追憶05 さるリビングアーマーを打倒した成果について(MALIA)
わたしも
彼にくらべたら、わたしなんて全然動いてなかったんですけどね。
ともあれ、リビングアーマーから結構な量のエーテルをいただきましたので、早速使わせてもらいます。
何はなくとも、身体能力の強化。レベルアップですね。
魔法を使う時のような、意識を馳せるような感覚です。
ただ、ミニ・コメットを撃っていた時は地面――つまり大地――に向けていたのを、今回は自分の体内に向けるイメージでしょうか。
また、“力”だとか“体力”だとかを漠然と指定して、AIにおまかせして上げることもできますが、自分で速筋か遅筋か、どの部位をどの割合で増やすかという細かいカスタマイズも可能です。
やっぱりアバターにはこだわりたいので、わたしはマニュアル操作派ですね。
……、…………はい。お待たせしました。
あんな凄まじいスケールのボスエネミーを討伐した報酬ですから、かなりのテコ入れができました。
身体がすっかり軽くなったわたしは、起き上がって大きく伸びをしました。
本当に、初戦から大変だったと思います。
わたしたちのパーティ、どのゲームでも割りとムチャしますから。
それで。
「
わたしは、これまで後方で戦闘を見守ってくれていた彼女におねがいしました。
「そうか。分かった」
彼女は軽く頷いてから、自身の中に蓄えた全能元素エーテルを放出、それは彼女の手元に集まりました。
そして、虚空に製図するかのように“それ”の輪郭が描かれ――キンっ、と急速に質量を得た音がしました。
彼女はその重みに一瞬、よろめきますが、杖のようにしてどうにか支えました。
漆黒を基調とした、大鎌。
彼女が、わたしのために用意してくれた武器でした。
わたしは、それを受け取りました。
うん。
やっぱり、こういう武器が一番手になじみますね。
これからは、わたしも前衛に参加できます。
そうすれば、もう少し
「今はエーテルが足りないので最低限だが、今後、付帯効果も検討しよう」
我が家の武器屋さんが頼もしく言ってくれます。
これでも充分ではありますが、その時があればお言葉に甘えましょう。
さて、わたしのおねがいを聞いてくれた
彼女がそれに触れると、流動するエーテルが、また凝るように手元に集まりました。
彼女はそれを、固いお守りみたいなものに封入しました。
これが、彼女の召喚士としての力です。
このくらいのフィールドボスまでなら、その存在情報を解析して“おなじの”を実体化させて戦わせることができるのです。
その強力さは、つい先ほど死にそうな(死んだ)思いをしたわたし達が一番身に染みていますね。
「これから“対話”に骨が折れるがな」
彼女は、そうも言いました。
そう、霊体を捕らえただけでは、喚び出したとしてもまた襲われるだけです。
しかもそれに消費されるエーテルはわたしたちのおサイフ(?)から出るわけで、喚んでまたやっつけても収支はゼロ。
そうならないように、捕らえた霊体のスクリプトを編集することで、調律……味方になってくれるよう“説得”しなければなりません。
気性の激しい魔人もいれば、気難しいデーモンもいれば、今のリビングアーマーのようにそもそも感情すらないのもいるでしょう。
他のゲームでもそうでしたが、
そして彼女は、色々な意味で後方支援に回ることで一番輝く人だと思います。
わたしたちが自作したスキルも、承認されやすくなるよう添削してくれるのも、彼女の仕事です。
正直、いろんなことを任せすぎて、無理をさせているのではないかと心配になりますが……。
彼女は「造作も無い」と、胸を張って言ってくれました。
こんな無慈悲な世界でも、彼女がいれば、わたしたちは背中を気にせず戦えます。
なお、脱け殻になったリビングアーマーの残骸ですが、これも
あれだけ視界を埋め尽くしていた巨躯が、夢幻のように消えてしまいました。
上級者プレイヤーの中にはエネミーの遺体を面倒で放置する方も多いそうですが、せっかくエーテルになるのなら分解までして損は無いでしょう。
ゴミ、って言ったら失礼かもしれませんが、誰かが掃除しないと腐ったり、このリビングアーマーみたいな無機物であれば永久にそこに残ってしまいますし。
一方で、あまりにもひもじく困窮してしまった方の中には、建物や木々、果ては地面の砂にいたるまでを分解してエーテルをかき集める人もいるそうですが……当然、ものすごく効率が悪いレートになっています。
その土地の環境が壊れますし、町とかでやると、みんなが拠点にしたい建物が廃墟になって迷惑なので、これもやめましょう。
さもないと、見かねたプレイヤーキラーに成敗されることもあるそうですし。
さて。
それでは、最後の仲間をさがしにいきましょう。
それから、五つの変異エーテル集めです。
忙しくなりますよ。
そして。
忙しいのは、いいことです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます