精霊のお仕事! ~修復部隊編~

ランドリ🐦💨

水浸しの街をなんとかせよ!

 精霊の修復部隊が次の仕事を待つ待機所にて。

 迅速に仕事内容を共有する為のスピーカーから声が流れてくる。その横にある発信者の位置情報を表示する液晶ディスプレイは街中を指し示していた。


『もしもし魔法少女保険ですポン?』


「この語尾は」と熟練の修復屋である数体が立ち上がった。


 立ち上がった仲間に残りの修復部隊も顔を向ける。


『主に大量の海水ポン』


 そのスピーカーからの声と、街を指し示した位置情報に残りの全員が立ち上がった。


 ――街中に海水なんて絶対にろくでもない事になっているに違いない。


 次々に現場への転送用魔法陣に飛び込んでいく精霊たちの姿はまちまちで、ゴリラにペンギン中にはライオンなどの姿をした存在達が宙を浮かび飛び込んでいく。


 その大きさは三十センチほどと小さい為、縮尺が狂っているような光景だ。


 精霊たちは主に動物類の姿なのだが、修復部隊として派遣される精霊の姿は街中になかなか現れない動物のモノが優先されるのだ。野生動物との誤認を防止する為である。


 十秒もしないうちに、部屋からは誰もいなくなった。


 #####


 転移で到着したのは水浸しの街。

 強い潮の匂いに海辺だと勘違いしそうになるが、ここは海から遠い街だ。所々で上がる黒煙が細くなっているので、海水で火災をまとめて消火したというのが真相だろう。余程の速さで悪魔を撃破したのか、人々は逃げ惑うことなく呆然と精霊達を迎え入れた。


 現場に到達した精霊たちが最初に行うのは、人間の負傷度合いの確認だ。

 この修復部隊の派遣は人間への広報活動も兼ねる為、負傷者に対しての対応は最重要の仕事に位置づけられている。


「けがをしている方はおりませんか~?」


 海水でずぶ濡れになっている人々をライオンの姿をした精霊が乾燥した息を吹きかけて乾かしていく。その背中に乗るペンギンは名乗り出た人の怪我を赤い十字の書かれた肩掛けカバンから取り出した薬で癒す。


 ハリネズミ姿の精霊が両前足を空に掲げる。

 すると、空中に街を濡らしていた海水が集まっていき、巨大な水のボールが完成した。


「で……。この海水はどうする? 川に流すと生態系が心配だ」


 しかし処理方法は考えていなかったのか、冷や汗を垂らしながら処理案を募る。

 その様子を見るに無理をしているので、長くは持ちそうにない。


 自信のありそうなカバ精霊が案を口にした。


「海の物は海に返せばよかろう。しばし待て、陣の構築に時間がかかる」

「ああ、任せる」


 その即興案に乗ったハリネズミ精霊は、額に汗を垂らしながら海ボールの維持に集中する。


 カバ精霊は座禅を組むようにして平らな前足後ろ足の裏を合わせつつ地べたに座り込むと、つぶらな目を閉じて瞑想する。


 ――カバ精霊を中心に巨大な魔法陣が展開されていく。


「【上位空間術式てんじてうつれ】!」


 カッと目を見開いたカバ精霊が両前足を振り上げて大地につけると、巨大な魔法陣は光り輝き、ひときわ強く輝いて魔法陣は海ボールと共に姿を消した。


 カバ精霊はそのままへたり込む。


「無茶をしたみたいだな。どこに飛ばしたんだ?」

「近海に飛ばした。助かる」


 ハリネズミ精霊がカバ精霊を助け起こしていると、サイレンの音が聞こえてくる。


 どうやら早くも対応する人間が来たらしい。

 任せられる事は人間に任せた方がいいので、精霊達は軽く周辺を修復すると、来たときと同じく一瞬で消えた。


 後に残されたのは潮っぽい香りの漂う街。

 パトカーや救急車から降りた者達の目に飛び込んできたのは、乾いた服をペタペタと触ったり、じっと空を見上げている市民達の姿であった。


 少々力技ではあるが、こうして街の平和は守られた。

 魔法少女が破壊し、精霊が修復する。お互いの得意なことをやっているのである。

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