追憶03 ぼくの失敗歴に新たなる1ページが(心折れた、AO)
どうしていつも、やることなす事、裏目に出るのだろうか、ぼくは。
もうイヤだ……。
なんの事かって、今回参加したパーティの事なんだ。
見るからに真面目そうな男の人と、とても優しそうな女の人、そして――何よりありがたいのが――ぼくに対して無関心でいてくれそうな冷たい感じの女の人で構成された三人パーティだった。
怖くない人達であれば、それで充分だったはずなんだ。
実際、三人ともいい人さ。
けどね。
ぼくに対して優しくても、ぼくを巻き込んでぶっ飛んだ事をしでかす人もいるんだって、今、思い知らされてる。
彼らはあろうことか、ぼくが加入して即、最低限度の準備だけであの鎧みたいな巨人――リビングアーマーに戦いを挑んだんだ。
あ、申し遅れたけど、ぼくの名前は
「このパーティ抜けたい……」
いや、面と向かって相手に「辞めさせてもらいます!」って言う甲斐性すらぼくにはない。
あの、建物じみた、他のゲームならどう見ても終盤で戦うようなボスキャラに、格闘を挑むほうがまだマシなんだ……。
ぼくは“
魔法の効果はすぐには出ない。理由は後述。
見上げるリビングアーマーが、虫ケラ同然なはずのぼくの存在を認知しているようで、片手で軽々持ち上げた斧槍を大きく旋回させた。
その余波の野太い烈風だけで、ぼくみたいなモヤシは吹っ飛ばされてしまいそうだ。
「う、うわぁぁあアァ!? イヤだ、怖い怖い怖い!」
肉厚の斧頭が横薙ぎに爆走してくるのを、ぼくはギリギリまで引き付けてから、最小限のスウェーバックで回避。
にわかに激しい光と、鼓膜を裂くような音。
長城のように伸びきったリビングアーマーの腕に、ぼくがさっき、このタイミングで落ちるようセットした即席雷光が直撃。
網膜にか細い筋が残る程度の、はかない威力ではあるけど、あいつの腕がびくりと痙攣はしたみたいだ。
そこへ精一杯の速さで踏み込んで、あいつの手首へ、ぼくの右拳を叩き込んだ。
指にはめたナックルダスターにガッチリと衝撃が伝わったと同瞬、ぼくは足腰に全力を込めて腕に力を伝えた。
ぼくの身体を通して波動のようなものがほとばしり、ナックルダスター伝いにリビングアーマーの腕まで到達。そのばかでかい腕を、内側から打った。
一応“
けれど……ああ……リビングアーマーの腕は少し怯んだだけで、すぐに跳ねあがったよ!
咄嗟に退避したつもりだけど、槍の先端がぼくの左腿を掠めて、結構な深さをえぐった!
「痛い痛い痛い痛い! あァあァアぁ!?」
血が! 血が出た! 血が出たじゃないですかァ!?
脚が動かなくて、ぼくはその場に尻餅をついた。
リビングアーマーは片手に持つ斧槍を大きく引き戻して、なおもぼくを狙いすます。
こ、こ、殺される!
ぼくは脚が動かないので、両腕の力で逆立ちするように跳んだ。
殺される殺される殺される殺される。
宙で翻りながら、ぼくは一生懸命回復魔法を唱え、傷ついた左腿を復元。
けれど、血も涙もないあいつは、なおも執拗に、ぼくに斧槍の照準を定め――、
遠くあいつの背中で、とてつもなく大きな飛来物が直撃。跪くように地面に手をついた
彼女の背丈くらいはある岩が、かなりの速度で命中した。さすがの巨物も多少は体幹が揺らいだ。
続けて
自動車が真っ向からぶつかり合った時のような金属悲鳴が二回、確かに響いて、リビングアーマーはついに片膝をついた。
コケる様さえ、建物の倒壊じみた迫力だ。危うく潰されかけたし、心臓が止まるかと思った。
あの大型メイスは確か
ゲームっぽく言えば“二回攻撃”の付帯効果、という感じかな。
元々あんな大きな鉄塊みたいな打撃武器だ。それを大の男がフルスイングした衝撃が間髪入れず二回加わる。少なくともぼくが殴られたら、ひとたまりもないと思う。
彼は、リビングアーマーが立ち上がらないよう、ダメ押しに鉄槌を叩き込み続ける。
リビングアーマーの直下にあたる地面が砕け、ただでさえ体勢を崩していた巨躯が大きく傾いだ。
足場が不安定になったリビングアーマーは、跪くような姿勢から、苦し紛れに槍を突き出してきたけど、さすがに精細を欠いている。
ぼくはそれを躱し――リビングアーマーの継ぎ目から漏れ出していた魔法光が膨張したのを目視した瞬間、全力で跳び退いた! 仲間二人も同様に退避!
遅れて、リビングアーマーを中心とした全方位に固体じみた圧力波が放射。
かなり間合いを離してでさえ、ヘビー級ボクサーにぶん殴られたような痛さだ。あのまま懐に居続けていたら、全身の骨がバラバラになっていたよ……ホントに泣きたい気分だ。
けれど、リビングアーマー側の反動も相当だったろうし、こんなあからさまな近接拒否を仕掛けてくるということは、あいつも弱ってきているかも。
いや、都合のいい想定はやめておこう。どうせいつも、ぼくの希望は土壇場で潰されるんだ。
とにかくぼくら三者、各々、リビングアーマーを囲うように最接近を仕掛ける。
起き上がり様に、斧槍がまた振るわれた。
無理な体勢から振るわれたというのもあるだろうけど、心なしかぼくも、あいつの斧槍に慣れてきた気がしてきた。
気のせいかもしれないけど。
視界をうめつくす刃を掻い潜り、ぼくは再びあいつの懐へ踏み込んで、
リビングアーマーが、唐突に上体を翻し、斧槍を持たないほうの手を向けてきて。
あぁ……建物じみた体躯を前にして感覚が麻痺していたけど。
あんな長柄武器を両手で使わないのってなんでだろって、何となく思ってはいたよ。
リビングアーマーは、ずっと遊んでいた左手をぼくにかざしてきて。その先端は、手甲に隠されるような形の
真正面から鉄柱のような大ボルトに撃ち抜かれたぼくは、面白いように真後ろへぶっ飛んで、ほぼほぼ即死した。
頑張ったけど、やっぱりダメだったよ……。
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