追憶04 もう勘弁してください(心折れた、AO)

 ぼくが死んでる間に仕留めてくれてたらなぁ。

 そんななけなしの希望は、即座に否定された。

 結局あのあと、二人ともやられて負けたらしい。

 そして、

「……勝つまでやる」

 リーダーがそんな事を言ったよ……。

 他の二人も、微塵も疑問に思わないらしく、リビングアーマーへの再戦が決まった。

 

「このパーティ抜けたい……」

 彼らに聴こえないよう、唇だけを泣き言の形になぞりつつ、ぼくは両手にナックルダスターをはめた。

 前方、建造物じみた質量のあいつが、性懲りもなく現れたぼくらを見るや、あの恐ろしい斧槍を手に取った。

 ぼくは、あの初見殺しの左手にビビりながらも、正面からあいつの足元へ飛び込んだ。

 水平に襲い来る斧槍をスレスレで躱し、返す刃で頭上から落ちてきたそれも、前転するように無理矢理潜り抜ける。

 即席雷光インスタント・サンダーをセット。

 あいつから見て脇の下、死角に潜り込み、脛に正拳突きを叩き込む。

 無音破撞拳むおんはどうけん。きっちりと圧力波をあいつの脚へ注入してやり、たたらを踏ませてやる。

 ぼくもぼくで、ほんの一瞬だけれど反動でその場に釘付けとなる。正直、漏らしそうなほど怖い。

 それで、あっちも前の戦いを学習しているのか、左手のバリスタを隠す事もなく、突きつけてきた。

 このタイミングで、即席雷光を左手に落とした。

 落雷によって狙点がズレ、ぼくを狙っていた大槍じみたボルトが地面に突き刺さって砂ぼこりを巻き上げた。

「ひぃっ……!」

 上ずった、情けない声が漏れるけど、足は止めていない。止めれば殺される。絶対そうだ。

 MALIAマリアさんのミニ・コメットによる三連岩石弾が、リビングアーマーに直撃。

 ぼくが食らえばぺちゃんこになるであろう威力だけど、あいつはよろめいただけだ。

「……合わせろ、AOアオ

 そして、ようやく間合いに追いついたHARUTOハルトさんが、無茶な事を言ってきたよ!?

「えっ? ぅ、ぇえ!?」

 HARUTOハルトさんは、あの“破壊隼はかぶさのけん(メイスだけど)”とも言うべき巨大鉄槌を、さっきぼくが無音破撞拳を突き込んだあたりへ、叩きつけた。

 がぃん、ぐしゃ――って音が二回鳴った瞬間に合わせて、ぼくは、彼が打撃を加えた方とは反対、裏側から拳を叩き込んだ。

 もちろん、無音破撞拳も忘れず放出。

 あいつにも骨とかあるんだろうか、とにかく脚を構成する何らかの器官がとうとう砕けたらしい手応えがして、崩落するように片膝をついた。

 そして、リビングアーマーの全身から、あのイヤすぎる魔法光が膨張。

 それが飽和する前に、ぼくは半泣きの顔で逃げる。

 光が飽和。

 気休めにしかならないけど、ぼくはしっかり身を引き締めて、襲ってくる衝撃波をブロックした。

 さて、さっきぼくらが砕いた脚が、これ見よがしに高濃度のエーテル光を帯び始めたよ……。

 もしかしなくても、回復してるよね!?

「……畳み掛ける」

 リーダーが事も無げに言った。

 いや、そうだけどね? それしかないんだけどね!?

 ほぼ徒手空拳のぼくに対し、あんな巨大なメイスを抱えているHARUTOハルトさんのほうが、どうしても鈍足になってしまう。

 で、MALIAマリアさんの攻撃手段も、目下、地属性魔法による掩護射撃しかないようだから、ぼくが前に突出する陣形になってしまうのは必然であり。

 なんでぼく、よりにもよってこんな身軽な戦い方ビルドにしてしまったのだろう。

 ホントに、あとに引けなくなってから、自分の要領の悪さに気づく。

 気付いたときには、全てが手遅れなんだ……。

 とにかく、回復し切られる前にやらないと。

 リビングアーマーが、跪く姿勢のまま斧槍を振るって来る。ぶっちゃけ、体格差を思えばそれだけで充分というか、ぼくらだって害虫を駆除するなら、むしろ姿勢を低くしたほうがやりやすかったりするよね。

 初撃は躱した。

 次、やっぱり頭上高くに振り上げてきた。

 あいつの斧槍を振るうリズムは、なんとなく身体が覚えつつある。

 このタイミングで斧の一撃が落ちて――来ない!?

 小さく跳び退いたぼくの眼前に、斧が落ちて

 依然として、持ち上げられたままだったんだ。

 フェイント。打撃に遅滞ディレイをかけてくるやり口だった。

「うわぁああアあぁあ嗚呼ァア!?」

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い! 未だ宙ぶらりんのまま振り上げられた斧が、どうしようもなく怖い!

 早く、早く振り下ろしてくれ! いっそ死なせてくれ! 楽にしてくれ!

 パニックになって足がもつれた瞬間、それがようやく降りてきた。

 MALIAマリアさんが、ミニ・コメットの要領で、またリビングアーマーの足元から岩石を切り出した。

 リビングアーマーは体勢を崩しながらも、けれど斧の軌道を瞬時に補整してぼくを真っ二つにする姿勢を崩さない。

 HARUTOハルトさんが割り入り、あいつの斧を力任せに弾いて、ようやく、斬撃が逸れてくれた。

 ほとんど振り回されるようなフットワークのまま、ぼくは一心不乱にリビングアーマーの脚をまたぶん殴り、よろめかせ。

 HARUTOハルトさんも同じ部位をまた痛打。

 リビングアーマーが、前のめりに倒れた。

 HARUTOハルトさんが地獄送りの錫杖を、ひときわ大きく振りかぶる。

 ぼくは跳躍し、リビングアーマーの頭部めがけて縦一文字にかかと落としを叩き込んだ。

 靴に、甲冑とほぼ同等の装甲を仕込んである。

 でないと、ただでさえ、ぼくの打撃はこういう重装備の相手には分が悪い。

 そして、HARUTOハルトさんが満を持して振り下ろした巨大鉄槌が、とうとうあいつの頭部を叩き潰した。

 着用者のない巨大鎧は、全身にわだかまらせた魔法光を消して、そして、完全に機能を停止した。

 停止……したんだよね?

「……素晴らしい連携だ。君と組めて良かった。幸先が良い」

 リーダーが、余裕で何か言ってるから、ホントにリビングアーマーは死んでくれたんだろう。

 というか、あいつが内包していた全能元素エーテルが、ぼくの身体にも流れ込んできたし。

 エネミーが死んだ、何よりの証拠だ。

 心身の疲れがどっと押し寄せてきて、ぼくは生気の失った調子で大の字に倒れた。

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