ。

 いや、ぼくらみたいな庶民がゲームシステムの是非を語ったところで、雲上人の運営は何も変えないのだろうから、仮定するだけ無意味なんだけれど。

 現実の政治と同じだ。

 いえね、ただでさえ変異エーテル持ちの大ボスと戦うなんて、失禁しそうなほどイヤなのにさ。

 今回のターゲットを決めたJOUジョウさん、何も教えてくれなかった。

 HARUTOハルトさん達も、何も訊かないし。

 ぼくが訊けって?

 できるわけないよ。

 どうせ「いちいち訊くな!」と怒られる。

 どうするんだろう……。

 ボスに挑むなら、可能な限り事前情報を仕入れるのがこのゲームでの鉄則だ。

 それでなくとも、そこらの“雑魚敵”に即死させられかねないのは、さっきの巨人との戦いを見てもらってわかったろう?

 で、その事前情報というのは「そいつに殺された経験」というものも当たり前にふくまれるんだけどさ。

 ……まさか、そう言うこと?

 教える事は無いから、死んで覚えろっていう。

 結局、ぼくがドッコロニアンの変異エーテルを担当するってのを断りきれずに賛成してしまったんだけど……知る権利くらいは認めてくれてもよかったんじゃあないのかな。

 

 けれど、まあ。

 このパーティの人たち、ぼくが今まで出会ってきた中ではかなり異質だと思う。

 特にMALIAマリアさん。

 ――AOアオさん、おねがいします!

 ほぼ発狂状態の巨人の懐で、今にも潰される寸前。

 彼女は、ぼくなんかをアテにして、その危険を犯した。

 ぼくを、アテにしてくれたって、本当に思っていいのだろうか?

 彼女なら、真心から信頼してくれたような気がする。

 信頼している風を装った挙げ句に人を笑い物にするようなタイプではないと、思う。

 思い、たい。

 そんな“誘惑”にかられてしまう。

 色んな意味で、恐怖は常に感じている。

 そこへ射した、一筋の当惑を、もて余している。

 もう少し……このパーティにいようかな。

 どうせ、この上失うものも、ぼくにはない。

 生まれついての“持たざるもの”、“素寒貧すかんぴん”、何なら“生まれてくるべきではなかった”存在なんだよ。

 でも。

 こんなぼくでも――、

 前方、林立する木々が拓けてきた。

 広場となっているであろうその先を、霧のような、それでいて固体じみた質感の結界が覆っている。

 ボス部屋だ……。

 こんなぼくでも、やっぱり死ぬのは怖いよ。

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