追憶08 氷の樹に飾られた、さる湿地帯を進む平穏な時間について(MALIA)
時刻は、陽光やわらかな昼さがり。
わたしたちは、木道の整備された湿地帯を進んでいました。
主にハンノキなどの、ほっそりとした落葉高木が林立しており、灰褐色と控えめな
鏡面のような浅瀬は、澄んだ銀色のような透明をベースに青空と木々と、繁茂する茂みや苔の深緑を無秩序に吸ってながれていますね。
そんな中、目を引くのが、普通の木々にまじってぽつぽつ立っている樹のかたちをした氷柱でしょうか。
氷樹の太さはさまざま。
真っ白ににごったものもあれば、淡いすりガラスのように透き通ったものもあります。
比較的温暖な土地なのですが、これらの氷樹の存在する座標のみが低温と水分を維持されているのでしょう。
冷気のもやが、朝霧のようにうっすら、ふわっと、木々にそって流れています。
魔法の力場……なんて設定をとおしやすいVR世界ならではの光景ですね。
「きれいですね」
また、自然とその言葉が漏れました。
なんだか、「きれい」が口ぐせになってしまったようです。
でも、ほんとにそう思んですよね。
「綺麗っていうか、こうも樹が多いと、どこから何が襲ってくるかが不安ですよ……。ほら、それに、足場もそんなに広くないし、木造だから丈夫じゃないし、下は下で浅瀬っていってもやっぱり水場ってフットワークも乱れるし、それに、それに、」
「痛っ!? ひ、ひぃっ!」
「君は“言霊”と言う言葉を、少しは弁える事だ」
「す、すい、すいません!」
いったことが現実になったらどうするんだ、って意味でしょうけど、実際彼のいうことはもっともな気が……。
こ、これは少しかわいそうです。
「でも、ほら、
わたしは、もとよりいつでも振れるようにしていた大鎌を、大袈裟なくらいに構えていいました。
特にこの
「……根拠無き憶測と言うのは大抵外れるものだ。
口にした願いが大抵叶わない現実を思えば、
そう考えると前向きになれるだろう」
全身を覆い隠すほどの大楯“スクトゥム”と、“パイク”という細長くシンプルな長槍をどっしり構えながら行軍する
ああっ、ほら、口をへの字にしてうつむいてしまいましたよ……。
「何事も大切なのはバランスです」
「今、この時の世界を愛おしく思うことも、敵襲を予期するのも、どちらも同じくらい大切なことです。
そして我々は、しばしばそれを忘れてしまう」
さすが、リアルお坊さんです。
短い言葉に、全部つまってると思いました。
そして――。
ゆったりお話ししていた
「こんな世界です。どうやら、結果的には
わたしもすでに、鎌の石突きを相手側にむける脇構えに――いえ、すぐに判断を変えて上段構えに変えました。
ほかのみんなも各々に身構え、
細身のハンノキが何本か、繊維質な破断音をたてて折れました。同時に、氷樹が琴のように儚く美しい破砕音を立てて砕けました。
現れたのは。
これまた建物のように見上げる体躯の、ヒト型のなにかが二体。
先ほど、わたしが大鎌の構えをとっさに上段へ変えたのは、この大きさを悟った瞬間でした。
まだらに薄汚れた腰巻きしか身につけていない、しめ縄のような筋肉の束を誇示した、青白い肌の巨人と、褐色肌の巨人。
青いほうの巨人は自分の全身さえも霜に包まれるような冷気をまとっていて、原木を荒削りにした棍棒をまるで麺棒のように軽々もってます。
そして、足を踏み入れた水面が、薄氷になっては割れてを繰り返しています。
褐色のほうの巨人は、超乾燥肌で全身がヒビ割れていて、そこから、わだかまるような光熱が放出されています。
手には、これまた鉄柱じみた大きさと太さの
彼(?)の通った水場は、瞬間的に煮え立ち、気泡を弾けさせています。
氷と炎の巨人がふたり。
お互いの距離感といい、それが肩を並べてやってくる光景といい、巨人のうち氷のほうがお口をあけている様といい、大変うれしくない金剛力士像を目の当たりにした心地です。
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